54パン職人の修造  江川と修造シリーズ I’m not a hero

このお話は『赤い髪のストーカー』で4人組の男にボコられた修造が救急で搬送され一時危篤状態になっていたが、本来丈夫に生まれついた修造が徐々に回復してきた所から始まります。


I’m not a hero

修造の妻律子はNN病院の個室のベッドの横で心配そうに修造の顔を覗き込んでいた。
修造は時々目を覚まして律子の顔をじっと見ていたと思ったら、手を繋ぐジェスチャーをして差し出した右手を握ってまた安心したかの様に眠りについていた。
一週間もするとずいぶん体力が回復してきたのか点滴の袋も一つになり気力も戻ってきたなと瞳を見つめて分かるほどになっていた。

良くなって来たから安心したわ。後は日にち薬ってお医者様も言ってたし」
「ごめんね律子、心配かけて」
「子供達も心配して初めのうちは緑も大地もワーワー泣いてたわね。今は家でお父さんとお母さんが見てくれてる。みんなにも元気になってきたって教えておくわね」
「みんなに申し訳ないな」
「修造が悪いんじゃないわよ、警察も強盗未遂及び傷害事件って言ってたし。犯人は全然知らない人達なんでしょう?」
「そうなんだよ」
「修造が眠ってる間にね、江川さんはお店の周りや駐車場のあちこちに防犯カメラを付けたり警備会社と契約したりしたらしいわよ」
「江川には怖い思いをさせたから無理もないよ」
「江川さんも大変だったんですものね」
「抜けた分忙しくさせて申し訳ないな」
「後で電話してあげる?お店の人たちも安心するんじゃない?」
「そうだな」

修造がいつまでも手を握っているとそこに藤岡パンの御曹司藤岡恭介が入ってきた。
スーツの似合う爽やかイケメンだ。
「入って大丈夫ですか?」と言いながら静かに入ってきた。
律子は布団の影に握った手を隠してからそっと離した。
「藤岡さんこんにちは、すみませんお忙しいのに。私飲み物を買ってきますね」
「すみません奥さん」藤岡は笑顔を向けて律子が出ていくのを見送ってから修造の横に座った。

「大丈夫なんですか?修造さん、4人組に本当に覚えがないんですか?江川さんから強盗だったって聞いてます」

「強盗だったかは疑問だ、振り払ってもすごくしつこくて俺の事を狙ってるように思えたんだよ」
4人とも亡くなってしまってはもう何もわからない。あの時の自分はなんとかあの男達が逃げるか自分が逃げるかばかり考えていたが、4人があんな風に亡くなってしまうぐらいなら四肢を叩き割ってでも警察に突き出した方が良かったと修造は後悔していた。

「それで」藤岡は修造にやや体を近づけて言った。
「昨日うちの工場の方に鴨似田フーズの歩田がやってきて教えてくれたんですが、亡くなった4人の中の一番年配の男は常吉ホールデイングスの社長なんですよ」

「うん、そうなんだってな」それが何故リーベンアンドブロートに来たのかも分からないし自分となんの接点があるのかも分からない。常吉ホールデイングスの事は警察の事情聴取で聞いていたが本当に聞き覚えがない名前だった。

「歩田は常吉の経営する店舗の中にGlänzender Kuchen(光るケーキ)っていうドイツのお菓子とケーキの店があったので関係があるとしたらそれではないかと言っていました、それを聞いて俺も行ってみましたが休業中でした」

「Glänzender Kuchen、、、」修造はまだ本調子ではない頭で考えて、その名前にまつわる『ある女』の事が頭に浮かんだ。
その途端心底驚いた表情になり目を見開き急に黙り込んだ。

視線を落とし一点を見つめている険しい表情の修造を見て藤岡も驚いた。

「心当たりがあったんですか?」

「いや、、分からない」

「そのケーキ屋なんですね」顔が青ざめて来た修造を見て分からない様には思えないなと藤岡が思ったその時、律子が飲み物を買って戻って来た。

「修造さん、また何か分かったらお知らせします。入院中の修造さんに疲れさせる様なことを言ってすみませんでした」藤岡は立ち上がってドアの所に向かった。

「ありがとう藤岡、聞いて良かったよ」
藤岡は会釈をして病室をでた。

「もうお帰りなの?」

「うん」

さっきまで少し回復してきたと思ったのに疲れた表情の夫の顔を見て律子は「やっぱりそんなに早く治るわけないわよね、子供達は週末に連れてくるとして、今日はもうお見舞いは断っておくわね」と言って江川に電話をする為に部屋を出た。

修造はまるでおさらいをするかの様に事件の全てを思い出し、常吉の言動から見えない何かを探ろうとした。

いや、まさかそんなはずは無い、しかし偶然はもっと無いだろう。

その言葉を頭の中で繰り返し、それ以降修造は常吉の襲撃事件について自分からは口にせず、人から聞かれた時も分からないとしか言わなくなった。

次の日

あの男がやってきた。

午前中の回診が終わり修造はベッドに横になっていた。

突然病室のドアがバッと開き、見慣れた営業スマイルが飛び込んで来た。

「やあやあ修造シェフ、お加減はいかがですか?」

「あっ後藤さん」

「そう、私基嶋機械の後藤がお見舞いにやって参りました」と、後藤は両手を広げて大袈裟に言った。

「今はまだ面会時間じゃ無いですよ、それにどうやってここを知ったんです?」
実は修造は見舞客の対応が苦手なので江川に口止めしておいたのだが。

「江川さんが教えて下さらないのでご自宅にお電話したらお義父様が教えて下さいましたよ」

義父の巌が言ったのなら仕方ない、修造は身を起こした。

「シェフ、空手の大会で優勝なさるぐらいお強いのにどうなさったんですか、強盗なんてふわっと振り払って下さい」お見舞いの花を花瓶に入れながら後藤はニコッと笑い、以前よりも目尻のシワをクッキリとさせた。

「漫画のヒーローなら追い詰められて特別な力が突然芽生えたりするんでしょうがふわっとなんてそんな訳にいかないですよ」

「うふふ、シェフはパン界に必要不可欠な存在なんですから、はい、これ食べて元気もりもりになって下さいね」と言って駅で買ってきた豆狸のいなり寿司を差し出した。

余談だが修造は高校を卒業して初めて東京に来た時、駅でこのいなり寿司を買い「こんな美味いものが東京にはいっぱいあるのかと感動したとか。

「美味い、わさび入りが好きです」好物のいなりを口に運ぶ。

「他の味もありますよ、これは五目、これはアサリ入り」
「選ぶ楽しさがあって良いですよね」と手を伸ばしかけてハッと手を止めた。

後藤の事だ、ただの見舞いなわけが無い。

嫌な予感がして後藤の顔を見た、すると後藤はにっこり笑ってA 4サイズの紙を両手に持ってヒラヒラさせながら「修造シェフ、入院してらっしゃる時に言いにくいですが基嶋機械主催の講習会の日付が15日後に迫って来ました」と言った。

「15日後!」それは修造が講師として参加する飾りパン講習会の参加申し込み用紙だった。

「そういえばそうだった」ゴタゴタしていて忘れていた。

修造の顔写真とプロフィールが書いてあって下にあるQRコードから申し込む様になっている。パン屋や企業に配布して募集を募るのだが、実はすでに満員になっているらしい。
そもそもこの講習会も後藤のゴリ押しで引き受けたのだからなんとなくひと事感が抜けず「延期にできないんですか?今入院中だし」と言って点滴の針が刺さった左手を見せた。

「普段講習会に出ないシェフが講師をやって下さるんですから、皆さんこの日を楽しみに都合を合わせてますのでねぇー」

「分かりましたよ、でも準備が出来ないじゃないですか。俺もやる以上は半端な事は出来ないんですよ」

「あー困りましたね、こんな事になるなんて、ねぇ修造シェフ」と言って後藤は修造の返事を待つ為にそこだけ無言になった。

「あー」医者から言われている退院予定日は来週だ、半月後の講習会の日には一週間しかない。

「ねえ、修造シェフ」

仕方ない!修造は口をへの字に曲げて首をうんと縦に振った。


ーーーーー


一旦やると決めた瞬間からそのことが頭から離れないのが修造の悪い癖だ。

消灯後もベッドの中で細かく計画を練ったり、忙しい江川に頼んで必要な材料を頼んだり、デザイン画とか設計図みたいなものを描いたり、サポートスタッフとして江川、岡田、大坂、立花を呼んで打ち合わせをしたりと準備を万端にして退院日を迎えた。


久しぶりのリーベンアンドブロートには律子の言っていた通りあちこちに防犯カメラが付けられていた。
江川は両手を握りしめながら「もう大丈夫です!何かあったら警備会社に連絡が行くようになってますから!」と息巻いた。
こんなにカメラがあったらお客さんが怖がらないかなあと思ったが言わないでおいた。

修造は仕事を片付けたあと、講習会のための練習と飾りパンの作成に取り掛かっていった。当日はあらかじめ作ったものと現場で作るものとを用意するつもりでいたのだ。
だがそれと同じぐらい修造にはやらなければならない事があった。

次の日

久しぶりの上越妙高駅

修造は北陸新幹線はくたかから降りて上杉謙信の像を仰いだ。


広い敷地に重厚な建物のブーランジェリータカユキに着いた修造は「ほー」っとため息をついて店内の美しいデニッシュやクロワッサンの数々を眺めた。相変わらず客が長い行列を作り、店内に入って来たら勢いよくパンを選ぶ、ただしパリパリのデニッシュやクロワッサンを持つときはそーっとトングで挟んでトレイに乗せた。


修造がその様子を楽しそうに見ていると「久しぶりだね修造君」店主の那須田が奥から出て来て中に手招きをした。

「まあ座れよ修造君」早速美しい※パンスイスやバイカラークロワッサンとコーヒーなどを出して貰った。
「うーん美味い、そして美しい」
感動しながら食べていると「君、大丈夫なの?大怪我して入院してたって聞いたけど」那須田は隣に来てコーヒーを飲みながら修造の顔の傷跡を見て言った。
「色々あって寝ていられなくて」
「君も大変だなあ」
「シェフ、今日は全てを教えて下さい」
「君に頼られるなんて嬉しいなあ、なんでも聞いてよ」
「はい」
その後修造はエプロンを着けて、手伝いながら那須田の神業すぎる手捌きを見て全てを記憶に刻み込もうとした。
「懐かしいなあ、君がここを訪れるなんて選考会の前に修行に来て以来だね」※生地にバターを織り込みながら那須田が言った。
「はい、あの時も勉強になりました。その後も何度か会ってますが」
「その後お義父さんとは上手くいってるの?」
「はい、あの時はギクシャクしてましたが今は協力して貰ってます」
「そりゃ良かった」

那須田は最新のペストリーの成形を夜通し修造に教えるために惜しみなく技術を見せた。
「那須田シェフ、イタリアの雑誌に紹介されてましたね、俺誇らしいです」
「そう?プロが撮った良い写真だったね」那須田は満足げに答えた。
「シェフはどんな先生にパン作りを習ったんですか?」
その質問を受けて那須田は何か考えてから言った。
「僕の先生はね、世界各国を巡ってパンを学び、そしてそれを生徒達に教える素晴らしい先生なんだよ。あの人の面白くて知識の詰まった話に夢中になったし技術を身につけて貰ったんだ」
「へー!そんな凄い人なら俺も会ってみたいですよ」
「、、、修造君、その先生は君に会ったらこう言うだろうね。全ての事を自分で乗り越えろってね」
「何故か俺にだけ厳しいんですか?」
「ははは、どちらにしろ外国を飛び回っていてどこにいるのやら」
修造はナイフで均一に生地をカットし続けながらある事を思い出した。

そうだ、今の話はパンロンドの親方に聞いた事がある。※バゲットジャンキーの話そのものだ。
「シェフ、バゲットジャンキーって聞いた事ありますか?」
「あるけどそれって都市伝説みたいなものじゃないの?」
「シェフの先生の名前ってなんですか?」

その時窯のブザーが3段とも一斉に鳴った。
「ほらブーブーなってるぞ!焦がしたら努力が水の泡だからな!」
「はい」

その後も修造は何度か同じ質問をしたが何故か上手い具合にはぐらかされて結局聞き出せず。

講習会の前日

修造と3人のスタッフは基嶋機械本社の会場に来ていた。
会場の奥には製パンの為の機械が並び、その前には講師と製造工程がよく見える
作業台がある。
そしてその前に受講者50人分の2人掛けの長テーブルと椅子がそれぞれ用意されている。

4人は打ち合わせをした後、前日準備を始めた。

「修造さん、体調大丈夫なんですか?」大坂が心配そうに聞いた。
「うん、完全に本調子って訳でも無いけど明日は頑張るよ」
「本当は修造さんなら4人ぐらい倒せるのにいざ実戦で戦うとなると抵抗ありますよね。俺ならどうだっただろうな」
「そうだな、すごく抵抗あったよ。試合でも寸止めなのに直当ても躊躇った」
「結局亡くなったんでそれもモヤモヤしますよね、でも修造さんが悪いわけじゃないんだし、今は身体を労って下さい。俺たちも上手くサポートできる様にもう一度打ち合わせをしておきます」
「うん、ありがとうな」
そこに後藤がやってきた。
「修造シェフ!お怪我の完治もそこそこにお越し頂いて誠にありがとうございます」
それを聞いてお前が呼んだんだろうがという目で後藤を見た、後藤は視線に気がついて目尻と頬の笑い皺をさらに増やして微笑み「明日は皆一丸となって頑張りましょう」と両手を挙げて言った。

「江川」
「はいなんですか」
「あれ、後藤さんと練習しといて」
修造に言われて江川は後藤と電気を消したり付けたり何度かやってみた。
「電気を消して下さい」
「はい江川さん」後藤はニコニコして会場の電気を消した。
「今度はつけて」
「はいはい」

はてさて、それが講習会となんの関係あるのか。




飾りパン講習会当日


会場にはバスに乗って講習会の勉強をしにくるパン職人、パン学校の生徒などが次々やって来て10時の開講前には会場は満杯になった。

始まりの合図までは作業台の上と天井に2箇所付けられているモニター画面に最新式の製パン機械が次々と映し出されている。
講習会の始まり、後藤がマイクを持って挨拶した「お集まりの皆さん、本日は基嶋機械の飾りパン講習会にお越し頂きありがとうございます。私営業の後藤でございます。皆さんもご存知の事とは思いますが先日田所修造シェフは強盗に襲われて瀕死の重傷を負われましたが、こうして無事回復してこの講習会に出られました。凄い体力!凄い精神力です。では修造シェフ、ご挨拶をお願いいたします」大袈裟な身振りで腕を上げて修造に話を振った。

修造は耳掛け型マイクをしていて、いつまで経っても装着感が苦手で慣れないまま、前にびっしり座っている来場者にペコっと頭を下げた。
当たり前だが皆こちらを向いている。
冷や汗が流れた。
「どうも、えー、ご心配をおかけしましたが日毎に調子が元に戻りつつあります。今回の事件は油断して誰が来たか確かめもせず裏口のドアを開けてしまったのがいけなかった。皆さんもどうかご注意下さい」辿々しく挨拶をしながら皆に配布した何枚かのA4の資料を手で持って1枚目を捲った。

修造は今日作るパンの説明を一通り行なって製造に取り掛かった。
手元は天井に取り付けられているモニターの画面に大写しにされていて、後に座っている人達にも見える様になっている。
生地は発酵時間の兼ね合いからあらかじめ出来た生地で、それを使って成形から始める。
作りながら話すのが修造にとって最も苦手な事なのでマイクを持って横に立っている江川に手順を説明して貰う。

「今作っているこちらは日本らしい古物のイメージで作られた物です、順に工程と配合を説明します」江川は工程を見ながら詳しく説明をしていった。


立花が材料を揃え、大坂がテキパキと焼いてそれを作業台の前に設置したテーブルの上に並べていった。


講習会の楽しみは試食が何度もある所だ。


序盤では、生地の伸展性を見たりする為に紙皿に乗せた生地を前から順番に回していって皆伸ばしたり薄さを確かめたり、使っている材料をテーブルの上に用意された試食用のスプーンで掬って味を確かめたりした後、いよいよ出来たパンがカットされて配られる。
受講者は皆香りを嗅いだり手でパンを伸ばして千切ったり味を舌の上で分析したりするのに余念がない。

お昼になるとカイザーゼンメルに立花と江川が生ハムとチーズを挟んだ物とクロワッサンが出てきた。試食で結構お腹いっぱいでもこれはペロリと食べられる。

食後、参加者のお腹も膨らんでいる事と、朝早く仕事を終わらせてきた職人も多く徐々に眠くなってくる。眠くないふりをしながらウトウトし続けるぐらいならちょっと伏せって眠った方がその後すっきりする。何人か船を漕いでる人が増えているのを見ながら修造はそんな事を考えていた。

さて、午後からはいよいよ飾りパンの製作。

飾りパンはパン・アーテイステイック、パンデコレ、デコリエテスブロートなどの呼び方があり、主に観賞用の芸術的なパンの事。コンテストによっては使う色の制限があるものもあったり、大きさの制限もある。このお話でも修造が飾りパンに挑戦していた。

パンでできたパーツを組み合わせて形を作る。紙や木の板で型紙を作りそれに沿って生地を切り取るものもあるが、わざわざ専用の型枠を作ってそれで抜き取るリッチでタイパの良いものもある。

焼けてきた生地を冷ましてそれぞれ小麦粉で作った糊や焼けたパーツを水飴などで付けていく。


誰も見たことがなく、ワクワクするものをと修造が考えたのは日本の国技「相撲」と「ロボット」を組み合わせた飾りパンで。ロボット関取と組み合わせるのに機械的な牡丹と椿、松を組み合わせた。

この様なコンテストによっては横幅が決められており、その幅からはみ出すことが出来ないものもあると江川に説明して貰った。

終盤

また別の飾りパンが組み立てられていく。

パーツを合わせ、段々形になっていくのが見ていて楽しい所。

修造は細かい部品のパネルの様な生地を組み合わせていった。
まるでプラモデルを素早い手捌きで作る様だ。
どうやら宇宙船らしいと気がつくと、皆近くに行って見たり写真を撮ったりした。

修造は講習会の終わりが近づいてきた事と、作業の手が空いてきた事もあって周りの人達に話し出した。
「これは自分の持つ宇宙船のイメージを形にした物です。内部には色をつけた飴がはりつけてある」そう言って中に仕掛けてある電球を付けると宇宙船のなかから光が漏れた。

「これは単体だと一つの物体ですがストーリーを意識して作ると見る人に分かりやすい。つまりイメージを連想して貰うんです。さっきの相撲ロボットは見ていて楽しいが動きはありません。こちらの」と宇宙船を指し「これだけではただの宇宙船だけどこれの角度を変えると」と言って修造は宇宙船の角度を変えてみた。
「こうすると素早く移動してる様に見える。そこに背景をつけてみます」そう言いながら合図すると江川と岡田が後ろに黒い衝立を立てて惑星を手前に置き、後ろの惑星は席に座ってる者から見ると浮いてる様に取り付けた。

そのあと皆が見守る中、先程組み立てた小型の宇宙船をセットした。

「これにも角度をつけてみます」と手首で角度を調節して上からライトで照らしながら修造が目を向けると、江川が後藤に「すみません、電気を消して下さい」と例の段取りで合図した。

練習通りパッと電気が消えると、大型の宇宙船とそれを追いかける小型宇宙船が素早く飛んでいる様に見えた。



「もう出尽くしたと思うかもしれないが普段過ごしていて日常のあちこちにヒントがあります」そう言ってそう言って作業台の前のパンが並んでいる前に立ち、上に和柄のステンシルが施されたカンパーニュを持ち上げた。
「例えばこのカンパーニュの柄は知り合いの着物屋に置いてあった帯にインスパイアされた物です。柄をそのまま使うのではなく、自分の中に沢山のものを取り込んで自分なりに記憶を形にする。これはこの講習会の為に作ったものです」修造は柄を見せた。


「自分たちは日本の国でパン作りをしてるのだから普段から日本の芸術や美術に触れてそれを沢山記憶に取り込んでいくと良い。それをデザイン画にして、実現する為の練習を始め、「形にする」作業をするんです。俺は修行時代に大木シェフに言われた言葉があります。それは『木を見て森を見ず』って言葉です。細かい技巧に囚われて全体像を想像してないって事です。遠くから見た自分の作品をイメージして、実際に作った所を何度も見てみたら良い。自分の作った作品をしばらくして見てみると改善点が分かるかもしれない。コンテストに出るなら審査員がどんな感想を抱くのか想像してみるのも良いと思います」

修造は普段あまり話さないがこんな時は口数多く話す。

「飾りパンにも色んなパターンがある。平面を組み立てるもの、織り込んで立体感を持たせるもの、固めて立体感を作るもの。より自分のイメージに近い素材を考えてパーツを決めていく。自分がどこまでこだわれるか、それが作品に投影される。そしてパンで様々な素材を作り出して使うとこの世で無二なものができる」


そのあと修造は2種類の編み込んだ生地の焼成後の物を見せた。一つは編み込んだ縦と横の紐状の生地同士が引っ付いてしまっている物。もう一つは縦と横がパキッと質感が表現出来ているものだ。


「一見簡単そうに見えますが、柔らかすぎて生地と生地が引っ付いてしまうとなんともダサい感じになってしまう。本物の質感を追い求めて何度もやってみて最適な固さと素早さを練習するんです」


そう言って修造が話してる間に江川と立花が用意した細長い生地を今度は布の様に編んでみせた。

「これは世界大会で使った編笠の枠を使っています。そこに生地を編み込んでいきます」

本物の編笠ほど細かい編み目ではないがサッサッとリズム良く生地を編み込んでいき、皆に見えやすい様に掲げた。
「これも何度か練習しました。自分の場合、助手の江川と一緒にベッカライホルツに通わせて貰って大木シェフに色々教えて頂きました。その時の経験があるから今の自分があるんです。この中にはパン屋のオーナーでなくてお勤めの人も沢山いると思います。何回も練習するのは仕事しながらとか、材料費などの金銭的な事、場所の事など様々な問題がありますが、オーナーと相談して協力してもらいながら自分の技術を育てていって下さい。そして技術を身につけて下さい。自分は空手の師範にこの様にいつも言われていました『誰がみても良い型をすると何人かの審判も旗を上げざるを得ない』つまり審査員も好みがある、しかし多くの人の胸を打つものができれば票は割れたりしません。是非それを見つけて下さい」
修造が一礼してそう言い終わると満場の拍手が起こった。


後藤は一際大きいリアクションで拍手しながら感動して泣いていた。

初めは嫌がっていた講師の立場だったがいざやってみるとまだまだ話し足りない事ばかりだ。最後の編笠は結局時間が足りず、終わってから大坂に焼成して貰う。


後片付けをしている修造の所に後藤がやってきた「修造シェフ、本当にお疲れ様でした。いやはや内容の濃い素晴らしい講習会でした」
「もう少し話したかった」
「そうなんですか、じゃあ来月にでも」
「それがそうもいかないんです。期限が迫っていて」
「なんですか期限とは」
「後藤さん、あなたには色々頼み事もされたけど陰に日向に世話になりました、感謝してます。俺が旅立った日には江川をよろしくお願いします」
「それは勿論、、もうすぐ行ってしまうんですか。そんな寂しい」


「意外と近いですよ、いつでも会えます」
そう言って修造は笑った。

I’m not a hero おわり

次回に続きます。


タイトルは 「Auf Wiedersehen(アウフ・ヴィーダーゼーエン)江川」です。
修造は江川に最後の修行をさせようとしますが、江川はそれを乗り越えられるのでしょうか、そしてその後に江川を待ち構えていたものとは。


読んで頂いてありがとうございました。


飾りパン、素敵ですね。
パン・アーテイステイックやパンデコレと言われる飾りパンは糖度の高い生地を様々に形作りインテリアとして飾ったり、コンテストに出品したりする物です。生地には酵母を使わず、焼く前に小麦粉を溶いた物を糊がわりにしてパンの上に飾りを取り付け形作ったり、焼成後のパーツを水飴などで取り付け、組み合わせたりするものです。コンテストでは素晴らしい芸術作品がパン職人さんの手によって組み立てられます。
この回では制約なく修造が好きに飾りパンを作りましたが、コンテストではテーマによってどの様なものが作られるのか決められる事もあり、例えば「音楽」というテーマではカエルがドラムの上で音楽を奏でていて本当に楽しそうで曲が聞こえてきそうなものなどワクワクするものが実際にありますが、色の規定や幅などの厳しい決まりを乗り越えて制作された物です(2020クープデュモンドドゥラブーランジュリーピエス・アーテイステイック作品)

「パン職人の修造」でもコンテストに優勝するまでの様々な事柄を想像して書いています、決められた時間や制限の中でパン職人は優勝目指して戦っている。

※パンスイス=最近のシャレオツパン。クロワッサンの生地にチョコやクリームを挟んで焼き上げたパン。様々な進化系がある。

※生地にバターを織り込む=クロワッサンの生地に油脂(バター)を挟んでパイローラー(生地を平らに伸ばす機械)で伸ばし、生地に層を作る作業。焼成時に油脂を蒸発させ、層を浮き上がらせたのがクロワッサンの綺麗な筋目。

※バゲットジャンキー=伝説の流れ職人、パン職人の修造バゲットジャンキーに出てくる。

46パン職人の修造 江川と修造シリーズ パン屋日和

パン職人の修造 江川と修造シリーズ パン屋日和

「パンが沢山売れるのは晴天の日とは限らないんだ。今日みたいに25度前後で少し曇ってると買い物してる奥さんは「まあこのぐらいの気温で天気なら買ったものが痛まないからゆっくり帰れるわよね」と言うわけで、いつもより店内をゆっくり回って多めにトレーに入れる事になる。俺はそれをパン屋日和と呼んでいる、まさに今日みたいな天気の事なんだよ江川」

と秋口にお客さんで溢れ返る店内を見て修造は言った。

江川も確かにそう言われてみればその通りだと思った。夏場や冬場はテラスもあまり使われていないし、春や秋はすごくのんびりしている。

そう言うのも含めてパン屋日和だ。

「じゃあかき氷日和とかたこ焼き日和とかもありますね」

「だな」と二人で笑ってるとパン粉が「ねぇ卓ちゃん知ってる?女優の桐田美月とお笑い芸人のマウンテン山田が電撃結婚したんですって」とネットニュースを見せて来た。

「えっ!あの二人が?」

画面には二人が指輪を見せているところが写っている。

「私だけを見てくれる彼の優しさが何とかかんとかって書いてますよ修造さん。ここで一緒に仕事したのがきっかけかも」

「へぇ、そうなの」

修造は芸能にあまり関心がなく、本当は桐田の事をあまり覚えていない。

「それにね修造さん!由梨ちゃんと藤岡君がとうとう付き合ってるらしいですよ」

「お前よく知ってんな」

「はい、こないだ由梨ちゃんと電話してたらちょっと教えてくれたんです」

パン粉と江川がその話題で盛り上がっているので、修造は店内のパンの品出しに出た。

「いらっしゃいませ」と声をかけると、中には一緒に写真を撮ってくれと頼まれることもある。

修造の苦手な事の一つだが、最近は嫌がらずにちゃんと口角を上げて笑顔を作る。

なぜこんな野暮ったい自分と写真なんて撮りたがるのか不思議だが、その写真はSNSに上げられる。

江川とか凄い愛想良くてサービス精神もあるもんな。そんな事を考えていると「あの、すみません」と、70歳ぐらいの女性が声をかけて来た。

「お医者さんに糖質を減らせって言われてるのだけど何がお勧めなのかしら」

色々と迷っていたらしいので、修造はSAUERTEIG-ROGGENBROT MIT FRÜCHTEN UND NÜSSENと言うフルーツとナッツの入ったライ麦パンを選び、岡田にパン切り包丁とまな板を貰ってテーブルで薄くカットして一切れ渡した。グレーブラウンの生地の断面にはアプリコットやアーモンドとヘーゼルナッツ、その他のドライフルーツ、オーツ麦フレーク、亜麻仁などが鮮やかに見て取れる。

「ドイツパンは普段食べられていますか?」

「いいえ、菓子パンとか食パンが多いかしら」

「あまり馴染みがないかもしれませんが、ライ麦パンは低GI食品と呼ばれていて血糖値の上昇が起こりにくい。ミネラルや食物繊維も含まれていて、ドライフルーツはマグネシウムやカリウムなどのミネラルを多く含んでいます、そしてナッツもミネラル、食物繊維、不飽和脂肪酸が含まれている。これを食べたから健康になれるとは言いませんが、お腹が空いたらこれを食べるのは良いことかもしれません」修造は普段無口だがパンの説明になると饒舌になる。

「そうなのね」と言って渡されたパンを食べてみた。

思っていたより固くなくて生地には水分が多く、パサついておらず酸味が旨味に感じられ、それがマッチしてフルーツとナッツがより美味しく感じられる。

「あら、美味しいわ」

修造はまた口角を上げて笑った。

「こんな風に薄く切ってよく噛んで召し上がるとあまり沢山食べなくてもお腹が満たされる」

「やってみるわ」

と言う会話も、周りを人が囲んで皆写真を撮っていた。修造はパンを一口サイズに切って「これどうぞ」と言うと皆一斉に手に取りあっという間に無くなった。

それをみていた立花が「凄い人気ね」と呟くと、大坂が「さすが修造さんですね」と隣に立って返事をしてきた。あれから大坂は何かにつけ話しかけてくる、立花が要るものを先にとってくれたり、高いところの物を取ろうとするので「気を使わないで頂戴」と言われて、流石にアプローチが過ぎると反省したのか最近はちょっとだけ静かになった。

「修造さん、パン好きビクトリィの会長横田元子が取材に来る日ですよ」

江川がホワイトボードの予定表を見ながら言った。

「あ、本当だ、もうすぐ来るね」

岡田にそう言おうと思ったが、すでに店内に落ちたパン屑を掃除してくれたり、パンを綺麗に並べてくれている。

「いつもながら岡田には感謝だなあ」

しみじみとそう言ってると「修造シェフ」と横田が声を掛けてきた。

「この間は長々と車の鍵を探して頂いて本当にすみませんでした」横田は頭を下げた。

「いえいえ、見つかって良かったですよ、パン粉ちゃんのお陰です。あの後番組に出して貰ったんですか?」

「はい、パン粉ちゃん私の知らないパン屋にも詳しくて驚きました。しっかりしてますね彼女」

「そうですね、江川も世話になってる様です」

「さて、シェフ。店内でパンとシェフのお写真を撮りたいんですが、どのパンが良いかしら」

横田は店内を見回って「これですかね」と言ってトレーに修造拘りのプレッツェルやブロートを持ってきた。流石業界通、よく調べてある。もしこの時点から「わあ〜美味しそう!何がおすすめですかぁ?」と聞いてきていたら「何も知らないで来たな」とあまり相手にしないかも知れない。なので横田に敬意を表して少し深めの説明をした。特にドイツの修行時代の話やその時仲良くなった親友、世話になった師匠の事も話した。あまり表に出ない話だったので横田は大喜びでボイスレコーダーを回しながら特筆のメモも取っていた。

大会で優勝するという事は過去の話も有り難がられるものなんだなどという事は、この店を開店してから日に日に濃くなっていく。

そして横田の『リーブロ訪問!修造シェフに直聞き』という記事はパン好きビクトリィのホームページに載り、さらに忙しくなっていく。

こうなると時間内に仕事を納めるのは難しい。修造はそんな時、従業員になりたいと言う江川の知り合いからの電話を受け取る。「一人は製造もできて事務もできるの?有難いなぁ!そして仕込みの専門と焼きの専門がいるの?すぐ面接に来てよ!」

と電話を切って江川に知らせた。

「僕の知り合いですか?」

パンロンドかベッカライホルツの職人しか知らないので、誰かと思っていたら「あっ!塚田さん、三田さん、辻さん」以前(イーグルフェザーと言うお話で)鷲羽とヘルプに行ったベークウェルと言うパン屋で知り合った職人達が入って来たので江川は大喜びだった。

三人は江川を囲んで再会を喜んだ。

それを見ていた修造は江川にとって良い環境になって来たと安堵していた。

塚田は顔立ちがキリッとして頭の良さそうな奴だ。その塚田が言うには「僕たちのいたベークウェルは店長の横流しと使い込みが原因で経営が困難になっていました。それで社長があの店を閉めることにして、僕たちは他の店舗にバラバラに移動になっていました。そんな時に江川さんの居る店が開店したと聞いて三人で応募したんです」

「そうだったんだ、色々大変だったんだね」

「これから江川さんと一緒に仕事できるし、修造さんにも仕事を教えて貰いたいです」

「みんなよろしくね」

「はい」

四人は青春っぽく拳を合わせた。

その時

販売員の安芸川が店から「修造シェフ」と緊張した面持ちで内線をかけて来た。

「どうしたの?安芸川さん」

「し、市長が来られてます」

「えっ!市長が?」

店に降りてみると良い仕立てのスーツを着た貫禄ある女性と秘書っぽい細い男が立っている。

「いらっしゃいませ」修造が声をかけた。「あなたがここのシェフの修造さんですか、私笹目市長の富沢富美代と申します」と名刺を渡してきた。

「どうも」

「先日私の母がこちらで食べたパンがとても美味しかったと話しておりました。それ以降シェフの話ばかりしております。あなたは世界大会で優勝さなったシェフだそうじゃないですか」

「はあ」

「実は今度笹目中央公会堂で一ヶ月間地域おこしのイベントがあります。イベント会場ににこのお店の出店を記念してパンで何かを作って頂けたらと考えております」

パンで何かを作るって随分ぼんやりしてるなと思って聞いていると「シェフが母に長い名前のパンをテーブルでカットして下さった話を何度もするもので、シェフの事を調べて貰ったらとても立派な着物の女性をパンで作ってらっしゃった。それでどうでしょう、イベント用にパンで大型の飾りパンを作って下さいませんでしょうか」

修造は以前パンの試食をして貰った婦人の事を思い出した。

「あの奥さんの娘さんでしたか、勿論力になりたいけど、もっと長持ちする芸術作品の方がいいんじゃありませんが?残念ながら重みで撓んできたり劣化したりするものなんです」

「そうなんですね、何かいいアイデアがあったらまたお知らせください」

「考えときます」

市長のお母さんの為なら頑張りたい気持ちはある、だけど他にもっとあるだろう、ブロンズ像とか油絵とか。と言いながら修造の中ではアイデアが大きく膨らんでいく、頭の中でどんな形でどんな大きさで、どこに置くんだろう、どんな人が見るんだろうなどなど考えが止まらなくなっていく。

そして作る工程を考え出すともう止まらない、イラストを描いてここのパーツはこんな風にして、ここはこんな色にして。

そしてとうとう作り始めてしまう。

ーーーー

何日か後

市長の秘書の島田が来た。

「田所様、あれからお考え頂けたでしょうか」

「そうですね、イベント期間中だけ飾っておいてあとは持って帰って店に飾っておくか、欲しいと言う人にあげてもいいとか考えてました」修造は島田に設計図を渡した。

「なんと立派な!ここまで考えて頂いてありがとうございます。ではその様に進めさせて頂きます」

話してると江川と塚田がやって来て「ねぇ、あれってねえ、大変なんだ作るの」と江川が「まさかただって訳じゃないんでしょう?材料費の事もあるし」と塚田が二人で秘書を挟んで言った。

「では帰ってその旨市長に報告してご連絡致します。会議で予算が通ったらお支払い可能です。材料費が分かりましたらメールでお知らせ下さい」

「頼んだよー」

うわ、俺ならそう言うの言い出しにくいなと修造は見ていた「凄いな2人とも」

そんな訳で修造の芸術作品は公会堂のイベントに飾られる事になった。

沢山の人に分かりやすい物をと考えて、パンのヴィーナスというテーマにする。

生命の息吹と未来への羽ばたきだ。

しかし修造のイメージを実現化するにはパーツの数が半端ないしとにかく重くなるだろう。それを支える為に土台も重くした。

「完成してから運んだんじゃ壊れそうだから現場で組み立てたいんですよ」

修造は秘書に電話した。

そしてイベントの何日か前に土台を現場に運んだ。

イベント会場は公会堂の外にあり、舞台と観客席がある。その上の大きな屋根は白いテントでできている。仮設ではないのでそこでは度々音楽ショーや野外映画会などが行われている様だ。

今回は地域おこしのイベントなので、リーブロはその町にある店という事で修造のパンの作品(パンデコレ)は舞台の後ろの真ん中に飾られる。

「まあここなら外とはいえ雨も掛からないしな、よほどの風が吹かないと大丈夫だろう」

その日から修造は工房でパーツを作っては会場に持っていって江川と二人で仕上げる日々が続いた。

修造と江川が水飴でパーツが外れない様に仕上げていき、冷却スプレーでそれを冷やし固めていく。

倒れてはいけないので裏側に角材を取り付けて柱に結んだ。島田が夜は誰かしらが悪戯するといけないので囲いを設けてくれていた。

「何日かかけて現場に作りに行ってるんだ」修造は工房で仕事中横にいた和鍵に説明した。

「私もお手伝いしに行って良いですか」

「うん、じゃあ今日の夕方現場に行ってパーツを取り付けてみよう」

「はい」

いつもは江川と来るのだが、今日は和鍵と細かいパーツの取り付けを行った。

作業中

修造がパーツを取り付けながら言った「不思議なものだな、最近まで全然知らない土地だった所で受け入れられて、イベントで一か月の間皆んなに見て貰えるものを作ってる。こうしてパンの可能性を広められるのは良いことだ」

「パンってスーパーに並んでるものだと思ってました。今は違いますけど」

「パンにも色々あるんだろう、この際驚く様なものを作ろう」

「はい」

近くにいると修造の燃える様な熱意と作品から情熱が伝わってくる。

過去に和鍵の周りにいた人を裏切ったり嘘をついたりする大人とは全く違う種類の修造の人間像に対して強い憧れを抱いている。

「私ももっとパンの勉強がしたいです」

「明日手ごねをやってみよう。普段はトッピングとか成形ばかりだから目先を変えてみようか」

「はい!お願いします」

最近の暗い顔に比べて和鍵希良梨の顔色が明るくなった。

ーーーー

とうとうパンデコレは出来上がった。

イベント会場には明日の準備で多くのスタッフがいて、皆作業の手を止めて時々振り返っては高さ2メートル50センチで見た目にも圧倒される『パンの女神』を珍しがったり感嘆の声を上げたりしている。

土台の形は修造得意の組み立ての技法で複雑な形を成し、細かなパーツは執念によって作られ組み立てられた。宝石の様な色合いは色を変えた飴細工によって成されていて、輝きを添えている。

島田がやって来た「田所様、いやー驚きました!凄いものが出来上がりましたね。明日から一ヶ月間はとうとうイベントの日です。毎日色んな地域の町おこしがやって来て、土日は特に人が動いて賑わうでしょう。市長もお喜びです。こちらイベント終了後は第一庁舎のロビーに飾られる事になっています」

「建物内に運んで貰えるなんて有り難いです。それと礼金まで払って頂いてすみません」

「文化芸術予算から経費が出ました。まさかこんな綺麗で大きいものがパンでできるなんて思いもよりませんでした」

「どうも」

「では明日オープニングで挨拶をお願いしますね」

「えっ?挨拶!?」

「はい、スタッフの朝礼の挨拶みたいな感じでお願いします」

「何を話せば良いんですか」

「シェフの事を知らない方の為に経歴とこの作品を作った訳とかでも良いですし」

「うーん、考えてみます」

「ではよろしくお願いします」

修造は家に帰ってただいまのハグをしながら妻の律子にその事を話した。

「挨拶かあ。明日は来賓客の中にはイベント関係者とか市の有力者とか来そうね」

「そんな人達に挨拶とか苦手だよ」

「イベント開催のお祝いと感謝の気持ちを伝えたら良いんじゃない?」

「そうするよ、おめでとうございますありがとうございますとか言って時間を稼ぐよ」

修造は原稿を書き出した。

笹目市について少し調べてみる。産業は山と畑が多いせいか農業が盛ん、特産物はイチゴや梨など。

他に工業製品の会社も多い。

「うーん、挨拶とは関係ないなあ」

修造は頭を悩ませた。

次の日

イベント開催の時刻になり、階段状になった座席には地元の人や来賓客が並んで座っていた。

市長の挨拶が過ぎ「世界大会で優勝したパンのシェフに作品を作って頂きました。盛大な拍手をお願いします」と言う言葉と共にパンデコレの前に掛かっていた垂れ幕が外される。

人々は驚いて「あれパンで出来てるの?」と口々に言っている。

「それでは田所シェフ、皆さんにご挨拶をお願いします」

え!

修造は多くの人を前にして用意していた挨拶を忘れてしまった。

なんだっけ?と、客席に座っている律子の顔を見た。

律子は子供達と並んでいて、頑張ってと拳をグッと握ってて見せた。

仕方ない、普通の事を普通に話すかと覚悟を決めた。

「あの、田所と言います。リーベンアンドブロートは生活とパンと言う意味で名づけました。毎日の生活にパンは欠かせない、そこには色んなライフスタイルがあって、色んな場面で色んなパンが食べられている。縁あってこの笹目市に店を構えたんですから地元のお客さんの生活にリーベンアンドブロートのパンを取り入れて頂けたらと思っています。パン屋さんの仕事は過酷と思ってる人が多いかも知れません。たとえ作ってる所が誰にも見えなくても出来たパンがお客さんといい出会いがあればそれでいい。これからも俺はその為に努力を惜しまないつもりです」

と言って頭を下げた。

剛毅木訥、仁に近し

修造は頑張った。

人々は修造に拍手を送り、無事オープニングイベントが始まった。

ーーーー

「修造さん、秋なのに季節はずれの台風が近づいて来てるんですよ。三日後の夜にはこの近くを通るらしいですがあのパンデコレは大丈夫なんでしょうか?」

心配する江川に「明日辺り囲いを強固にしようか?」と答えた。

「そうですね、役所の方にも頼んでみたらどうでしょうか?」

「うん、俺電話してみるよ」

ところがその日の夕方にわかに風が強まって来た。早上がりの大坂と立花が心配して見に行くか相談している、それを和鍵も聞いていて、三人で行く事になる。

「修造さん、俺達帰りに見に行って来ます。シートと紐を持っていきますね」

「ありがとう大坂、俺も後で行くよ」

修造も作業が終わったら行く旨を伝えた。

三人がバスで駅前に移動して現場に立ち寄ったら会場の中に外から中心に向かって風が吹き、囲いが倒れていた。

パンの女神がグラグラしている。急いでシートを巻き付けようとしたが風で旗めいて上手くいかない。

大坂が「三人で囲いにシートを巻いて動かない様に固定させよう。俺が囲いを押さえてるから紐で巻いて、その後紐を両側の柱に結ぶ」

しかしダンボールなどの四角い荷物じゃあるまいし、無理に巻くと羽や複雑なパーツが折れる。結構困った状態に陥っていると横風が吹いた「あっ」パンの女神が横倒しに倒れそうになり急いで和鍵が支えたが突風が吹きつけ固定していた角材が外れ、バリバリと言う音と共に和鍵が下敷きになった。

「和鍵さん」バラバラになった破片を避けて大坂が引っ張り出した。

「すぐ救急車を呼んで」ベンチのところに和鍵を運びながら立花に言った。

「パンの女神が」和鍵は破片を掴んで壊れたパンデコレを見てショックを受けていた。

「救急車が来た!」立花が走って救急車から担架を出す隊員に声をかけに行った。

痛いところを色々聞かれている。どうやら手首と足首を痛めた様だ。歩けないので担架に乗せられて移動したので大坂は立花も救急車に乗せようとした。

「パンデコレはどうするの?」立花はパンの女神の方を振り向いた。

「ここは危ないから一緒に行って。俺は修造さんに連絡するよ」と言って立花を救急車に押し込んだ。

「私が残るよ」

「ダメダメ危ないから」

救急車の後ろのカーテンの隙間から心配そうに覗いている立花に大丈夫と目で合図していると救急車がサイレンを鳴らして動き出した。和鍵を診てくれる病院が見つかったんだろう。遠ざかる立花の視線を見送った後、修造に電話して起きた事を話した。

「大坂ありがとうな。俺は立花さんに電話して行った先の病院に向かうよ。危ないからもう帰っていいよ」と言われるが、紐もシートもバラバラになったのをまとめて、本体を横にした後折れた大量のパーツを集めた。「これって元に戻るのかな」

打ちつけてくる強風の中、なんとか一人で全てをシートで覆い紐を左右の柱に渡して結んだ。

その後立花に電話して病院を聞いて駆けつけたらもう修造が立花から話を聞いていた。

「修造さんすみません。なんとかしようと思ったんですが、風に煽られて和鍵さんが下敷きになっちゃって」

「二人が悪いんじゃないよ。ありがとうな、もう帰っていいからね」と言って修造は和鍵の病室に入った。

それを見送ってから立花が「あれからどうなったの?」と大坂の服についた落ち葉を取りながら聞いた。

「うん、とりあえずまとめてシートでカバーしたよ、天気が良くなったら治るかどうか修造さんに見てもらおう」

「そうね、和鍵さんは足を痛めたけど検査は明日になるらしいわ」

「今日は入院かな」

「さっき和鍵さんが家族に電話してたわよ。すぐ来ると思う」

「そうなんだ。あんなにパンデコレを心配してたんで、思ってたよりいい奴なんだなと思ったよ」大坂は病室の方を向いて言った。

「こないだは修造さんにパンの仕込みを真剣に教わっていたわ。今日はカンパーニュを教わってた」

「そうだったな」

と、そこで会話が途切れたので

「風が強いから送って行くよ」と会話を繋げた。

「いいわよ、また帰り道が分からなくなるわ」

「うっ!だ、大丈夫だと、思います、それに道々目印になるものを見ながら歩いたら良い。何かいい店があれば言ってください」

「途中美味しそうな町中華の店があるわ、いつもいい匂いがするの」

「それだ!」

「なんだかお腹空いたわね、もう7時過ぎてるもの」

「じゃあそこで飯食って帰りましょう」

「そうね」

「こんな風に話してるなんて俺たち随分仲良くなりましたよね」

「そうかしら」

さっきは随分心配そうだったのに立花は気のない感じで答えた。

ーーーー

一方病室では手当の終わった和鍵がベットに横になっていた。

「悪かったな和鍵さん。うちの作品を守る為に怪我をさせてしまった。本当に申し訳ない」修造は頭を下げた。

「治療費と休業保証はさせて貰うから」

「骨折はして無いとお医者さんも言っていました。すぐ退院と思うので大丈夫です。私修造シェフの事が大切なんです、だからあれを守りたかった。あんなに何度も作りに行ってたのに結局壊れてしまった」

「自分を責めるのは間違ってるよ」

その時和鍵の両親が横開きのドアを勢いよく開けて、修造を見るなり激昂しながら入って来た。

「和鍵さんのご両親ですか?この度は申し訳ありません」「お前か!うちの娘を退職させようとしたパワハラ上司は!今度はうちの娘を怪我させて!手をついて謝れ!今度こそ訴えてやるからな」と詰め寄った。

「やめてよ2人とも!こんな店こっちから辞めてやる!だからもういいでしょう。疲れたから今日は2人とも帰って」

と言って枕を怪我してない方の手で投げつけた。枕は両親にあたる前に修造がキャッチしてベッドの足元に置いた。

「大嫌い!訴えたら許さない!」

これまでずっと可愛がっていた娘に大嫌いと言われて父親は狼狽えた「何故なんだ、お前の為に言ってやってるんだよ」

「頼んでないわよ!早く帰って」言われた通りにする習性が染み付いている母親は「お父さん、また明日来ましょう、もう辞めるって言ってるし、それでいいでじゃない」母親にグイグイ押されて父親は病室から消えた。

修造はしゃがんで和鍵の顔を覗き込んで言った。

「今俺を庇う為に辞めるって言ったんだろう。本心じゃないじゃないか」

「いえ、もういいんです」

和鍵はそれ以降、下を向いて何も言わなかった。

大切と言った事に返事が欲しかったが、聞かなくても分かっている。修造にとって律子が一番なのは見ていて分かる。

病室で一人窓の外の吹き付ける風の音を聞きながら「もう色々無理だから」と呟く。

夜九時頃

大雨が降っていた。

修造は一旦リーブロに戻ってから和鍵の家を訪ねた。

「何しに来た!」

さっきのイライラもあって、父親は玄関先で修造を叱責した。

「先ほどは申し訳ありませんでした」

大嫌いとか訴えたら許さないと娘に言われたばかりなので裁判の話はしなかったが怒りが収まらない。

「うちの娘に怪我をさせて!どうしてくれるんだ」

その後ろで母親は何故娘がこの男を庇うのか不思議で観察する

男らしい責任感のある態度

一本気な感じ、ひょっとして娘はこの男の事が。そう思いながら口に手を当てて修造を凝視した。

修造はバッグから取り出した和鍵のパンを見せた。

「和鍵さんはうちの社員をいじめていました。その後その社員と勝負をして負けたんです」

「希良梨が」

「はい、だけど段々変化してきたと思います。最近は仕事に向き合っていた。俺も和鍵さんに本格的にパンを教え始めた所でした。これを見て下さい」

「これはなんだ?」

「このパンはミッシュブロートと言って小麦とライ麦を配合したパンです。和鍵さんが生地を作ったものです」

そう言って父親にパンを渡して話を続けた。

「今日パン作りをしていた時は辞める様子なんて微塵も無かった。今日は俺を庇う為に辞めると言ってしまったんでは無いですか」

「希良梨があんたの所の職人をいじめていたのか」

「はい、でも今は違います。上手くやっていけそうでした」

和鍵希良梨が高校生の時、担任に娘が同級生をいじめていた事があると聞いたが全く信じずに『うちの娘がいじめなんてする訳がない』と突っぱねて話も聞かず、校長に捻じ込んで担任を糾弾して辞めさせた事がある。その時娘の希良梨はいかにも自分は悪くない様に立ち回っていた。

ところが今は遠回しに店やこの男を庇っている。

「一体何故なんだ」父親の呟きを聞いて母親が言った。

「オーナーの事が好きなのよ」

「えっ」修造と父親が同じぐらい驚いた声を出した。

「だから辞めると言ったのよ。この責任はどうとってくれるの。あなた結婚してるんでしょう、離婚しなさいよ」

「離婚なんてしません。急に何を言ってるんですか」

「それがあの子の望みだからよ」

「飛躍しないで下さい。そんな話をしに来たんじゃない」

「ママ、何を言ってるんだ」父親は両手を振って母親を遮ったが、父親越しに続けた。

「さっきあんたも希良梨が自分を庇う為に辞めると言ったって言ってたじゃない。責任取りなさいよ」

「馬鹿な事を言うなママ」

「問題をすり替えないで下さい。本当の事に目を背け過ぎだ。そんな発想子離れしてないのが原因でしょう。娘さんは職人として自立しかけている、俺はその事を話しに来たんだ。その為にパンを見せたのに」

二人とも話が通じず変な方向に向いてきた。修造にすれば自分のところの職人を大事に育てたいからやってきたのに。

「このまま和鍵さんが成長するのを邪魔してばかりではうちも辞めてご両親とも上手くいかなくなるんじゃないですか?もう変わらないといけない所まで来てるんですよ。あなた達が捻じ曲げてきた結果でしょう」

二人とも黙ってしまった。

心当たりがあり過ぎて困っている様だ。

「俺は明日和鍵さんともう一度話してみます。今日このパンを前にして、今後の事をよく考えてみて下さい」

そう言って出て行った修造をそのまま見送り、二人は食卓にミッシュブロートをおいて向かい合って座った。

「希良梨は大人になってきたんだな。あの男がさっき希良梨は段々変わって仕事に向き合ってると言っていた」

「そうね」

「あの男の言う通り私達も考え直さないといけないな」

和鍵の父親はパンを母親に渡した「これを切ってくれよ。希良梨の作ったパンだ」

「そうね、頂いてみましょう」

和鍵の母親はパン切り包丁でカットしたミッシュブロートを皿に乗せてだした。

クラストは力強く、クラムはしっとりとしている。

「美味しいわね」

「そうだな、こういうパンって固いと思っていたが意外と甘いもちもちした食感なんだな」

「これを希良梨が作ったのね。私達あの子を子供扱いして、気持ちも良く聞かずに決めつけてた所があったわね」

「段々色んな経験を積んで大人になっていくんだな」

二人は生地の断面を見ながらしみじみと言った。

ーーーー

次の日

強く雨と風が吹きつけていた。

修造は仕事終わりにもう一度和鍵の病院を訪ねた。

「具合はどう?改めてうちのパンデコレを守ろうと怪我をさせてしまった事、申し訳ない」修造は頭を下げた。

「もう大丈夫です。明日退院なんですが、ただの打ち身だったので入院しなくてもよかったのに」

「怪我に変わりはないよ」

「パンデコレはどうなりましたか?」

「大坂が上手くまとめてくれたそうだから後で見に行ってみるよ」

「はい」

「昨日辞めると言っていた事で、あの後ご両親と話してきたよ」

「そうだったんですか。私も昨日よく考えました。今までの自分は間違っていた。真実を捻じ曲げてきたんだなって」

「これからもっと変われるよ。ご両親も和鍵さんの変化と共に変わってくれるんじゃないかな」

「うちの親はやり過ぎるんです。私も両親に合わせてたし、両親も私に合わせていて、それが悪い方にいってたなって思います。江川さんの事、すみませんでした。辞める前に謝ろうと思ってました」

「昨日のことならもう裁判にはならないしだったら辞めなくても良いんじゃない?」

「いえ、もう無理を通したくない。私一人で暮らして新しい環境で一から頑張りたいです」

「そうか、わかったよ。応援してるからな」

「はい」

ーーーー

嵐が過ぎた後のイベント広場は落ち葉があちこちに散乱して荒れていた。

「今日はどんよりしていて涼しいパン屋日和でしたね、お店も沢山お客さんが来てましたね修造さん」

「だな、江川」

修造と江川はパンのヴィーナスの修復ができるかどうか見に来ていた。

「大坂がちゃんとまとめてくれたんだよ」

よく似たパーツを集めてあったので助かる。前の様にはいかないが、遠目には分からないぐらいには治せるだろう。

「イベントが終わったらこれはもうダメだな。腕も折れてるし」

「残念ですね、あんなに頑張ったのに」江川がシクシク泣きながら修復していた。「仕方ないよ形あるものはいつか壊れるんだ」

「だって」

「江川」

「和鍵さんが辞めるんだ」

「僕お見舞いの電話をした時和鍵さんから直接聞きました。僕に『今までごめんね』って言ってくれました」

「そうなんだな。なんか辛いな。色々あったけど一生懸命やってくれていた」

「予想もつかない事が沢山ありますね」

「それでもひとつひとつ乗り越えていかないとな」

江川はパーツを引っ付けながら言った「あの」

「うん」

「僕も言ってなかった事があります」

「え?」

江川はずっと修造に言わなくてはいけないと思っていた事があった。

今二人きりなので言うべきかと思っていた。

「僕本当は男の身体なのになんだか男でも女でもなくて、それで心が不安定なんです。愛莉ちゃんだけがこの事を知っています」

「うん?」

修造は手を止めて頭の中でもう一度江川の言う事を復唱した。

修造にとって予想もつかない事だった。

「そうだったんだ。俺は鈍いから江川の悩みを全然気が付いてやれなかった。きっと辛かったんだろうな。だけど俺にとって江川は江川なんだ。今までと変わらず接するよ。教えてくれてありがとうな」

「僕もこれからもずっと今まで通り修造さんとパンが作りたいです。面接で修造さんと初めて会った時、修造さんは丁度生地を捏ねていて、凄く無心で誰が自分の事をどう思ってるかとかそんな事関係ない生き方もあるんだって思いました。僕もそんな風にに生きられたら良いと思います」

これからもと聞いて、修造は2年でお前を一人前にする計画を練っているんだからと心の中で思った。

「ふふふ」

修造が建てている計画、それはどんな事なのか。

パン屋日和 おわり

38パン職人の修造 江川と修造シリーズ Awards ceremony

パン職人の修造 江川と修造シリーズ Awards ceremony

審査員のパンの試食が終わった。

選手たちは控え室に戻って休憩する様に言われる。

修造は椅子にどかっと座って机に臥せながら、工程に反省点があるか考えていた。

そして顔を上げて言った。

「江川」

「はいなんですか」

「全部の工程でお前の世話になった事しか思い出せないよ。野菜のゼリーと言い、他の工程の全ても。俺の我儘を叶えてくれてありがとうな」

「僕、役に立てたなら良かったです」

「俺は俺の考えたパン作りの全てを思った通りにしたかったんだ。それが実現したのは江川のサポートのおかげだよ」

さっきまで目元が引き攣ったままだったので、江川は目尻を摩ってマッサージしながら言った。

「本当に良かった」

ーーーー

20分後

また会場に戻る。

表彰式が始まるのだ。

一か国ずつ呼ばれて出て行く。

参加者全員が並ぶ中、荘厳な曲に合わせて式典の司会が出てきた。

白い封筒を開いている。

江川はそれをじっと見ていた。

フランス語で何人かの選手が呼び出されている。

修造も江川も全然フランス語がわからないが受け取った選手は歓喜に咽び泣き、皆大喜びだ。

大木と話していた通訳の人に「ねぇ、あれが優勝カップですか?」と聞いたら違うと言われる。

今はクロワッサンやタルテイーヌなどの各部門のパンの受賞式だそうだ。司会が何か叫んだ。

ジャポネって呼ばれた気がする。

ワーっと日本チームの応援団から拍手が起こった。

大木に合図されて修造と江川は真ん中に立った。

自分達にライトが当たっている。

修造は透明のずっしりしたトロフイーを受け取った。

修造は表情を変えなかったが嬉しくないわけじゃない。空手の試合の時、勝った方は相手に敬意を表して、おおげさに喜んだりせず己を律しなければならない。

和装のパンデコレが賞を貰った。

「うわーすごーい!修造さん!おめでとうございます〜」

「ありがとう。これで安心して帰れるよ」

賞を貰ってホッとした。

元の場所に立ってると今度は大木が江川に「おめでとう」と言った。

「えっ?」

「江川真ん中に立つんだ」

呼ばれてセンターに立ち、大木と修造が拍手する中、江川はトロフィーを受け取った。

「最優秀助手賞だ」

大木の言葉にびっくりした。江川のコミとしてのサポート力が評価されたのだ。

「えーっ!僕が?みんなー!僕賞を貰いました〜」

うわーっと叫びながら、江川はトロフィーを高く上げて応援席に向かって叫んだ。

その途端応援席から声援が届いた。

後藤がみんなに賞の名前を言って驚かせている。

「すごーい!江川君」

「江川くーん」パチパチパチパチ

みんな拍手している、

「あいつちゃんとサポートしてたもんな」

鷲羽が何故か誇らしげに言った。

嬉しそうだ。

江川はその後はなんだか気が楽になって他の選手の受賞に拍手を続けた。

オリンピックで言えば金銀銅のメダルと同じ授賞式が始まった。

3位の国、2位の国の名前が呼ばれて、1位はどこかしらとキョロキョロしていたら「ジャポネ!」と言うワードが聞こえた。

大木と通訳の人が大喜びして修造と江川を真ん中に連れて行った。

1番高い台の上に立ち、修造は1番大きなトロフィーを受け取った。

バゲットを切り取った様な形の黄金のトロフィーを持って真ん中のライトを見ている修造の横で、江川は大木とハイタッチして、両腕を高く上げて「やったー!」と大声を張り上げた。

全身に全部の拍手とライトを浴びた。壮大な音楽が鳴り響き、感動を盛り上げた。

色んな人におめでとうと言ってもらってありがとうを何度も言う。

うわあ嬉しい!僕このままライトに当たり過ぎて白くなって消えていくんじゃないかしら。江川は存分にライトを浴びて、修造の代わりに倍みんなに手を振った。

「修造、せっかく優勝したんだからもっと喜べよ」

修造はあまりに直立不動だったので、大木にそう言われる程固まっていた。

「修造さん、おめでとうございます」

「ありがとうな、江川のおかげだよ。頑張ってくれたもんな」

江川は照れて「エヘヘ」と笑顔を向けた。

表彰式が終わって応援団のみんなと話していた。

「みんな応援ありがとう」全員と握手する。

鷲羽が興奮して帯の模様が手が込んでるとか、あのパンが食べてみたいとか騒いでいた時、突然後ろから大柄で白髪混じりのヒゲを濃く蓄えたおじさんが話しかけて来た。

「シューゾー」

その声に修造が機敏に反応してバッと振り返りそのままそのおじさんとガシッと抱き合った「エーベルトーっ!」

ウワーっと2人とも懐かしがって握手したり年甲斐もなくピョンと跳ねそうなぐらい修造は喜んでいた。そんな修造を見たのは初めてだった。

「あ!あの人がエーベルトさん」

江川は折に触れエーベルトの事を聞いていた。

大恩人のエーベルトと修造はドイツ語で話していて、何を言ってるのかはわからない。きっとこの大会に出ると聞いて会いに来てくれたんだろう。

しばらくしてリツコリツコと言ってエーベルトが修造をからかってるのがなんとなく分かる。

おそらく「あの時は奥さんのリツコの事ばかり言ってたな、ワッハッハ」みたいな事なんだろう。

「わしも鼻が高いよ」とわからないのに江川は2人を見て勝手に訳していた。そのうちに江川を手招きで呼んだのでそっちに歩いて行く。エーベルトと握手した。あったかい。「江川です」と言ってすぐ修造を見た。なんて言ったらいいのかわからない。修造は見た事ないぐらい顔が赤らんでニコニコしていたので、表彰式の時にこんな笑顔するもんなのにと思っていた。

その後まだまだずっと話している2人をほっといて、江川は山々コンビのところに行った。

おや、山々コンビと鷲羽達はすっかり打ち解けている。全員が日本チームを心を一つにして応援しているうちに通い合うものがあったんだろうか。

北山と篠山は昨日パリのルーブル美術館やベルサイユ宮殿に行った後、カフェでパリ気分を満喫していた。

明日はモンサンミッシェルに行くのだが詳しい行き方を園部に聞いた。が、園部は「うーん」と言って考えている。鷲羽がその場で色々調べて教えたので山々コンビは本当にびっくりした。

「モンパルナスから※TGVで行ってレンヌの北口ターミナルでバスに乗換えだって。モンパルナスわかる?」

鷲羽って意地悪な印象だったが、こうしてパリに来て充実してるのか表情もイキイキしていてなんならちょっとかっこいい。

「モンパルナス、、、」聞いた事しかない。

「心配なら明日一緒に行ってやろうか?」

「え?いいのぉ?」なんて

今から夕食に行って明日はモンサンミッシェルに行くとか楽しそうに話が展開している。

それを側で見ていた江川の様子を観察していた後藤が優しく話しかけて来た。

「江川さん、本当にお疲れ様でした。大変だったのに頑張りましたね」と、キラッと輝く白い歯を見せた。

「後藤さんありがとう」

「せっかくだから世界大会で優勝したパンの前で記念写真を撮りましょう」

「はい」

後藤はトロフィーを持たせたり手を前にやったり横にやったりと、江川の写真を何枚も撮った。

そしてそれをさっき撮った授賞式の写真と一緒にすぐに会社のネットに何枚も載せた。ここに基嶋の機械が無くて残念だ。

それを江川に見せながら「これをみんなが見るでしょうから江川さんも業界の有名人ですね」

「えー」

「前途有望な若者のサクセスストーリーなんですから」

「サクセス?」

「これから修造さんはお店を持つのですから江川さんもますます活躍できますね」後藤は修造が江川をとても大事にしていると思っていた。それは江川の打算や欲のない一生懸命さのせいなんだろう。なので行く末に自分も関わっていくつもりなのだ。

「将来的には江川さんもお店を持つわけなんですから」

「先の事すぎてわかんないや。それに僕貯金が全然無くて」

有れば使うのもあるが、この何ヶ月か結構移動費も含め色々必要だった。

「まだまだ若いんですからそりゃそうですよ。積み立てを始めたら意外と溜まっていくものですよ」

「積み立てかあ。考えた事なかったです」

「それに今日までの事は全て江川さんの財産なんですよ」

江川は後藤が今まで考えたことも無かった事を色々教える大人だと思っていた。

「後藤さん、勉強になるな。確かにこれからの事って考えなきゃ。もっと色々教えて下さいね」

「はい」

ーーーー

エーベルトが帰った時の修造は寂しそうだった。

後ろ姿が見えなくなるまで2人で手を振った。

もう片付けて帰らないと。

後藤や五十嵐に手伝って貰って荷造りを済ませて日本に送り返す。

パンデコレを包みながら「これ、パンロンドの出窓に並べよう」と親方を思い出しながら修造が言った。

「はい、3っつ分なのでキチキチですね」

「本当だ、入るかな」

ーーーー

その後、2人はみんなと別れて飛行場に移動し、マカロンやヌガー、ぬいぐるみやらのお土産を買ってるうちに時間が足りず走って行く。

どうにか間に合った飛行機の中で

「修造さん、今日凄い良いことが二つありましたね」

「表彰式とエーベルトだろ?」

「ウフフ」

「江川」

「はいなんですか」

「俺はドイツにいた頃、エーベルトに言われた事があるんだ」

「はい」

「修造よ、マイスターとは若手に製パン技術を教え、知識を教える立場なんんだよ。伝統的な技術や決められた製法を守るんだ。いつかお前もお前が教わった様に下の者に継承して行くんだ。ってな」

「はい」

「俺は今からそれを実現しようと思う」

「あ!僕にも教えて下さいね」

修造は江川をまっすぐ見て「そういう事だ」と言った。

「江川、俺は店作りをしようと思ってる。その前にパンロンドで改めてみんなにも伝えておきたいんだ」

「はい」

藤岡と杉本の顔が浮かんだ。

「僕達2人が抜けたら大変ですものね。誰か新しい人を探すんでしょうか?」

「親方と話し合ってみるよ」

そういった後修造は待ち受け画面の家族の写真を見ていた。

そろそろあれが始まるぞ。

なんて考えていると、江川の思った通りに「早く帰ってトロフィーを律子に見せてやろう。緑と大地に会いたいなあ。大地は産まれて5ヶ月経ったんだ。寝返りもできて離乳食もちょっとずつ始まったんだよ」と可愛い写真を見せてきた。

「ホッとしたら家族に無性に会いたくなるんですもんね」

「そうなんだよ江川」

「早く逢いたいですね」

「うん」

修造はそう言いながらふーっと安堵の吐息を吐き、椅子に深くもたれてそのまま寝てしまった。

律子さんの恋人で夫でお父さんなんだ。そして空手家で世界一のパン職人だ。

江川はその横顔に

「お疲れ様」

と言った。

江川は帰りの飛行場の免税店で自分へのご褒美にリュックを買った。

それと凱旋門のマグカップと置物。

そしてみんなにはエッフェル塔のスノードーム。

柚木の奥さんと風花にはトリコロールカラーのスカーフだ。

ちょっと使い過ぎちゃったな。

後藤の顔を思い出して、帰ったら積み立てを始める決心をした。

ーーーー

その時

成田ではドイツから来た飛行機から1人の女が降り立った。

質素ななりだが遠くから見ても女性らしいフォルムでスタイルの良いのが分かる。

髪色は派手でシャンパンゴールドに赤いメッシュが入っている。

ぱっと見強い印象なのに、よく見ると表情は儚げで歩き方もおずおずとしている。

空港から出たあと、日本の空を眺める。

「これから私はどうすればいいのかしら」小声で呟く

女は目的があったが行く先は決まっていなかった。

駅の券売機の横にあった無料の求人雑誌を開いて電話をした。

しばらく相手の質問に答えた後電話を切り、人混みの中に消えていった。

おわり

※TGB フランスの超特急列車。最高速度は300キロを越え日本の新幹線と並ぶ速さ。

このお話は2022年10月04日(火)にパン屋のグロワールのブログに投稿した物です。

37パン職人の修造 江川と修造シリーズ stairway to glory

パン職人の修造 江川と修造シリーズ stairway to glory

はじめに

このお話はフィクションです。

修造達はとうとう世界の一流パン職人の方々と戦うところまで来ました。格闘と違い選手は各ブースで自分との闘いをするのです。色々と配慮し、どこの国に勝ったとか負けたとかはこの場では伏せることにします。他の国のパンデコレで想像でこの国だな、とかあの国だなとか思い描いて頂けるとありがたく存じます。パンの説明は分かり易い様に時系列ではなく種類別にしています。

世界大会の前日

ホテルの洗面台で修造はまた髭を綺麗に剃った。

「気合を表してるんですね?」江川が不思議そうに見ている。

髭の無い修造が別人の様で新鮮な気持ちがする。

会場に着くと大木が呼びに来た。

「修造、10時から順番に写真撮影があるから」

「ええ?」写真撮りは嫌だけど仕方がない、大木に着いて行く。

この時に初めて参加国の各コーチ、選手、助手を見ることになる。

「カッコいい」江川が憧れの眼差しで見ている。

色んな国のチームが並んで順番待ちをしていて確かにカッコいい。

「きっと凄いパン作りをするんだろうなあ」

自分の国の国旗を持った選手を見て2人共感動していた。

さて、自分達の番が来て、日本の国旗を大木が手に持ち3人で並んだ。修造は前回の経験があるので今日は顔を引き攣らせない様に家族の事を思う浮かべながら微笑んだ。

そのうちに鷲羽と園部が荷物を両腕に振り分けて沢山持って来た。

出汁用の乾物とオーガニックの野菜や果物が入っている。

「修造さーん」

「あ!2人共どうもありがとう」修造も内心心配していたのか荷物が届いてホッとしていた。

なるべく新鮮な野菜を手に入れたかったので、お店の人に頼んでおいたのだ。一旦パリに行って買い物してまた戻ってくれるなんてありがたい。

「俺たち明日は応援席にいるから頑張って下さい」

「うん!ありがとうな。これから開会式だから見て行って」

「はい。修造さん、アンフリッシユザワーは上手く行きましたか?」

「うん、フィードしたよ。上手くいきそうだ」

「よかった!心配だったので」

鷲羽は修造に渡した種の次の段階が上手くいくか気がかりだった。上手く育てて本番で使ってくれるなんてテンションが上がる。

「よしっ!江川!頑張れよ」鷲羽は拳を横から前にグッと握ってガッツポーズをした。

「頑張るね」江川は鷲羽達と長年の友の様に手を振って見送った。

ーーーー

開会式では主催であるフランスのパン職人の重鎮達が揃い、世界から集まった9か国のチームは順番に呼ばれて、やがて全員がずらりと並んだ。

これからここで繰り広げられる戦いは敵とではなく、常に自分との闘いなのだ。

開会式を見ていた鷲羽は複雑な心境だった様だが、こうなったら自分の実力で這い上がってくるしかない。

会場から立ち去る時二人は黙ったまま橋の上を歩いていたが、急に園部が「江川で良かったな」と言ったので、鷲羽は見透かされてると思い顔が真っ赤になった。

実際他の者が助手になっていたら嫉妬でどうにかなりそうだったろう。買い物なんてしてやるわけが無い。

もう自分達は友情で結ばれている仲間なんだ。そう思う。

ーーーー

さて

前日準備は1時間しかない。

各選手達は自分たちのブースに入って作業を始めた。

江川も兼ねてから練習していた物を作り始めた。素早く下ごしらえした各野菜(アスパラ、大根、ナス、インゲン、パプリカ、ズッキーニ、トマト、ジロール茸)の9種類を型に敷き詰めた。特訓通りに綺麗に並べる。そこにあらかじめ水に浸けていた真昆布と、鰹、いりこで出汁をとり、醤油、酒、塩、味醂、寒天を溶かして型に入れた。結構素早くできたのは練習の賜物だ。

温度帯が明日どうなるかわからない、その時の為に2つのレシピを用意する。若干濃い味、若干薄い味。初めは3種類用意するつもりだったが、修造が江川の為に2種類に絞った

綺麗にラップで蓋をして冷蔵庫にしまいながら江川はホッとして額の汗を拭った。

江川はこの前日の1時間の為に野菜と出汁を使った寒天のゼリー寄せを作る練習をしてきたのだ。そして包丁も研ぎ澄ませてきた。

材料がキチンと手に入ったのは下調べをしてくれた2人のおかげだよ。ありがとう鷲羽君園部君。そう思いながら江川は小さくガッツポーズをした。

ゼリー寄せができたら今度は豚塊を味付けする。ミールで挽いた岩塩とハーブ、砂糖を擦り込み、紙で包んでジップロックに入れて冷蔵庫にしまった。

修造は明日の為の生地作りをしていた。まず鷲羽がさっき言っていた種を育てたグルントザワーの次の段階、フォルザワータイクを仕上げる。

それと小麦粉で作った中種フォアタイク。

次にイーストを少しだけ使った長時間発酵の生地。

そしてヴィエノワズリー(クロワッサンやデニッシャープルンダーなどの甘い系のパンなどの折り込み用の生地)などを順に作っていた。

江川は素早い動きの邪魔にならないように生地の仕込み中の修造の欲しいものを用意したり、後片付けをしていく。

その様子を審査員がつぶさにチェックしていた。

2人とも練習の成果でギリギリのスケジュールをこなす事ができた。

「ふぅ〜」

江川は疲れをほぐす深呼吸をした。

1時間でクタクタだ。

明日どうなるかな?

きっと8時間マラソンみたいなんだろうな。

帰ったらもう一度スケジュールを確認しよう。

なんだか緊張でガチガチになってきた。

ーーーー

その夜

修造はベッドの中で工程のおさらいをしていたが、やがて考えるのをやめ目をつぶると早々とイビキをかき出した。

それを聞きながら明日の事を思い浮かべてスケジュール表を見てイメトレをしてみる。

明日この通りに動いて修造さんの足を引っ張ったり足手纏いにならない様にしなきゃ。

江川はスケジュール表を見ながらウトウトして紙を持つ手が下がりそのまま眠りについた。

大会当日。

後藤と五十嵐が声をかけにきた「修造シェフ、江川さんどうぞ頑張って下さい」

「皆さんのおかげでここに来れました。感謝してます。集中力途切れさせずにやります」

修造は決意の様な言葉を2人に対して言ったが、修造を取り囲む全ての人に対する誓いの様にも聞こえた。

江川は後藤と五十嵐にすっかり懐いてハイタッチをして「行ってきまーす」と笑顔を見せた。

これを見た後藤は、一昨日見た江川の決意を思い出して心が震えた。

「ほんと頑張ってね」江川の背中に呟いた。

応援席は2人の立つブースから随分離れていたが、全ブースを見渡せる。逆に選手からは隣のブースとも仕切られていて様子を見る事はできない。

選手の前には審査員がすぐ間近まで来て全て丸見えだ。

さて、とうとう開始の時間を審査員長が告げた。

昨日の準備で手近に置いたラックに必要な用具は全て揃えてある。

例えば鉄板に敷く板や紙一つ、上に乗せるシートひとつとっても大切なのだ。

全ての作業が『これにはこれを』と決まっている。使う順に置いて上から使って使い終わると陰に置いた箱にしまう。

江川は修造の素早い動きに沿っているものを準備したりしながら自分の作業をしていく。

昨日仕込んだ豚塊を常温に戻し、一旦洗って拭き取り、フライパンでオリーブオイルを回しかけ焼いてからオーブンに入れた。それを予熱で火を通す。その間にソースを作って一緒にタッパに入れてカットする時間まで冷蔵庫に入れておく。

次に芋類を細長くカットして炒め始める、甘辛い香りが辺りに立ち込めた。

そのあと小型のミキサーで色とりどりの生地を仕込んでいきながら「僕世界大会に出てるんだ」と一瞬忙しく動いている修造を見た。

僕今修造さんと世界大会に出てるんだ。

いつもの練習と違う、本番中だ。顔が紅潮してドキドキするがいつもの練習を思い出して手を動かす。冷静に冷静に。

修造は前日に作ったザワータイクの乳酸菌を増やし酸味のコントロールを心がけていた。

Dinkel(ディンケル)小麦全粒粉を石臼製粉機を使い製粉して粉の自然な甘さと風味を大切に仕込む、そして朝一番から緩やかで長めの発酵をとりたい。

※ストレッチアンドフォールド4回

焼きあがったミッシュブロートは裏を指でコンコンと叩いて焼き上がりを確認していく。

この様に書くといっぺんにできるみたいだが、実は長い発酵時間を経てできるので、全ての生地の時間のかかる作業をうまく工程に組み込んでいく。香りと食感に殊更注意した。

会場が開き、応援の人達が到着した。選手のいるブースから通路を隔てて更に後ろのラインからは出てはいけないが、大型のモニターで各国の選手の手捌きを見る事ができる。

後藤と五十嵐が来ているみんなに名刺を渡して挨拶した。

「俺たちは以前ホルツに居たんです」鷲羽が挨拶した。

「私達は今ホルツで働いています」北山も頭を下げた。

後藤はニコニコして「そうなんですね、同じパン業界の者同士、今日はみんな心を一つにしてお二人を応援しましょう」

「はーい」

後藤から受け取った応援グッズを持って皆応援の言葉を繰り返し叫んだ。

また日本に居ながらにして、世界大会の今の状況が配信されていて、家族やパンロンドの人達も応援していた。

鷲羽は遠くから2人の動きをじっと見ていた。脳内に刻み込む為に。スピードや手順、どっちが何を作っているかなど動画にも撮って帰ってから何度も見るつもりでいた。

絶対にいつか自分もこの場に立ってやる!

そんな気持ちで。

ーーーー

修造達のブースでは

バゲットはデインケル小麦を使い長時間発酵で。皮はパリッとして小麦の甘味を感じ、内層は艶やかな断面のバゲットが焼きあがる。大型のパン、パンスペシオの生地も発酵して、それぞれに成形されて窯に入れられた。

焼き上がりが楽しみだ。

窯の開け閉めと共になのか、昼間の太陽のせいなのか。前に聞いていた通り会場はどんどん暑くなって来た。

江川は顔がほてってきた。

「暑かったんだ」

実は暑い時とそうでない時の二つのプランを練っていた。なのでタルティーヌの為には2つの温度用に作っていた。

その後、修造は生地を細長く切り、それを束ねてゴムのようにぴょんぴょんと伸ばした。それをまた折って伸ばしまた折って伸ばしまるで麺のように伸ばした後、江川が少しずつ丸めてボーゲルネスト(鳥の巣」のような形にして、揚げ、中に紫いもと※オレンジ色のSüßkartoffelズースカルトッフェルのきんぴらを包んで焼いたクロワッサンの上に飾った。

それを見ていた大木は写真に撮って「ボーゲルネスト」と書いて鳥井に送ってやった。鳥井の店の名前はボーゲルネストだ。

写真を見た鳥井は1人嬉しくなってニヤニヤした。修造の鳥井への尊敬の気持ちを受け取った。

成形を済ませ、発酵した生地が焼きあがって行くと審査員達が厳かにテーブルに着く、

各国の選手が作るバゲット、ブリオッシュ、クロワッサンの審査が始まった。

バターの効いたブリオッシュは親方の言うところの「ぶちかましスペシャルの大型で、生地の一本にラズベリー生地とマンゴーの生地を使ったカラフルな編み込みパンを作った。

クロワッサンはブーランジェリータカユキの那須田に教えて貰った月形のパリッとしたものを。

焼成後イメージ通りの出来栄えを見てホッとした。

次にチェリーのシロップ煮を使ったバイカラークロワッサンの生地を細長く切り半分に折って真ん中に切り込みを細かく入れていく。それを花のように巻いて先を菊の花弁のようにカットする。それとは別に、赤い生地でステンシルを施した小箱を作り花を中に入れて焼く。花弁の先が焦げないように上に途中から厚紙をのせて気をつけて焼いた。焼成後江川がキルシュワッサー使用のシロップを塗る。

次に

各選手のタルティーヌがカットされて審査員に配られ出した。

それを見た江川が焦ってきた。

自分達のチームだけタルティーヌはまだできていない。

「もうカットしましょうよ」

「まだまだ」 

「まだ?」

「まだだ」

と言いながら修造は編んだ竹墨の生地で包んだスペルト小麦の薄型のカンパーニュに朝仕込んだ豚肉の薄切りを挟んでスタンバイした。

「もういい?」

「まだ」

とうとう次は日本チームの番が回ってきた。

「よし!素早くカットして江川」

「はい」

練習の賜物だ。顔が引き攣ったが、江川はとても薄く上手に濃い味付けの方の8種の野菜のゼリー寄せをカットしてパンと※アイスプラント、ローストポークの上に置いた。竹墨配合の薄い生地の焼き立てに燻製のチーズを四角く切って素早く並べて格子状にしたものを斜めに立てかける。ゼリーにピンと角があるうちに修造は素早くそれを前のテーブルに並べた。

それを係の者がカットして、ピールに乗せて審査員に順に配っていく。審査員達はピールに置いた現物の見本を見ながらカットされたパンを手に取り口に運んでから点数をつける。

固めに仕込んであるので溶ける心配はないが、時間が経つとゼリーの余計な水分が少しずつパンに染み込んでいくだろう。なのでぎりぎりまでカットしたくなかったのだ。

審査員達は、和風の味付けの野菜と薄切りのローストポークを丁度よく食べることができた。

上の薄皮をパリッと噛んだあとゼリーと豚肉が一緒に噛み込まれて生地に到達する。最後はパンの旨味と出汁の旨味がコラボする。

それを見た修造は密かにしたり顔をした。

審査員達は点数を採点表に書き出している。

江川はハラハラした。

ゼリーを使った人なんているのかしら。

さあ!

ぼやぼやしてる暇はない。

とうとう江川と修造はパンデコレを仕上げる時間に差し掛かった。

まず土台を用意して着物の生地を貼り付けていく。

生地の接地面に水飴をつけてから帯やら編笠やらを修造得意の十字相欠き継ぎでしっかりと組み合わせる。それを冷却スプレーで固めていくのだ。

そのあと飾りをつけていく。帯の模様の違いを表面が平らになる様に付けていき、本体に後輪をつける。

「あと5分」の声が上がる

最後まで諦めない。

江川は練習しすぎて随分実力がつき、修造と言葉を交わさなくても同じように動き、2人で完成させた。

江川、ありがとうな。感謝してるよ。

修造さんは今、世界最速だ。

2人とも心の中でピッタリと気持ちが合っていた。

2人で土台の周りに重石(おもし)代わりのパンを並べた。

「完成だ」

「はい」

その時2人は初めて周りの選手の作品をみた。

流石世界のレベルはとても高い。

「うわーすごーい」

「だな」

最後の1分

江川はこれまで会った全ての人に感謝の気持ちを込めながら、台の上を綺麗にしてそこら辺を片付けた。

修造も片付けに取り掛かり、作業を終了させた。

5・4・3・2・1 とフランス語で声がする。

タイムアップだ。

審査員はまだまだ各選手の作ったパンを順に試食していた。審査員は皆パンの全体を眺めながら本体をカットしたものを食べる。視覚と味覚両方に鋭敏に厳しく審査が行われる。

その前で大木がずっと修造のパンについての説明をしてくれている。

それを見ていたら胸に込み上げるものがあり、感極まって目から水分が浮かぶ。

やる事はやった。

全力を尽くした。

江川と一緒に

おわり

※Süßkartoffel ズース(甘い)カトフェル(ジャガイモ)

※ストレッチアンドフォールド 生地を捏ねるのではなく優しく伸ばして折り畳んでグルテンを形成するやり方

#デニッシャープルンダー   ドイツ語でデニッシュの意味

#フィード 供給すること。この場合は種に新しいライ麦を足して餌を与えるなどの意味。

※アイスプラント 表面に水滴状の細胞があり、プチプチシャキシャキした独特の食感がある。色合いが美しく、サラダに入れると映える。

この作品は2022年09月20日(火)にパン屋のグロワールのブログに投稿された物です。

36パン職人の修造 江川と修造シリーズ surprise gift

パン職人の修造 江川と修造シリーズ surprise gift

朝10時 シャルル・ド・ゴール空港に到着した。

Paris par Train(パリ行き電車)の文字を頼りに歩く。

「あぁ!着いた~!僕フランス初めてです」江川は飛行機が到着してからこの言葉を何度も言っていた。

「だな」

「これがフランスの匂いかあ」

江川は空港の空気を吸ってみた。

「何やってんだよ。そうとは限らないだろ」ときつめの言葉が江川にぶつけられた。

江川が驚いて振り向くと鷲羽と園部が2人を迎えに来ていた。

「あっ鷲羽君、園部君」

「修造さんお久しぶりです」

「お、鷲羽!久しぶり」

「修造さん、俺達、頑張ってます。フランス語は全然わかんないですけど」

「これから楽しみだなあ」

「はい」

「園部も元気だった?」

相変わらず一言も発しない園部は静かに頷いた。

パリには※SNCFという電車会社だけがあるので、同じチケットで地下鉄、トラム(路面電車)、バスも使える。

荷物をガラガラと押して※RER B線第1ターミナル駅から移動し30分でパリ北駅に到着。

街を散策しながら東駅へ歩く。

「へぇー!綺麗~」

江川達は何もかも珍しくてかっこいいパリの街を見回した。

4人はその後オペラ駅へ移動して鷲羽達の案内で※日本の食材を扱っている店をチェックした。

味噌や醤油などお馴染みのものが並んでいる。

「なんでもあるもんだなあ」

「そうでしょう」

修造はいるものをメモして鷲羽に渡して、それを日にちを指定して注文して貰った。

その後プラス・ディタリー駅 経由でコルヴィサール駅で降りて目当ての※お洒落なパンとケーキとチョコのお店に入る。

店内はパンとバターの香りで満たされている。

「江川、これがパリの香りだよ」と鷲羽がかっこいい事を言う。

バゲットとショーケースの※ポワトゥ=シャラント産のバターを使ったクロワッサンを買った。

袋に顔を突っ込んで香りを嗅いでみる。

スーと吸ってウーンとのけぞる良い香り。

店の前のヴルツ通りを渡り、3本の木の下のペンチに座る。

「うまーい」

「本場の味だなあ」と味わう。

「ここの近くに住みたいぐらいだ」

歩道を歩く人達はみなパリで当たり前に暮らしてるんだ。と思うと羨ましい。

「ねえ、ちょっとぐらい観光しましょうよ~」

「あれとあれは見とくか」

「エッフェル塔!観に行こう」4人はまたパリメトロ6号線で移動してビラケム駅で降りた。

エッフェル塔はすぐだ。

観光客でごった返す中「鉄の貴婦人」と呼ばれる塔を繁々見た。

青い空に映えるレース状のトラス構造やエッフェルタワーブラウンの事を鷲羽が言っていたので「へぇ〜」っと口を開けて上を見上げた。

その後セーヌ川にかかるイエナ橋を渡り、カフエ ド トロカデロでまた休憩

ビールとポテトフライやアイスカプチーノとパン オ ショコラやラズベリーケーキなどをそれぞれ楽しんだ。

テーブルからもエッフエル塔が見える。

「おしゃれ!」と何を見ても大げさに感動する江川を皆微笑ましい目で見ている。

トロカデロ庭園からアベニュークレベールを真っ直ぐ歩いてエトワール凱旋門へ。

「うわ~フランス~」

「どこに行っても名所だなあ」

凱旋門近くのシャルル・ド・ゴール=エトワール駅からサンザラール駅へ

フランス国鉄(SNCF)の運行するTER(テー・ウー・エール)に乗り、サンラザール駅から製パン学校のあるルーアン駅迄1時間45分。

そこからまた移動して4人は7両編成の路面電車でフランシストリュフオー駅に辿り着いた。

近所にドラッグストアのある3階建てのアパートの、2階の鷲羽と園部が2人で借りている部屋に行き、ルヴァン種とサワー種をを受け取った。

「恩にきるよ鷲羽」

「そのかわり俺達が大会に出る時は協力して下さいね」

「勿論だよ」

大会で選ばれるのは1人だが、今までなら「俺」と言ってた鷲羽が「俺達」と言った事に江川は気がついていた。

鷲羽君ってちょっと変わったな。

「そうだ、鷲羽君、園部君。応援に篠山さんと北山さんも来るって」

「篠山と北山?」

鷲羽はすぐに思い出せない様だった。

「誰だっけ?」

「同期の、ほら」と園部が補足した。

「あー!?」

顔と名前が一致しない鷲羽を笑い、そのまま4人は夜遅くまで学校とパンの話ばかりしていた。

深夜、修造はヨガ用のマットを床に敷き眠ろうとしていた。

江川は2人掛けのソファで横になりながら

「修造さん、一緒にここまで来れて夢みたいです」

「まだその言葉は早いよ。これから大会だよ江川」

「でしたね、明日から頑張ります」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

と言葉を交わし、その夜は流石に疲れてぐっすり眠ることができた。

ーーーー

翌日

朝食は園部が当番らしく、バゲットにクリームチーズとラズベリー。そしてアツアツの※キッシュロレーヌをカフエオレと頂く。

「園部君これ最高!」と朝からテンションの高い江川に園部が黙って微笑んだ。

修造と園部が後かたずけをしていた時、窓の外を通る路面電車を見ていた江川に

「あのさ」と鷲羽は恥ずかしそうに話しかけた。

「俺は今までお前のパン作りを見てきたよ。だからお前の底力も分かってる。俺の分も上乗せして修造さんを助けてくれよな。俺はお前を信じてるぞ」

「鷲羽君」

信じてる、、そんな言葉が鷲羽の口から出て来るなんて!

江川の大きな瞳がみるみるうちにウルウルしてきたのを見て鷲羽もちょっとウルっときた。

江川は鷲羽と握手して「ありがとう。そんな風に言ってくれて僕本当に嬉しいよ。今になって、鷲羽君は僕の事ずっと見てきた理解者なんだってわかった」

思いがけない鷲羽の言葉に江川が本気で感動しているのを見て「やめろよ照れ臭い奴だな」と背中を向けたら話を聞いてニコニコして見ている修造と園部と目が合う。

「え、江川に喝を入れてただけですよ!」と言い訳した。

ーーーー

2人は鷲羽から受け取った種を持って

ベルノン駅で降りた。

セーヌ川の見える橋を渡り綺麗で広い会場に入る。

興善フーズの五十嵐良子を探した。

「田所さん、江川さん、お疲れ様です」

「どうも」

「早速おふたりの練習場に行きましょう」

そこには既に送った荷物と興善フーズの手配した材料が置かれていた。

「五十嵐さん。助かりました。どうもありがとうございます」

「何か困ったことがあったら相談して下さいね」

「はい」

早速粉を石臼挽きで挽き、それで種をリフレッシュして冷蔵庫に入れた。

そのあとはパンデコレの部品を作っていく。

本体を焼いた後、ナイフで正確に刻んでいき、継ぎ手を差し込んで水飴で留める。帯、蝶の羽や花など本番で組み立てるものは次々と作り上げて並べていった。

江川は鷲羽のパンデコレの一件を思い出して、もしこれを誰かが倒して壊したらと思うとゾッとした。

これを組み立てるのは大会の終盤なのだ。

「ここから外に絶対出さないようにしよう」

明日はいよいよ前日準備だ。

2人が興善フーズの用意した材料や資材をチェックしていると「ボンジュール!ムッシュ田所、ムッシュ江川」とスーツ姿の男が声を掛けてきた。

「どうも、後藤さん」

「あ、後藤さん。ムッシュだって、ウフフ。もう早くもフランスかぶれですか」と江川がからかった。

「まだそこまではいってませんが、お2人を応援する気持ちが高まってきています」と言って大げさに両手を広げて白い歯を見せ、上着を脱いでエプロンを付けた。

「私もお手伝いしますね」

洗い物を始めた後藤は「それで全部ですか?」と荷物を整理している江川に聞いた。

「明日知り合いが肉や野菜や乾物を持ってきてくれるんだ」と言いながら間に合わなかったらどうするのかなと心配になるが鷲羽と園部を信頼するしかない。

「向こうは僕を信じてくれてるんだから僕だって、、、」

「お友達ですか?」

「うん、僕今まではライバルと思っていたけど今朝凄く頼りになる友達なんだって気が付いたんだ」

「今日の朝、そんな素敵な事があったんですか」後藤はにっこりした。

素敵と言われて今までの経験が全て無駄にならず自分を押し上げる波のようにやってきて、高い所に運んでくれるようなそんな気持ちに気が付く。

「うん、僕勇気を貰ったんだ」

今の気持ちを言葉にするなら『勇気』が一番ピッタリな気がする。

頼りなそうに見えた江川が急に大人びていい顔つきになった。

こりゃやってくれるな。

後藤は大会が楽しみになってきた。

おわり

※RER B線  イル=ド=フランス地域圏急行鉄道網の5つの路線のうちの1つ。

フランス国有鉄道(フランスこくゆうてつどう、フランス語: Société Nationale des Chemins de fer Français, SNCF)

※オペラ駅の付近に日本の食材を扱っている店が何軒かある。韓国の食材も豊富。

※※ローラン・デュシェンヌLaurent Duchêne  MOF取得の職人さんのお店。2 Rue Wurtz 75013 Paris, France コルヴィサール駅から徒歩8分

※ポワトゥ=シャラント産のバター  AOP(欧州レベルでの原産地呼称保護)認証を受けた ポワトゥ=シャラント産のバター。原材料の産地及び伝統製法の厳しい規制をクリアした製品。

※キッシュ・ロレーヌ  ロレーヌ地方風キッシュの意。パータプリゼ(パイ生地)に卵、ベーコン、玉ねぎ、チーズなどの具とアパレイユ(液状の生地)を流して焼く。

このお話は2022年08月25日(木)にパン屋のグロワールのブログに投稿した物です。

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