13パン職人の修造 江川と修造シリーズ 進め!パン王座決定戦!後編

パン職人の修造 江川と修造シリーズ 進め!パン王座決定戦!後編

前回のあらすじ

江川と修造はNNテレビのパン王座決定戦の2回戦で4軒のパン屋でそれぞれ1品ずつ出し合い、NNパーク広場で300人のお客さんが選ぶ人気投票で1位に選ばれる為に奮闘中だった。修造が用意したのは牛すじカレーパンだったが果たして。


さて

300人のお客さんは行きたいパン屋のパンから食べて行き、4種類のパンの中から1番と思うものに投票していった。

今のところ佐久間チームが圧倒的に人気だった。

そろそろ終盤、パンロンド田所チームのブースでは修造が丁寧にカレーパンを揚げ続けていた。

修造のカレーパンは衣がカリッとカレーはトロトロとスパイシーで牛スジがトロリプリンとして最高だった。

お腹一杯の人達まで牛すじカレーパンを完食し、その足で投票に行った。

口の中は他のパンは消え、スパイシーで頭とお腹が一杯だった。

全ての人が投票を終えて300人分の投票用紙は各店舗別に掲示板に貼られていった。

司会の安藤良昌(あんどうよしまさ)が出てきた。

「さあ!お待ちかねの集計です。いったいどの店が何枚あるのでしょうか?決勝戦に進むのはどの店なのか!」

係のお姉さん達が集計をした紙を安藤に渡した。

「さあ!それでは第4位は!62票!ブーランジェリータカユキ!那須田チーム残念でしたがまた次回頑張って頂きたいと思います!クロワッサンサンド美味しかったです!そして第3位は!67票!北麦パンです!佐々木チーム残念でした!クロックムッシュ僕も頂きましたが本当に美味しかったです」

「さあ!では1位の発表ですー!」

安藤は2位は言わずに1位を言った。

「1位は102票!佐久間チーム!」

と同時にドーン!と音がなった。そのあと音楽が鳴り、安藤が更に大きな声で言った。

「おめでとうございます!決勝戦に進むのは!佐久間チームと田所チームです~~!」

「ふ~!僕たちのチームって69票でしたね、4位から盛り返したとは言え佐々木チームと2票しか変わらなかったな~」江川がとりあえずほっとして言った。

「ギリギリだったね」

佐久間チームには全然及ばなかったが、修造にしてみれば人が集中せず分散したことで、無理に急いで揚げたりせず自分のペースでいいカレーパンを揚げることができた。

販売のお姉さん達に「ありがとう」と言った。お姉さん達は修造に言われた通り、「カレーが熱いから注意して下さいね」と一人一人に言っていた。

勝敗に関係なく熱々を提供して、火傷しない様にフーフーして食べる楽しさをお客さんに味わって欲しかったからだ。

このカレーパン、パンロンドでも販売しよう。

放送が終わったら大量に仕込むぞ。

そうだ、カレーパンロンドって名付ける!

修造はそう決めていた。

佐々木シェフと那須田シェフに挨拶して、お互いに「また会いましょう!」と言って控室に戻った。

そこへディレクターの四角が佐久間シェフとやってきた。

「いや〜お疲れ様でした。次の決勝ですが、スタジオでパンを作って頂き、5人の有名人が審査して優勝を競って貰います!優勝賞金は100万円!テーマはパンのフルコース対決です!フルコースに見立てて4品のパンを5人分作って頂きます。フルコースと言ってもどんな形でも構いませんし、自由な発想の方が面白いのでそこら辺はよろしくお願いします。時間の都合でパンはお店で焼いて来て下さい。スタジオでは盛り付けからやって貰います」

クタクタの修造も佐久間シェフも内心『まだやるのかよ』と顔を見合わせた。次の収録の前にまた何を出すか考えなければいけない。

「収録は次の火曜日、NNテレビのスタジオですのでよろしくお願いします。資材は全てこちらで用意します。材料費もこちら持ちですので」

やれやれ、次は審査員5人が相手か。

何を出すかな、、審査員は多分パンの世界の人と、文化人、調理師学校の校長、タレント、なんかかな。

さて、佐久間シェフは何を出してくるだろう。

「修造さん!優勝賞金100万って何に使います?」

片付けながら江川はまだ優勝してもないのに聞いてきたが修造は「う~ん」と生返事をした。もはや頭の中は決勝の4品でいっぱいだったからだ。


修造は家に帰って黙って部屋に入って来た。

「修造おかえりなさい。お疲れ様」律子が台所からでてきてお帰りのハグをした。

「どうだった今日」

「佐久間チームと決勝に出る事になったよ。」修造はソファに座ってふ~っと息を吐きながらもたれた。

律子は隣に座ってネットでブーランジェリーサクマについて調べた。ホテルのベーカリー部門でブーランジェをしてから開業。店の評価は4.9。過去にパンのグランプリも受賞している。人気の品も沢山有る様だ。

修造はその画面をじっと見ながら、強敵だな。今日も圧勝だったよ。向こうからしたら俺たち雑魚(ざこ)かっただろうな。と思っていた。

律子は考え事に入り込む修造の手の平に自分の手を置いて「修造なら大丈夫よ」と言った。

「律子ありがとう。俺絶対勝つよ」

大きな手でそっと律子の手を握り返した。


修造は仕事中もずっとフルコースについて考え続けた。

ミキサーが回ってるのを見ながらこんな風に考えていた。

フルコース対決か、、

前菜はさっぱりと、、

ロッゲンブロートでエビや生ハムのタルティーヌはどうだろう。サワードゥのタルティーヌの上でオードブルを再現みたいな、、それともバゲットでブルスケッタ調とどっちがいいだろう。何種類か小さいものを展開してもいい。

律子の実家の近くで一緒に行った信州の農家のトマトが驚くほど美味かった。トマトってこんなに美味しかったかと思ったけど帰ってから冷蔵庫のトマトを食べたら味が全然違うんだ。

あれはやっぱ新鮮さなんだな。トマトの旨み。

朝採れのトマトを律子の妹のその子ちゃんに持ってきてもらうか、、ついでに他の野菜も!

オードブルで口をさっぱりさせて食欲増進しといて。

次は本来ならスープが来てから魚料理か?

メインの前にくどくなくてオードブルよりは食べ応えがあってパンに挟むもので、、

そうだ!ドイツにいた時エーベルトと北ドイツに行って魚の燻製料理を食べたっけ。

たしかKieler Sprottenキーラー・シュプロッテン(ニシンの薫製)って言ったな。

燻製の香りが美味しいニシンを軽いバインミーみたいにするのはどうだろう。カイザーにレバーペーストを塗って野菜のマリネとニシンの燻製のレモンソース添え、その上にパクチーか?

燻製の香りと旨みの後、爽やかな香りがする様にしよう。

次はメインの肉料理。

肉といっても色々あるけどさっぱり系の次はガツンといきたい。

肉料理はチャバッタみたいにしっかりしてるけど噛みやすいものがいい。肉の噛みごたえに負けず、肉の味の邪魔をしないものがいいかな。それともパンの味を強くしといて中身を食べやすい肉料理にするか。サワードゥで酸味がある方が肉が旨く感じるだろうか。。

肉はどうするか。。

ドイツ風牛肉の煮込み料理は美味い。ビール煮込みは炭酸で肉が柔らかくなるのと味が深まり苦味と旨みが残るところだ。しかもアルコールは飛ばすので酔っ払う心配もない。コーヒーかチョコを隠し味に使うか?

最後はデザート。

何にしようかなあ〜

パンを使うんだからアイスは溶けたらフニャフニャになっちゃうし、、硬く立てた生クリームとフルーツを使うか、洋酒を使うか。そうだ!サヴァランはどうだろう?などと考えていた。

ずっと心配そうに観察していた江川だったが、急にすっきりしてきた修造の表情を見て「親方!何を出すか決まったようですよ!」と報告してきた。

「へー楽しみだな」2人でワクワクして修造を見た。

「親方!江川と決勝戦の練習をしたいので買い物に行ってきて良いですか?」

「勿論だよ。色々決まったの?頑張ってね」

「はい!絶対勝ちますよ」

修造は時間の許す限り江川と練習して時間内にキッチリ仕上げる様にした。

そしていよいよ決勝前日

「江川、これ明日忘れ物の無いように用意してくれな」と持ち物の書いた紙を渡した。

「はい!」


さて決勝の火曜日がやってきた。

修造と江川はNNテレビのスタジオに様々な厳選した食糧と午前中作って来たパンを持ってきた。

「その子ちゃんに持ってきて貰った超新鮮野菜もあるし、あとは段取通り進めるだけだ」

スタジオでは審査員の席が5つ、その前にパンロンドとブーランジェリーサクマのキッチンブースが並んで2つある。

その後ろには大画面のデイスプレイが置いてあって色んなものが大写しにされる。

江川と修造は調理の為の準備を始めた。

「きっちり決めて最高のパフオーマンスを見せるぞ」

「はい!」

観客席ではどんどん人が増えてやがて満員になった。

ざわざわする中、審査員5人が着席して、司会の安藤良昌も出てきた。緊張が込み上げてくる。

安藤がカメラに向かって話し始めた。

「さあ!始まりました!パン王座決定戦。いよいよ決勝戦になりました。ここで審査員席の皆さんの紹介をしたいと思います。まず1番右が赤いドレスの印象的な女優の桐田美月(きりたみつき)さん、お隣が文化人の有田川ジョージさん、原料理学校校長の原隆(はらたかし)校長、アイドルの羽山裕香(はやまゆうか)さん、そしてお笑い芸人のマウンテン山田さんの5人です!」

モニターには5人が順に大写しになった。

「決勝戦は関東のパンロンド田所チームと関西のブーランジェリーサクマ佐久間チームの対決です。決勝のお題は『パンのフルコース』!合図の音と共に2チームが調理を開始します!審査員の皆さん5人で4品に点数をつけて貰い優勝者を決定して頂きます!結果は最後に発表になります!試食の順は人気投票で1位の佐久間チームのパンを先に行いまーす」

「それでははーじーめーーーっ」

プアーーン!と音が鳴り2チームはそれぞれ1品目の前菜を作り出した。

3種類のパンにそれぞれ違う具材をのせながら「まさかまた被ってないだろうなあ」と修造と佐久間シェフはお互いに作ってるものをみて驚いた。佐久間シェフも3種類のパンのオードブルを作ってる!

江川も横目で見ながら「この人達気が合うのかも」と思っていた。

佐久間シェフは修造を見た。「ドイツで5年修業してきたそうだが、しょせん私の実力には及ばないんじゃないのか。ちびっ子が助手みたいだし。悪いが決勝でも私が勝つよ」

2チームのパンがそれぞれ5人の審査員の前に並べられた。

「さあ!それでは一品目のパンを審査して頂きましょう!試食はじーめー!」

佐久間シェフは、バルケット(舟形)のミニパイを使ったアミューズを作った。トッピングはパプリカとズッキーニ、レンコンとヒジキのサラダ、海老と玉子の3種だった。

修造の前菜は3種のタルティーヌを出した。トッピングはカブと柚子と生ハムをのせたサワードゥのカンパーニュ、干柿とクリームチーズのロッゲンブロート、トマトのブルスケッタ。

「美味しい取り合わせを考えました。」と修造が、

「うちのカフェでも人気の取り合わせです。」と佐久間シェフが説明した。

司会の安藤が赤いドレスの桐田を指しながら「では女優の桐田美月さん、感想はいかがでしたか?」と声を張って言った。

「はい、こちらの生ハムのパンや柿のパンはフルーティーで美味しかったです、パンとの取り合わせも素晴らしいです。このブルスケッタのトマトも美味しいですね」

「田所シェフ、説明をお願いします」

「はい。トマトは長野県の標高が高いところでできたんですが、朝晩の気温の差が激しい所で育ったトマトは昼太陽の光を浴びて光合成で貯めた糖分が夜消費されにくいのでとても甘いんです。ブルスケッタにはサクッとしたクラスト(皮)のバゲットを使いました。パンは3種類とも小麦の香りが引き立つ様に石臼挽きの全粒粉を配合しています」

「素材を生かした美味しさでしたね」桐田と安藤のコメントを聞いて江川は祈るような気持だった。「どうかパンロンドのボタンを押してくれてますように!」

「それでは2品目のパンを審査して頂きましょう!試食はじ~め~!」

佐久間シェフはシャンピニオンというキノコの形のフランスパンを使ったアンチョビとジャガイモのファルシ(詰め物)を。修造はニシンの燻製バインミーを出した。

またしても魚料理が被っている!

5人が試食をしてる間、真ん中に座っている原料理学校の原校長は食べながら分析していた。「ニシンの燻製は皮と骨を取り薄くカットしてレモンハーブソースで和えてある。乾燥したニシンがレモンソースを吸ってソフトになっていて、燻製の香りが香ばしく、ニシンの油をレモンとパクチーの爽やかさが良い感じに中和してくれる。そしてサクッとしたカイザーゼンメルの胡麻の風味が噛む事に口の中に広がる」

うんうんとうなづいてるのを見て江川はほっとしていた。「校長先生うちを選んでくれないかな」

「さあ!それでは審査をお願いします」

全員が自分の前の2つのボタンから美味しいと思う方を押した。

「皆さん押しましたか?それではお笑い芸人のマウンテン山田さん、感想をお願いします」

「はい、僕正直甲乙つけがたかったんですわ〜。どっちもめっちゃ美味しかったです。キノコの形のパンの詰め物もおしゃれやし、ニシンもサッパリしてて美味しかったなあ!うまうマウンテンですわほんま」

江川は「マウンテン山田さん、どっちのボタンを押すかな」とハラハラした。

その時、女優の桐田美月は感動していた。

「パンの審査ってどんなのかと思ってたらレベル高いわ。あの目力の強いシェフのパン、美味しかったわあ。次も楽しみ。ウフフ」

江川はあと2品の準備をする為に材料を手元に寄せた。「あっ」

「修造さん!大変です!あの機械がありません!」

「えっ!ちゃんと用意できるように紙を渡したろ?」

「確かに用意して車に積んだのを覚えています!」

2人は自分達のテーブルの周りをよく探した。

「無い」江川が半泣きになってきた。「どうしましょう修造さん」

その時安藤が叫んだ「お次はもう3品目ですね!何が出てくるのか楽しみです!それでは作って頂きましょう」

画面に修造と佐久間が交互に大映しになった。

「江川、俺が盛り付けをしてる間に四角さんに事情を話して一緒に探して来てくれよ。広いから迷うなよ」

「分かりました」江川はべそをかきながら四角の所に走っていった。

四角は安藤に合図してこっそりと引き延ばしのサインを送った。

四角と江川は走って駐車場へ行ったが車の中を隅々まで探したのに無い!

「どうしよう!あれがないとデザートの味が変わっちゃう!」

「どんな入れ物だったんですか?」

「30センチほどの茶色いダンボールに入ってるんです。パンロンドってマジックで書きました」

「この車からスタジオまでの間に落としたかも知れない。他のスタッフも呼んで手分けして探しましょう」そういって道々キョロキョロと探した。

江川が通路の椅子の陰やごみ箱まで探していると「あら?あなたパンロンドの人よね?」と声をかけてきた人がいた。

「え?」

「私、1回戦で会ったBBベーグルの田中よ。今日は料理番組に出てたの。何を探してるの?」江川はあちこち探しながら事情を説明した。

「私も探してあげる」江川の表情を見てただ事じゃないのを察して田中が言った。


一方スタジオでは、修造の3品目は牛肉のビール煮込みのチャバッタ、佐久間シェフは全粒粉の食パンを使ったトンカツのサンドイッチだった。

「はい!それでは先に佐久間シェフのトンカツサンドをどうぞ!佐久間シェフ、こちらはお店でも人気なのでしょうか?」

「はい、こちらは当店ではとても人気の品です。分厚いトンカツを低温でじっくり揚げています。出来立てが何よりのご馳走です。ソースには赤ワインとリンゴを使っています。」

それを聞いてマウンテン山田が「なるほどね〜!揚げたて最高!」と言った。

時間を引き延ばすように言われた安藤はゆっくりと言った。「それでは食べながら田所シェフの説明をお聞き下さい!」

「はい、ライサワー種でスペルト小麦を使った長時間熟成の生地を使いました。パンにはバターを塗り、オニオンソテーの上に牛肉のビール煮込みと、ガーリックとジャガイモを細かくさいの目切りにして炒めた軽いポテトサラダをのせて紫キャベツとタイムの小さな葉を散らしました。パンと具材のマッチングを楽しんで頂きたいです」

すかさず桐田が感想を述べた。「パンがもっちりしてとても良い香りだわ。具材の全てをパンが引き立ててくれていますね」

「ありがとうございます」

「修造シェフ。ライサワー種ってなんですかね?ここで皆さんにちょっと説明して頂きましょう」時間稼ぎに安藤が聞いた。

「はい、ライサワー種はライ麦と水からおこした種の事です。ドイツは痩せた寒冷地が多く、,昔から小麦の代わりにライ麦を多く育てていました。なのでドイツパンはライ麦の比率が多いパンが多いのです。そのライ麦を使ったライサワー種は酵母の中の美味しい菌の割合が概ね乳酸菌:8、酢酸菌:2の割合が理想的と言われています。つまり風味豊かで美味しい酸味って事です。それは作り手の好みによって変わります。とても風味が良いので香りを楽しんでみて下さい」

そう言って修造は審査員にライ麦パンを渡して行った。まろやかな酸味と風味で、生地はしっとりとしている。

みんなへぇ〜という感じでパンを噛み締めた。

修造にしてはちょっと口数が多かったが内心いい時間稼ぎになったと思っていた。「江川どうしてるのかなあ」

その時、佐久間チームの助手が佐久間シェフにささやいた。「え?アイスクリームが固まらない?」

佐久間シェフはアイスクリーマーを覗いてみるとまだ液体のままグルグル回っている、上手く温度が下がってない様だ。「どうしましょう?次もうデザートを出さないといけないのに」ちょっとだけ固まりかけたアイスをみてうろたえた。「もう少し待ってみよう」

「さあ!それでは3品目の審査はいかに?」

審査のボタンを押しながらマウンテン山田は2チームの異変を見て「あの人らどないなってんねん。左のチームは助手が泣きながらディレクターとおらんようになったし。もう一方のチームは顔面蒼白やで」と呟いた。

佐久間シェフは焦った。「次はこっちの番だ。隣はまだ何も作ってないぞ!」先に修造にデザートを出させてアイスが出来るのを待とうと思ったがそれも出来ない。

安藤が慎重な面持ちで言った「さあ、泣いても笑っても次が最後です。4品目を作って頂きましょう!」

佐久間シェフはわざとのろのろと作った。そして少しゆるいアイスをスプーンですくって添えて出したが、スタジオの熱気で徐々に溶けていく!額から汗が噴き出した。

江川は機械がなくなった責任を感じてスタジオ前の長い廊下で膝をがっくりついていた。

「僕がもっとちゃんと見ていればこんなことにならなかったのに。修造さんごめんなさい」また半泣きになっていると田中が走ってきた。

「江川く~ん!これじゃない?」

「あ!それです!」箱の中身を見た!


佐久間シェフは冷や汗を拭きつつデザートの説明をしていた。「オレンジを使ったパネトーネにシナモンたっぷりのりんごとアイスを添えました」.残念だがアイスと言うよりは冷たいバニラソースになったがそれはそれで美味しい。

文化人枠の有田川ジョージが「オレンジの爽やかな生地とりんごのスパイスの味がソースに染みて美味しいですね。」と感想を述べた。

修造の番が来た。「江川どうなったかな。もし帰って来なければこのまま出すしかないか。」水色のふちの可愛い皿にパンを並べ始めた。

「修造さん!」

「おっ江川!間に合ったな!」修造は箱の中身を出してすぐにコンセントに刺した。起動して暖めるまでに3分かかる。

「わたあめメーカーだったのか」江川を追いかけてきた四角と田中は呟いた。

修造のデザートは、ブリオッシュにサクランボのリキュール『キルシュヴァッサー』を染み込ませたサヴァランで、その上に生クリームを加えたカスタードを絞り、表面をバーナーで焼いてアイシングクッキーで作った王冠を添えた。

あとはあれを乗せるだけだ。

「もう少し待って下さいね」

と、その間にわたあめメーカーが温まり、修造は真ん中の窪みに赤い飴を入れた。

「江川、のせたらすぐにお出しして。 」

「はい」

そのうちに赤い色の甘いわたがフワフワと出てきてそれを箸で巻いて小さなわたあめをつくり皿に乗せ、その上にラスベリーを砕いたものを少し振りかけた。

江川は全員に順にお皿を配り「お早目にお召し上がり下さい。」と言った。

バーナーで温めたカスタードの上でじわっとわたあめが溶けていく。計算通りになって修造は悦にいった。

「さあ!それではこれが最後になります。パンロンド、田所チームのデザートを召し上がって頂きましょう!」

食べながらアイドルの羽山裕香が「うわ〜っ赤いワタアメが可愛くって美味しいですぅ〜」と言ったので被せて桐田が感想を述べた。

「しっとりしたパンとわたあめの甘酸っぱさとそれをマイルドにするカスタードの味が一体化してとてもバランスがいいと思います」

「ありがとうございます。ラズベリーでキャンデイーを作り、それをわたあめにしました」修造は頭を下げた。

桐田美月は王冠の小さなクッキーを食べながら「これで王座は決まりね」と呟いた。

江川はほっとして、後ろで見ている田中にグッとこぶしを握って見せたので、田中も小さくガッツポーズをした。「江川君かわいい」

さっき箱を探していた時、江川が下ばかり探したので、背が高い上にハイヒールの田中は上を探していた。

台車に道具を沢山積んで運ぶ時に、1番上に乗せていた箱の上の隙間に廊下の木の枝が刺さりそのまそのまま引っかかっていたのだ。


全員が4品の試食を終え審査は点数発表だけになった。

司会の安藤が真ん中に出てきて特別声を張って言った。「さあそれでは最後の審査と参りましょう!皆さんどちらが美味しかったでしょうか?ボタンを押して下さい」

「桐田さん、いかがでしたか?」

「はい、悩みましたがどれも美味しかったのでその分も含め付けさせて貰いました。」

急にスタジオが暗くなり安藤と2チームにだけライトが照らされた。

「さあ!わたくしの元に審査結果の書かれた紙が届きました。5人の審査はどうだったのでしょうか。パン王座に輝くのはどちらのチームでしょう!!?」

デレレレレレ、、、と小さくドラムロールが鳴りだした。

江川は心臓がドキドキした。額から汗が垂れる。

「1品目パンロンド2点!ブーランジェリーサクマ3点!」

大画面に2と3が大きく出た。「サクマさんがまず1品目をゲットしました。さあ!次は?」

「2品目パンロンド2点!ブーランジェリーサクマ3点!」

ジャーン!と音が鳴り画面に4と6が映し出された。

江川は修造を見て背中に冷や汗が垂れた。

「うわ!ちょっとワナワナしてめっちゃ悔しそうなのに顔に出してない。こわ〜!」

修造は反省と悔しさで血圧が上がってぶっ倒れそうだったがグッと耐えた。

「さあ、まだまだ分かりません!さて次は?」

「3品目パンロンド3点!ブーランジェリーサクマ2点!」

画面には7と8が出た!

「次でとっちかが優勝か引き分けだ!どうなるぅ〜?!」

さあ!4品目は!?

デレレレレレレ!!ドン!

「パンロンド!4点!優勝は田所チームです!11対9点でパン王座決定戦はパンロンドの勝ち〜!佐久間シェフもありがとうございました~!」

バーンと音楽が鳴って金色の紙が降りライトが当たった。

安藤が「おめでとうございます〜」と言って修造にトロフィーと賞金を渡した。

「やったー!やりましたよ修造さん!」

「ありがとうな、江川」

修造は泣いてる江川にトロフイーを持たせて、手持無沙汰になったので仕方なくどこかしらを向いていた。

2人が大写しになったままテレビはカットになった。

優勝して喜ぶところだが、修造の頭の中はさっき作ったパンの成功と失敗を反芻していた。「前菜とカイザーのどこがいけなかったんだ、、」

そこへ桐田が挨拶に来た。「修造シェフ、とっても素晴らしかったわ。またお会いしましょうね」

「あ、はいどうも」考え事中に話しかけてきた桐田に修造は生返事をした。

控室に戻ると佐久間シェフがいた「修造君優勝おめでとう、よく勉強してるね。こちらも色々学ばせて貰ったよ」

「佐久間シェフ、俺たち似たもの同士なんですかね?カレーパンと前菜は驚きました。それとフルコースの流れも一緒でしたね」

佐久間シェフも同じ事を考えてたらしくうなずいて微笑んでいた。


世話になった人達にお礼を言って、帰り道の車の中で「修造さん、桐田さんって綺麗でしたね〜。僕あんな近くで芸能人見たの初めてです」

「きりたって誰だ?」

「えー信じられない。あんな美人を。修造さんって頭の中パンでできてるんじゃないんですか?」

「だとしたら美味いな!絶対!」修造はフンと笑って言った。

だがふっと表情が変わり「江川、、俺はドイツに行く時律子から条件を出されたんだ。絶対女の人と目を合わさなきゃ行ってもいいってな」

「ええ~!?」

「俺が眼で女の人を落とすって思ってるのかもしれないがそんな事あるわけないんだよ」

江川は律子の厳しい言いつけに背筋がぞっとしながら「そんな事できるんですかぁ?ていうかやったんですか?」と聞いた。

「そうだよ。律子と緑のところに帰るのが大前提だから、もし俺が裏切ったら律子の鋭い勘で一発で見抜かれる。そしたら俺は帰る所がなかった」

「ひえ〜厳しい!」

「俺にとっては女性は律子しか考えられない。と同時にパンの修行に行きたいって気持ちも通してしまったんだ。律子との約束を守るのが自分の見せられる最大の誠意だった。だから自信を持って律子のところに現れる事ができたんだ。今もそれは変わらない。江川。俺は律子とは本当に相性が良いんだ。律子以外は考えられないんだ」

急にのろけだした!「はあ」

「今日は早く帰ろう」

「はあ?」

「一回だけちゃんと目を見て話をした事があったな。告られた事があって、流石に目を逸らしたままじゃいけないからと思ってね。そしたらえげつない美人だったよ。でももうどんな人だったか忘れたな〜」

「概ね約束を守ったって事ですね。僕が表彰してあげますよ。約束を守ったで賞!」

「嬉しいね」

2人は疲れていたが爽快な気分でふふふっと笑った。

「さあ、もうすぐパンロンドだ。放送が終わったら忙しいぞ!」

「はい!」

進め!パン王座決定戦後編おわり

このお話は8月27日金曜日パン屋のグロワールのブログに投稿したものです。


 


12パン職人の修造 江川と修造シリーズ 進め!パン王座決定戦!前編

パン職人の修造 江川と修造シリーズ 進め!パン王座決定戦!前編

このお話は新人の杉本君  Baker’s fightの続きです。

下町の商店街にあるパン屋のパンロンドは今日もお客様が絶えない。お客さんがパンを買って帰ったらまた次のお客さんが来る。

大人気のとろとろクリームパンを成形しながらパンロンドの店主柚木(通称親方)は仕込み中の職人田所修造を見て思っていた。

修造が修業に行っていたドイツから帰ってから急にやる気に満ち溢れた職人が増えてパンロンドは爆上げになったな。

あいつは本当に大したもんだよ。

律子さんと緑ちゃんをおいてドイツに行くって言った時はどうなるかと思ったけど、帰ってきたら相変わらず律子さんと超仲良し夫婦だし、丸く収まるもんだなあ。

杉本は修造の舎弟みたいだし、江川は金魚の〇〇だな。

そこへ電話がかかってきた、親方は人一倍太い指で受話器をとった。

「はい、パンロンドです」

「初めまして。わたくしNNテレビのディレクターの四角志蔵と申します。この度夕方の特番でパン王座決定戦というのをやるんです」

「へぇ〜、、えっ?うちが出るんですか?」

「はい、最近人気の店を調べてパンロンドさんのお名前が上がってきましたので」

「何をやるんですか?パンのクイズとか?」

「それもあります。勝ち進むと更にテーマがあるんですが、それは現場でのお知らせという事になります」

親方は修造を見ながら言った。

「四角さん!うちに相応しい人材がいますよ。ぜひやらせて下さい」

「本当ですか?全て録画になりますが、お茶の間の視聴者はみな釘付けになりますよ。各チーム2人ずつペアで参加なんですがどうですか?1回目の撮影は来週の火曜日です」

「わかりました」

「修造くーん」電話を切って親方は修造に声をかけた。

親方がこう言ってくる時は大体頼み事が多い。

いやな予感しかしない修造は親方を見た。

「来週火曜日に修造と誰かもう1人がNNテレビのパン王座決定戦に出る事になったんだよ」

「もう決めちゃったんですか?俺テレビとか苦手なんですが」

人前で何かするとか嫌だな。特に目立つのは苦手だな。そう思ってると

「修造さんとですか?だとしたら誰かもう1人って僕しかいないですよね!」

修造と一緒と聞いて気が大きくなって修造の弟子っこの様な江川卓也が立候補してきた。

「じゃあ頼むな」

親方はさらっとそう言ってまた仕事に戻ってしまった。

杉本は倉庫に材料を取りに行ってて出遅れて悔しがった。

「え~!江川さ~ん!変わってくださいよ」

「嫌だよ。僕が修造さんと一緒に出るんだもんね」

そんなやりとりを聞きながら修造は凄く嫌そうにしていた。

うわ、俺どこかに逃げ出そうかな。

そう思いながら火曜日はすぐにやって来た。

修造と江川はNNテレビに向かう車の中で

「なんで俺がテレビに出なくちゃいけないんだ」

「まだそんな事言ってるんですか?僕なんて何も知らないのに出るんですからよろしくお願いしますね」

「お前、、信じられない図々しさだなあ」

そんなやりとりをしながら2人はNNテレビに到着した。

「うわー!僕テレビ局初めてです。広いなあ」

ADらしい人に控室に通されて「こちらに座ってしばらくお待ちください」と言われた。

自分たちの他に5組いるんだ。修造は腕を組んで椅子に座りながら凄い目力でジロジロ観察した。

1番右、あれは北海道のパン屋北麦(ほくばく)パンの佐々木シェフだ。ここの自慢は自家製酵母を使ったハード系。

2番目が東北のブーランジェリータカユキの那須田シェフ。ここの自慢は見た目も美しいデニッシュとクロワッサン。

3番目は関東の俺たちパンロンド。

4番目は関西のブーランジェリーサクマの佐久間シェフ。ここは豊富な惣菜パンが有名な人気店だ。

5番目は中国地方のBBベーグルの田中シェフ。ここはベーグルの種類が豊富で、華やかなベーグルフルーツサンドが人気なんだ。

そして6番目は九州の酒種パンのロングハッピー藤原シェフ。

「それぞれ持ち味出してる店ばっかだな」

うちが1番無名かなあと言ってるとディレクターがやって来た。

「どうもみなさんお待たせしました。ディレクターの四角と申します。今から皆さんでクイズの勝ち抜き戦で争って頂きます。パンにまつわる問題が出ますのでどんどん答えて行ってください。6組中4組までが勝ち抜いて第2ステージに向かいます。全10問しかありませんので頑張って下さい。お2人のうち、わかった方が答えて構いませんよ」

説明のあとスタジオに案内された。1番やる気のない修造はだらだらと最後について行き「さっさと負けて帰ってやる」と小声で呟いた。

スタジオは広くてセットのところだけ凄くライトアップされていた。

「セットの裏側ってベニヤ板なんですねぇ」江川が嬉しそうにあちこち見ている。

スタジオのセットはクイズ番組でよく見る1番から6番のマークのあるブースに仕切られていて、2人は3番のマークのところに案内された。

「このボタンを押すんですね。早押しなんでしょ?」

「そうらしいな」

ピンポン!江川は赤い丸いボタンを押す練習を始めた。なかなか素早い。

とそこへ、売れっ子司会の安藤良昌(あんどうよしまさ)が真ん中に立って挨拶して来た。「皆さん、今日はよろしくお願いします」そしてマイクをつけたり、セットを直して貰ってる。

「あれ、安藤良昌ですよね!芸能人見たの初めてだな」

江川おまえの好奇心は天井知らずだな。

そう思ってると音楽がなり、とうとう番組が始まった。

皆緊張の面持ちで立っている。クイズが始まった。安藤が問題を読み上げた。

ジャジャン!

「第一問!パンを発酵させるパン種の中でも有名と言われるホップ種はイギリス、ルブァン種はフランス。ではライサワー種はどこの国?」

修造はすぐに押したが、既にブーランジェリータカユキの方が押していた。

「はい!2番の那須田チーム」

「ドイツ!」

「正解です。一問目はブーランジェリータカユキの那須田シェフです」

江川は修造の顔を見た。

あ!ドイツが答えなのに!

修造さんめっちゃ悔しそう!

これ外すか?って問題を答えられなかったので修造は意地になってきた。

「おい江川、ボタンの方に立って俺が背中を押したら反射的にボタンを押せよ。素早くな!」

「はい」

ジャジャン!

「第二問!パンを膨らませるための原材料のペースト状や生地状の発酵種の中で、サワードゥは直訳するとどんな意味?」

ピンポン!最後まで聞き終わらないうちに修造が江川の背中を押して、江川が素早くボタンを押した。

「はい!3番の田所チーム!」

修造が江川にささやいた事を江川が言った。

「酸っぱい生地?」

「正解!パンロンド田所チームにポイント10点!残りはあと8問です!」

ジャジャン!

「第三問!粉の20%から40%程度に同量の水と酵母を混ぜ込んでつくる液種法は水種法と何?」

また素早く背中を突いて「ポーリッシュ法!」「はい正解!」

次々と答えていき、パンロンドは素早さだけで50点稼いだ。勿論他のパン屋もわかってはいるのにという感じだった。そこでディレクターの四角の指示で司会が「田所チーム!あと4問あるのでちょっとここでお休み下さい。他のチームの争いになります。もし那須田チームが50点稼いだ場合はもう一度参加して頂きます」と言った。

修造がチェっとなったので、江川はそんな修造を見て、初めは嫌がってたのにこんなに熱くなって、この人ギャンブラーじゃなくて良かったよと呆れた。

結果

1位はパンロンド

2位は20点稼いだブーランジェリータカユキ

そして3位は10点のブーランジェリーサクマと北麦パンだったのでもう一問を2チームで争う事になった。

ジャジャン!

「問題です。一般的なライ麦の発芽温度は次のうちどれ?1番1℃から2℃。2番5から6℃。3番7から8℃」

タッチの差でブーランジェリーサクマが押した。

「はい佐久間チーム!」

「1番!」「はい正解!おめでとうございます。3位決定!これで4位は北麦パンに決定しました」

音楽と共に番組は一旦締められた。

ディレクターの四角は控室で4軒のチームを集め「お疲れ様でした。次は4軒のパン屋で人気対決をしていただきます。各店舗のブースを設けます。機材はこちらで用意するので何を作るのか考えてください。材料費はウチがお支払いします。出す品は各店舗1品ずつ」

四角は説明を続けた。

「お客さんの数は300人。皆さんに4店舗の名前が書いてある紙を持って頂いて美味しかった店を決めて、投票所にある各店舗の投票ボックスに投票していって頂きます。投票数の多かった2店舗が決勝進出です」

「準備があると思いますので、1週間後、NNパーク広場で行います。それではよろしくお願いします」

「うわ、人気対決ですって。どうするんですか修造さん」

「絶対勝ってやる!帰ったら早速考えるぞ!」

他のパン職人達も同じ様に思ってたらしく早々に全員帰った。


親方は行きと帰りの修造のテンションの違いを見て驚いた。息巻いている。

「江川君、どうだった?今日のクイズ」

「はい、うちの圧倒的勝利だったんです。次も絶対勝つって言ってます」

「うへ!それは凄いね」


翌日、修造の頭の中は何を作るかでいっぱいだった。

対戦相手は那須田チームのデニッシュかクロワッサン、佐久間チームの惣菜パン、佐々木チームのハード系が自慢の店か、、もっとも食べたくなるパンってなんだろう。他所は何を持って来るのか?やっぱ知名度では勝てないか

ああいう屋台だと知名度と看板の写真なんかがものを言うよな

カレーやラーメンならなあ

そうだ!

カレーパン!

スパイシーで香り立つカレーはどうだろう?カレーがトロトロで皮がカリッとして。具沢山かそれとも肉の種類で特徴を出すか。

「あ、親方。修造さん何か思いついた様ですよ」クリームパンの生地を綿棒で伸ばしながら修造を観察していた江川が報告した。

「親方、買い出しに行きたいんですが」

「勿論行ってきていいよ。頑張ってね」

「はい!」

そう言って修造は駅前のスパイス専門店に走って行った。

そこには缶に入ったプロ仕様のスパイスが沢山並んでいる。

「えーと、ターメリック、クローブ、オールスパイス、コリアンダー、クミン、シナモン、カルダモン、チリペッパー、カイエンペッパー、ローリエなどなど、、」カゴに沢山スパイスを入れ、お店の人に「人気の出るカレーを作りたい」と言うと「そうですねぇ。これなんてどうでしょう」と、ししとう、パプリカ、セロリを指さした。

「沢山入れると気になる味ですが、旨みと香りが良くなりますよ。要は比率が大切なので色々試して見て下さい。スパイスをオイルでテンパリングして冷蔵庫で寝かすと丁度いい感じに馴染むんです」

「はい」

「それともう一つ。カレーができたら追いスパイスをするんです。ホールをすり潰すといい香りが立ちます。自分で好みの調合をして見て下さい」

「どうもありがとう!」とお礼を言って、帰りにスーパーでトマトと生姜とニンニクも買った。

次に肉屋に行った。うーん、ここは牛のステーキ肉かそれとも豚の厚切り肉か、それとも牛スジか、、よし!これにする!

修造はある肉を買った。

パンロンドに戻った修造は、早速スパイスのテンパリングを始めた。サラダ油でホールスパイスをじっくり炒める。あたりはスパイスのいい香りで包まれた。次にそのオイルに生姜、ニンニク、玉ねぎ、を入れてじっくりと炒める。そこにトマトとセロリをミキサーでピューレにして鍋で他の具材と合わせる。その後こげない様に水分を飛ばし、追いスパイスを入れたら粗熱をとって冷蔵庫で寝かせて馴染ませる。

その後修造は肉屋で買った牛すじを取り出した。

まずは硬い牛スジを大きめの鍋に入れ、煮込んだ後雑味を除くために一度湯を捨ててもう一度鍋に入れて生姜と煮込んだ。

始め固かった牛スジは徐々に柔らかくなっていき、そのうちにトロトロプルプルと柔らかくなって来る。そこに酒と醤油、味醂を入れて味付けした。

衣をどうするかな。

カレーパンの美味いのはルーは勿論だが、皮のカリカリした感じも欲しい。あーんと衣を噛んでカリッとした後、トロトロのカレーを迎え入れ、口の中で両方の食感と旨みを味わいたい。

次の日、サクい食感の生地にスパイスを馴染ませたカレーペストを包み、真ん中に牛スジを包んた。

それを水溶きの小麦粉と米粉を配合したペーストに潜らせてローストしたパン粉をつけた。

パン粉は親方自慢の山食パン「山の輝き」をパン粉にしたものだ。

カレーパンを揚げて「親方これ、食べてみて下さい」と渡した。

「うわー!美味い!」

「このカレーを持って2回戦に挑みます!」

修造は2回戦の前の日、300人分のカレーと牛スジを用意した。カレーのルーを炊き、最後に追いスパイスをして馴染ませた。そして寸胴にカレーを入れて冷蔵庫に入れた。

江川はお店から持っていくもの一覧を見て真剣に用意した。「えーとカレーのタッパと生地用の容器と牛すじにボールにパン粉に餡ベラにと、、うちわも?」

江川は全て準備したか確かめた後声をかけた「修造さん明日は頑張りましょうね」

「勿論だ!今日は早く寝ろよ!」


次の日はいい天気だった。NNテレビの広場には沢山の人がイベントの始まりを待って並んでいた。

4店舗のブースが並んでいる。それぞれ提供した写真と店名が各店舗の看板に大きく描かれている。今並んでる300人の人達は看板を見ながらどの店から行くか悩んでいた。

「修造さん、まさかでしたね」

「うーんまさか佐久間チームもカレーパンとはね」

「向こうも驚いてますよきっと」

1番ブースの田所チームは牛スジカレーパン。2番の那須田チームはクロワッサンサンド。3番佐々木チームは北海道産小麦の食パンにチーズとハムを挟んだクロックムッシュ、そして4番の佐久間チームは野菜たっぷりキーマカレーだった。

「うろたえてる暇はないぞ!そろそろ揚げる準備をしないと」

と、そこへ「おはようございまーす」とやって来たのはNNテレビが用意した販売員のお姉さん達だった。

「あのーお姉さん達どうぞよろしくお願いします」修造は珍しく爽やかに話しかけた。そしてお姉さん達にあるお願いをした。

江川には「さあ!どんどん揚げていこう!」と勢いよく言った。

すでに作業中のチーム達の前でロケが始まった。司会の安藤良昌が出てきた「さあ!パン王座決定戦第2回戦の始まりです。来場者に店名の書かれた紙をお配りしています!美味しかった店に投票して頂き、投票用紙の多い店の中の1番と2番が決勝進出になります!私の合図と共に300人の観客が好きなパンを選びます。それでははじーめー!」

プアーーーン!

合図の音と共に人々はそれぞれ自分の食べたいブースに並んでパンを食べ始めた。

江川は他のブースを覗いて「うわ!佐久間チームの所にあんなに沢山の人が!先にカレーパン食べられちゃったらお腹いっぱいになっちゃうな」と焦った。

佐久間チームのカレーパンはサラッとした口当たりで食べやすく、野菜の味がキーマカレーとの相性が良いと評判だった。

人々は皆メジャーな順に食べて行った。それはこの店なら安心という信用でもある。

マイナーなパンロンドは少々不利だ。

修造は手鍋にカレーを入れてコトコト炊いてうちわで仰ぎ出した。

「うわ!いい香り〜、ここに行こうよ」と言って、並ぶ人数が少し増えてきた。

江川はカレーパンを揚げながら通路を通る人に声をかけた。「牛スジカレーパン揚げたてで美味しいですよ〜」

「ちょっと、あの子可愛くない?」と言って並ぶ人も増えてきた。

江川はトレーにカレーパンを乗せて呼び込みをし出した。

「こちらパンロンドでーす」

「うちの牛すじカレーパンの方に投票して下さいね、パンロンドの田所チームをお願いしまーす。」

と、目をキラキラさせて言って回った。

修造はカレーパンを包んだり揚げたりしながら「俺にはできないなあ、あんな真似」と感心していた。

江川は一人一人に丁寧に説明して、わざと列を作り、どんどん長くして行った。

待たされると美味しく感じるものかもしれない。

他の店はどんな感じなんだろうか?

司会の安藤が中央に出てきた。

「さて!ここで途中経過の発表です!」安藤は4店舗の集計表を見て「はい!1位は今のところブーランジェリーサクマです!2位が北麦パン!3位ブーランジェリータカユキ!そして僅差でパンロンドです!まだまだ4店舗回ってない方が多いので全部食べ終わってから投票して行って下さい」

うわ、僕たちのチーム4番目だって、頑張らなきゃ。

来場者は3店舗回って結構お腹一杯の人達ばかりになってきた。

江川はカレーパンを渡すとパンロンドの店名が書かれた紙ををお客さんの手に持たせて「これ、パンロンドの所に投票お願いします」とニコッと笑って言った。

江川、そんなことしなくても俺のカレーパンは美味いんだ。

修造は焦らず最適の揚げ方に集中した。

後編に続く

この作品は2021年8月9日月曜日にパン屋のグロワールのブログに投稿したものです。

10江川と修造シリーズ 短編小説 江川To be smart 初めての面接

江川と修造シリーズ 短編小説 江川To be smart 初めての面接

こんにちは、僕は江川卓也(えがわたくや)。

関東のとある郊外にあるLeben und Brot(リーペンアンドブロート)というパン屋のオーナーです。

Leben und brotって生活とパンって意味で前のオーナーが名付けたんだ。

生活にパンは欠かせないんだって言う事なんだ。

前のオーナーは田所修造さん。

僕たちは元々は商店街のパン屋さん「パンロンド」って言う下町のパン屋さんで働いてたんだ。

今日は僕が初めてパンロンドで修造さんに会った時の話をしますね。

————

「江川シェフおはようございます」

Leben und Brotで働いている西畑茂が挨拶して来た。

「今日は面接に来る人がいるので、その時立ち会って下さいね」

「うん、分かったよ西畑君」

「江川シェフもこの業界に入って長いですよね、もう15年ぐらいですか?」

「そうだね、そのぐらいになるね。僕がパンロンドに入ったきっかけはパン特集の雑誌で修造さんを見かけたからなんだよ」

「本当ですか?実は僕もそうなんです」2人はフフっと笑い合った。

懐かしいなぁ。

あれは15年前、僕は北国にある地元の高校に通ってたんだ。

僕は小さい頃からちょっと変わっていて、他人の考える事が人より敏感に分かったり、普通人がそんな事で悩まない様な事で悩んだりする様な子だった。

学校が荒れてたせいもあって、毎日みんなが自分勝手に生きてたり、わがままを人にぶつけたり、他人を馬鹿にしたり利用してたりするのを見てるのが段々嫌になって来て、高3の受験時期なのに学校へ行かなくなったんだ。

誰も僕のそんな敏感な所なんて知らなくて、みんなとの意識のズレがあってそれが嫌だったんだ。

本当に孤独で、学校にいてもいなくてもそれは変わらなかった。

その日は部屋にいたけど、家族がみんな仕事に行っちゃってて誰もいなかった。

リビングに行ったら誰かが買った雑誌がテーブルに置いてあったんだ。

関東のパン屋で特徴のある店が何軒か載っていたページが開いていたのでパンを食べながら本当に何気なく見てたんだ。

そのうちの一軒にめちゃくちゃ目力のある人が載ってて、ドイツで修行してたって書いていた。

僕は何故かその記事が気になって食い入る様に見ていた。

僕にはわかったんだ、この写真の人は正直で真っ直ぐな感性で、こんな人が近くにいたら僕ももう少し楽なのにって。

記事の端に一緒に働く仲間を探してるって書いてたからすぐにそのパン屋に電話して面接をお願いしたんだ。

—————

誰にも言わずに飛行機に乗って関東のパンロンドにたどり着いた。

そこは駅から5分ほど歩いたところにある商店街の中にあって、下町のパン屋って感じだった。

入ってすぐお店の奥さんっぽい人に話しかけたんだ。

「あの、僕電話した江川卓也と言います」

「あ、面接の方ね。工場の中にいる横幅のでかいのがここの親方よ。柚木(ゆずき)って言うの」

「はい」

「ちょっとー!面接に来てくれたわよ」すると中にいた大きな男の人が「入って貰って」と言ってきた。

僕は中に通されて、親方と話をした。

「よう、わざわざ北国から来てくれたんだって?ここには南から来たやつもいるよ」

親方は凄く気さくな感じの人だった。

良かった、優しそうな人で。

「江川君はパン屋でバイトした事あるの?」

「ありません、僕バイトした事なくて」

「今日はせっかく来たから少しパン屋の様子を見せてやるよ」

「はい」

江川は帽子とエプロンを借りて、更衣室で着替えた。

工場の中には親方と他に職人が三人いた。

パンの工場には店の近くに大きな窯があり、横には細長い機械が2台。後で知ったけどそれはホイロとかドウコンっていうパンを発酵させるものだったんだ。他にも生地を伸ばすパイローラーや生地を細長くするモルダーがあって、奥に生地を捏ねるミキサーがあった。

僕はみんなの様子を見ていた。

一人はずっとパンを焼いていて、一人は鉄板にパンを乗せて機械に入れたり出したり運んだりしてる。

親方はパンにクリームみたいなのを詰めていて、そしてもう一人がパンを捏ねるミキサーの前に立ってその中の様子を見ていた。

あ、この人だ写真の。。

江川は背が高く目力の強いその人の顔をじっと観察していた。無心にパンを作ってる感じだな。僕はパンって機械が作って流れてくるパンを袋に詰めてスーパーに並べて売ってるとこしか知らなかったな。

でもなんかパンと向き合ってると言うか、こんなに真剣に作ってるんだ。

工場の人達もみんな自主的に動いてる。

みんなやるべき事が決まってるんだ。

やがてパンが練り終わったらしく、目力男はミキサーから生地を出して、ケースに入れた。そしてまた次の生地を作るために計ってあった粉をミキサーに入れた。水と他の材料を入れてまた生地を練り出した。

へぇ〜パンってああやって作るんだ、知らなかったな。あ、また粉を計り出した、きっとまた次の生地を練るんだ。前もって用意しとかないと間に合わないからなんだな。凄い無心だな。きっと生地の事しか考えてないんだ。誰が自分の事をどう思ってるとかそんな事関係ないこんな生き方もあるんだ。

江川があまりに目力男の方を見たので、目力男も江川の方を見た。

「こんにちは。江川って言います。今日は面接に来ました」江川がにっこりして挨拶したが、男の方は表情も変えず「どうも」と言っただけだった。

そしてそれっきり生地が練り終わるまで江川の方を見なかったが、やがて生地ができたのでケースに入れて、それから裏の倉庫へ行ってしまった。

親方はそれを見て「もうすぐ採用試験が始まるからね」と言った。

「あ、はい」なんか緊張して来たな。

試験ってどんな事を書いたりするんだろう?履歴書を見ながら色々聞かれるとかもあるのかな?

江川がみんなの様子を見てると目力男が倉庫から「こっち。」と言って合図して来た。

————-

江川は倉庫について行った。

「俺は田所修造。みんな修造って呼んでるよ」

「修造さん、よろしくお願いします」

「今から試験をするよ。これから三分間でこのダンボールを3つに仕分けして俺のところに持ってくるんだ。途中与えられるヒントは一回だけ」

「えっ!」

倉庫を見ると床にシートが敷いてあってその上に沢山のダンボールが積まれている。大小形の違う三十個ほどあるダンボールを三つに仕分ける?

一体どうやってやるんだろう?

しかも三分で?!

江川は緊張で心臓の鼓動が速くなった。

「靴を脱いでシートの上に立って」

「はい」

なんのヒントもなく修造は「始め!」とやや大きめの声で言った。

え?どう言う事だろう。

これを三つに?

江川はウロウロした。

どうしよう?

とにかく運ばなきゃ

でもどうやって?

頭が真っ白になり一瞬立ち尽くした。

僕なんてダメなやつなのになんでわざわざ飛行機に乗ってまでこんな試験を受ける事になったんだろう。

江川はなんだか自分がクイズ番組のオーディションが何かに落ちた様な気持ちになって来た。

「ヒントを言うよ!『速くしなきゃ溶けるよ』」

速くしなきゃ溶ける?

どう言う意味だろう。

あ!

わかった!

この中のどれかが溶けるんだ、三種類あるんだから冷やすものとそうでないものが答えかも。

江川は近くの段ボールを触っていった。

あ!これ冷たくないや!て事は常温!

そう言って修造の所に常温と思われる箱を置いた。

修造の顔を見たが、なんの反応もない。

試しにもう一つ常温の箱を選んで重ねて置いた。

「正解」

正解だったんだ!

でも後の二種類は?

江川はとりあえず触って常温のものを修造の所に走って運んで行った。

運びながら、わかったぞ!冷凍と冷蔵だ!

でもどうやって見分けをつけるのかな?じゅう

そう言って箱を横目で見てるうちにある事に気がついた。

水滴がついてるのとついてないのがある!

そうか!表面の水分が気化して水蒸気が発生して水滴になったんだ!

て事は水滴のついてないのが冷蔵だ!

時間が経って冷凍の箱からは段々水分が滲み出てきた。

修造は、一生懸命な江川の表情の一部始終を見て少し微笑みを浮かべた。

「これ!冷蔵ですね?」

「正解」

あってるんだ!

とりあえず水滴の付いてないのを先に運んで、あとは残った冷凍の箱を運ぶだけだ!

「あと二十秒!」

時間がない!

江川は出来るだけ速く運んだ。三

修造がカウントダウンを始めた。

「十・九・八・七・六・五・四・三・二・一」

まだ運び終わらなかった。

「ゼ〜〜〜〜〜〜〜〜ロ!」

修造は運び終わるまでゼロの長いやつを言った。

最後の一つをつまづきながら運んで修造の前にドサッ!と置くことになった。

「す、すみません」

「大丈夫」

—————

今ので合格かどうか決まるのかな。。

江川は箱を素早く片付ける修造を、息を切らしながら見ていた。

「さっきのところに戻ってて良いよ」

「はい」

靴を履いて工場に戻るとさっきと同じ動きを皆んながしていた。

親方が「どうだった?」と聞いた。

「はい、時間が足らなかったんです」

江川は正直にいった。

「そう」と言って親方はまた前の作業に戻った。

え?

どうなるんだろう僕。

不採用なのかな?

学校でもここでも浮いちゃって居場所がないんだ。

江川はここにいるのが辛くなって来た。

心細くてこの世のどこにも居場所がない様な気持ちにさえなって来た。

もう帰ろうかな。。

僕が帰っても誰も気が付かないかも。

そう思った時、片付け終わった修造が戻ってきた。

親方は「どうだった?」と聞いたら修造が「ええ。」と返事した。

そして江川に「来いよ。」と言ってまた倉庫に呼び出した。

どうしよう怖い!

「良くやったな。」

「えっ?」

お前は優秀だって言ったんだよ。最後までやり遂げたじゃないか。」

え!

優秀⁉︎

この僕が、いつも浮いてて友達もいない僕が。

5   いついかなる時でも

「パターン認識って言葉聞いたことあるか?」

「いえ、ありません。」

「パターン認識ってテクノロジー業界用語なんだ。もともと人間が出来る事をコンピューターにさせる情報処理の事なんだけど、逆に人に当てはめて言うと、急な変化に対応できる力って事だよ。 

これは前にやったことがある、あの時はこのやり方で成功した、このやり方で失敗したとか、自分で経験を振り分けて当てはめられるどうかなんだよ。

パン職人の仕事を何年もしていれば、大抵この能力に長けて来て現場対応能力が養われていくもんだ。

お前にはその力が強くて、パンの世界でも上達が早そうだ。」

修造さんはさっきまでと違って突然滔々と話をし出した。

「パン屋の仕事っていうのは毎日同じ様でも違うんだよ。だからそのパターン認識を使って対応できる能力があるかどうかで、理解度が違ってくるんだ。過去にあった出来事から最適なやり方を導くんだ。」

「勿論レシピを基本として。今日はこの温度だからこういう水温で、今日は少し長めにミキサーを回す、どのぐらいパシナージュ(水分追加)するかとか。パン作りって毎日同じじゃないんだよ。だからパターン認識が凄く大事になっていくんだ。

江川、お前はこのやり方で現場対応能力があるかどうかを試されたんだ。

失敗を回避して成功に導くんだ。つまり一言でいうと『咄嗟の判断で失敗を回避する能力』の事なんだ。」

江川は修造の言葉を口を開けてポカーンと聞いていた。

僕がそんな能力に長けてるとは全然知らなかった。もしこの人に会えてなかったら僕は一生自分の事を誤解したまま引きこもっていたかもしれない。

僕は認めて貰えたんだ。

「お前は冷たい熱いという自分の手の感覚で本当の事を見抜いたんだ。手の感覚って言うのはパン職人にとって凄く大切なんだ。」

「それともう一つ。」

「はい。」

「試験の前に工場での人の動きを観察してたろ?なんだか分析力に長けた奴だなと目つきで思ったよ。」

何も言ってないのにそんな事わかったのかな。

逆に修造さんって凄いんじゃないかなあ〜

僕この人と仕事ができるなら良いのに。

「で、お前は合格したんだよ。パンロンドにいつから来れるんだ。」

「すぐ来ます。」

「えっ?」

「帰って支度したらすぐ引っ越して来ます。

帰りに不動産屋に寄って住むところを探します!」

「お前行動派だなあ。じゃあ来たら俺が色々教えてやるから一緒にパン作りを始めよう。」

「はい!」

「だけどな。」

「え?」

「お前は卒業までまだ日にちがあるだろう。帰ったら卒業まで毎日誰よりも勉強しろ、出来るだけ沢山知識を詰め込んで来い。授業についていけないんなら先生に隠れて一から教科書を読んで来い」

「僕友達がいなくて学校に行くのが嫌なんです」

「いじめられてたのか?」

「そういうわけじゃ無いけど、最近学校を休んでたから今更行きにくいな、、」

「お前が学校に行って何かに一生懸命打ち込んでたら人は寄ってくるもんだよ。もしそうならなかったとしても、俺がお前を待ってるからな。ここで働くのを目標にしてやれば良いんだよ。だから、勇気を持って学校へ行け!」

この人が僕を待っててくれる。

江川にはそれが未来への一筋の道に思えた。

もし今日ここに来なかったら、分からなかった事だらけだった。

この日から修造さんは僕の目標になったんだ。

ーーーーー

江川は懐かしい十五年前の採用試験を思い出して西岡に話した。

「江川さん、そんな事があったんでね」

「ねえ、西岡君、修造さんらしい面接でしょう?」

「はい、本当に」

「うちの面接なんて履歴書見てちょっと話するだけだもんね。」

「そうでしたね。僕もそれで江川さんに採用して貰いました」

そこへ修造が黙って入ってきて事務所の来客用の椅子に座った。

「修造さん。僕、今西岡君にダンボール面接の話をしてたんです」

「あーあれか、あれは準備と片付けが大変だったんだ。本物の冷凍の段ボールを使って溶けたらいけないから中身を水を凍らせたペットボトルに入れ替えて、シートの上に並べてさあ、面倒だから五回ぐらいしかやってないよ」

「え!中身はペットボトルだったんだ、知らなかったな」

江川は今頃真相を知って口をあんぐりと開けた。

「中には僕は箱を運びに来たんじゃありません!って怒って帰ったやつもいたぞ」

そこへ「面接の人が来ましたよ。」と連絡があった。

中に入ってきた若い子に江川はこう言った。

「こんにちは、僕は江川。うちは髪色自由のお店ですよ。」

江川To be smart おわり

読んで頂いてありがとうございます。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

修造は普段は何も話さないのに時々スイッチが切り替わると解説しだします。

お話に出てきた現場対応能力ですが、筆者が見た凄い人達は百貨店に来ているマネキンさんです。

マネキンさんとは、マネキン会社に所属している方達で、催事の前にお願いすると週替わりの催事やパンの販売の時に来て下さいます。当日30分前に来て、並んでいるパンの値段をメモに書き、売れ筋のパンの特徴を聞き、開店時間には大体頭に入っていて、何年も務めた従業員さんの様にお客様に説明したりします。沢山売ってくださるので感謝しています。

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