パン職人の修造8 ペンショングロゼイユ

パン職人の修造 短編小説  ペンショングロゼイユ

このお話は「パン職人修造の第6部再び世界大会へ 前編」の、世界大会に出場する選手の江川拓也とそのコーチの田所修造の2人が大会の10ヶ月前に、出典作品のテーマである「祭」の芸術作品の案を考える為に、東北まで祭りを見に行った帰りの束の間の出来事です。


江川と修造は2人で東北と江川の店Leben und Brotとの通過地点にあるペンショングロゼイユ(赤スグリ)に泊まっていた。

ペンションは山間にあり静かな所で、洋館風の建物は古めかしいが雰囲気がとても良い。

周囲には花や果実のなった木もあり、手入れが行き届いていて眺めが癒される。

修造は昨晩、秋に出場するパンの世界大会の「パンで作る芸術作品」の原案を色々考えて眠れない夜を過ごした。

「おはようございます修造さん、大丈夫ですか?あんまり眠れませんでしたか?」

「うん」

無口な修造はあまり自分から話さないので、何か聞き出すのは容易ではなかったが、長い付き合いの修造の事なので江川は雰囲気で察するのが上手かった。

朝食の時間になり2人は1階の食堂へ移動した。自分達の他には客は夫婦らしいペアが2組しかいない。

江川はキョロキョロして、客室は8部屋中宿泊客は3組か。近所で有名な祭りをやっている時期なので宿泊客の多い時期のはずなのに。。と思っていた。

江川が運ばれてきた朝食を食べて驚いた。

うわ、目玉焼き焼き過ぎ、なんかありきたりなメニューだし、この丸パン、すごいイースト臭がする。寝坊したから間に合わせる為にイースト多めにしたのかな?それともわかってなくてやってるんだろうか?

修造さん、全然食べてないし。

江川はどんな人が作ってるのか厨房を見たその時。

「もうあなたとはやってられないわよ!」と怒鳴り声が聞こえた。

そして長い髪を後ろで束ねた細い背の高い女性がエプロンを外しながら厨房から出てきてそのまま外へ出て行った。

「うわ、喧嘩でしょうか?怒鳴ったのは今の厨房から出てきた女の人っぽいですね」

様子を見ていた修造が立ち上がって、厨房に1人で立っている男の人に言った。
「おい!早く追いかけて行け!何があったか知らないが謝ってこい!」

急に身長が180センチある、体格のいい修造に声をかけられ、驚いた男は慌てて出て行った。

「あの、あと2組が朝食を待ってますがどうしましょう?」

「え?」

見ると他の客はまだ何も食べてない様だった。

「あの調子じゃ2人ともいつ帰ってくるか分からないですよねぇ」

江川が修造に促す様に言った。

「仕方ないな」

修造は厨房に入ってさっきのメニューは無視してあるもので調理し出した。

食パンにハムと玉ねぎと粒マスタードを挟んだ砂糖抜きのフレンチトーストを焼いた後にチーズを乗せて、同じお皿に野菜、果物を美しく盛りつけた。

デザートはローテグリュッツェ(ベリーのフルーツソース)を作り、アイスに添えてコーヒーと出した。

2組の客は「うーん美味しい!」と感激して食べていた。
「美味しそう。修造さん僕もあれが良かったです。」と悔しがっていたら、さっきの男性が追いかけた女性と戻ってきた。

「先程はお騒がせしました。僕たち夫婦は2人でこのペンションを営んでいます。僕は初田紀夫、こちらは妻の美和子です」

「お料理をして下さったんですか?」

紀夫は他の客のお皿を見て言った。

皿の上の料理はよほど美味しかったのか、何が乗っていたのかわからないぐらい綺麗に食べられていた。

江川は「いつ戻ってくるか分からなかったから調理場に入らせて貰いましたよ」と、説明と言うか調理場に勝手に入った言い訳をした。

「すみません、ありがとうございました。コーヒーお出ししますのでおかけ下さい」
と美和子が頭を下げた。

そして4人で座って紀夫と美和子から話を聞いた。

修造が黙ったまま座っているので、江川が切り出した「さっきのは仲直りしましたか?夫婦喧嘩は犬も食わぬって言いますものね。僕たちが口出す事じゃ無いですし」

「私はこのペンションが心から好きで、建物の手入れも庭の草花の世話も手間を惜しみませんが、この人は本当にやる気が無いんです。初めは楽しそうに仕事してたのに、最近の手を抜いた朝食を見てると腹が立ってきて、、それで怒鳴ってしまったんです。全て1人でやるのは大変なので主人ももう少しやる気を出してほしくて」

江川は「あのぅ、僕からは言いにくいですがあまり美味しい朝食では無かったですよ。愛がないと言うか、やっつけ仕事と言うか」と言った。

「何でやる気が出ないんですか」修造が聞いた。

「僕は料理があまり得意で無いんです。簡単なやり方ならできるかと思って。それで7日分の料理を曜日ごとに出していて、その方が楽なので」

楽と聞いて修造の顔色が変わったのを江川は見逃さなかった。

「仕事に楽したいとかないだろ。食べる人の顔を思い浮かべてみろ、それが自分の作ったものでできた笑顔ならお前も嬉しいんじゃないのか」

「そうなんですが、、」

修造はこの男の意識から変えないと成り立たない話だと思った。

「数ある店の中からこのペンションを選んで来て貰ったお客さんに感謝の気持ちはないのか」

そして紀夫を厨房に連れて行った。

美和子が心配そうに見てるので、

江川は「大丈夫ですよ。あの人はドイツでパンの修行をして来たパンマイスターなんです。何が考えがあるんじゃ無いですか?」

「美和子さんは何故ご主人と結婚されたんですか?」

「私達は同じ会社で働いていて、同じ年に入社した同期なんです。付き合いだして将来は2人で何かやりたいねって言ってて、このペンションが売りに出されてたので相談して引き継ぐ事にしたんです。以前のここのご主人はこの方です」

美和子はファイルを取り出した。

ファイルには書類と写真が挟んであって、写真には赤い実の沢山なった背が低い木の前に60歳ぐらいの夫婦が立っていた。

「この夫婦が以前のオーナーです。このペンションの名前は以前は『ディ パンジオン ローテヨハネスレーベン』(ドイツ語でペンション赤スグリ)と言ったんですが、私たちの代になった時、ペンショングロゼイユに変えたんです。赤いスグリの事をグロゼイユともいうので。ペンションの前に何本か赤スグリがあって季節には小さな実が沢山できて真っ赤になるんです。この庭が気に入ってここを引き継ぐ事にしたんです。前のオーナーは奥様を亡くされてからがっくりきてペンションを売りに出されたんですって」

江川は「そうなんですね、今厨房にいる修造さんも奥様を亡くされて、それはそれは気落ちされていました。大切なものを無くすと辛いですね」

「江川さんはご結婚はまだ?」

「はい、まだなんです」

修造さんと亡くなった律子さんは僕の理想の夫婦だったんだ。

生活とパンと言う意味のパン屋Leben und Brot(リーベンアンドブロート)を修造さんが立ち上げた時、いつも2人の心が通い合ってたのを見ていて羨ましかった。

誰かと付き合ってるうちにあんな風になるのかと思ってたけど、未だにそんな人と巡り会えてない。

あんな風に目を見ただけで分かり合える仲なんて中々無いよ。僕には無理かな。

一方厨房では

修造は紀夫からまず興味を引き出さないとと考えていた。

しかしやる気のないやつから興味ってどうやったら引き出せるんだ。。

そうだ今日のパンの工程から見てみるか。

そして紀夫に「今日のパン作りの手順から教えて下さい。正直にね」と言った。

紀夫は紙に今日のパンの配合と工程を時系列で書いた。

紀夫の文字は、まるで揺れた所で書いた様なガタガタの読み辛い字だった。

「発酵時間が短いな。それを補う為かイーストを増やして、高温のホイロで無理矢理発酵させたな」

「はい、その通りです」紀夫は正直に言った。

「作り始める時間が短くて無理矢理やった感じです」

「手抜き、楽、それってその時は良くても続けると信用を失うよ。他人の信用って中々得られないじゃないですか」

「はい、それもその通りです」

紀夫の言い方は開き直ってる様にも聞こえた。

修造は前日に生地を作ってじっくり冷蔵庫で発酵させるレシピを書いて貼ったものの、これって実際にやってみないとなあ。でも明日は金曜日で麻弥の店の日だから今日中に帰らないと、、

「俺は今、そこに座ってる江川の店に在籍してるんですが、今度来て実際にこのやり方をやってみませんか?」とレシピを指差しながら聞いた。

「パン屋さんなんですか?行けたら行きます」紀夫は曖昧な返事をした。

「行けたら?今本気でやらないと、さっきみたいに愛想つかして奥さんが去って行ったらどうするんですか。このペンションも奥さんも失って初めて気がつく事になるんじゃないですか?」

「料理もパンも手間暇かけないと美味しいものは作れないんだ」

料理はどうなんだ、さっきこいつ料理が得意じゃないとか言ってたな。

そういえば冷蔵庫は出来合いのものばかりだったな。

「紀夫さん、あんたこのままでいいんですか?本当はこの仕事やりたかなかったんですか?」

「ずっと妻と2人で一緒にペンション経営をしていたかったです」

「していたかった?」

紀夫は近くにあった包丁を持って修造に見せた。

右手の付け根から伝わって、刃先が微かだが小刻みに震えている。

「ずっとじゃないんですが段々ひどくなってきて。身体を動かすと手が震えるんです」

「奥さんは知ってるんですか?」

「いえ、言ってません」

「医者は本態性振戦(ほんたいせいしんせん)と言ってます」

「初めて聞きましたが、、?」

「手、首、腕など人によって症状は様々なんですが、震えが出るんです。最近薬を飲み始めた所です。酷くなると手術になるそうですが怖くて」

「そうだったんですね、知らなかったとは言えキツめに言っちゃってすみません」

紀夫は修造を見た目はいかついのに心の優しい人だと思った。

「俺の亡くなった妻も初めは気にもしてなかった。何ともないって言ってたんです。どんどん悪化してそれが原因で亡くなった。止めようと思っても弱って、、細くなって、、もっと気をつけていれば良かったと後悔しかない」

「大切なものは守らないといけないですよ」

ーーーー

修造は江川を外に呼び出して事情を話した。

「え?手が震える?実際どうするんですかね?奥さんが作って旦那さんがサポートするとかが良いんじゃないですか?それか療養の為に旦那さんは休んで誰かを雇うとか?」

「そうだなあ。そうなっていくかもな」

2人が話してると1人のおじさんが庭を見て回っていた。
絡まった蔦(つた)を取ったり雑草を抜いたりしている。

江川はそのおじさんを見て気が付いた。

「あ!あなたは前のオーナーさんですよね?僕さっき写真見たばかりです」

おじさんは腰をとんとんと叩きながら伸ばして修造達を見た。
「ここのお客さんですか?そうなんですよ。ついつい気になってしまって、時々庭の手入れをしています」

「修造さん、こちらは以前ここのオーナーだったんですが、奥さんを亡くされてからここを売りに出されたそうなんです」

「神田清と言います」

「僕は江川拓也、こちらは田所修造さんです。僕たち2人ともパン職人なんですよ」

「パン職人。。私もここでよくパンを焼いたもんです。懐かしいなぁ。妻と2人で食事の用意やお客さんのお世話をしていました。妻はこの赤すぐりの木を気に入ってましてね。夏頃になると赤い実が一面に広がっていました」

「神田さんは今はもうお仕事はされてないんですか?」

「そうですね、思い出と共に生きてるようなものです。仕事をしてませんので結構暇ができて、たまにここに来ています」

「ここの料理やパンは何がお勧めだったんですか?」

「若い頃ドイツに少しだけ修行に行っていて、その時に覚えたものを出してました」

「ここで立ち話も何ですから中で話しましょう」神田を建物の中に入れて座らせた。

「俺と神田さんは境遇が似ています」修造は神田にシンパシィを感じていた。

江川が「修造さんも以前ドイツで修行されてたんですよ。奥さんが亡くなられて今はお店はやっておられませんが」と言った。

聞いてるうちに修造は段々落ち込んできた。
律子の事を思い出す言葉が多いせいだ。

表情を曇らせて窓の外を見出したので、内心余計な事を言ったと思いながらも江川は「以前はどんなパンや料理が人気だったんですか?」と神田に聞いた。

「ブロートヒェン(小型パン)やブレッツェル、カイザーゼンメルは人気でした。ミッシュブロートをサンドイッチにして出したりしてました。料理はグラーシュ(トマトベースの肉料理)、シュニッツェル(トンカツ)が人気でした」

「うわ!うまそうだなあ〜」

修造が向き直って「地元のものは何か使ってましたか?」と聞いた。

「はい、この辺はりんご農家が多いので季節には使っていました。アプフェルシュトウルーデル(りんごのお菓子)やフェアサンケナーアプフェルクーヘン(沈んだりんごのお菓子)を食後に出してましたね」

掃除をしながら聞いていた美和子が「凄い!うちもそんな料理やデザートが出せたらもっと賑わうと思います」

修造たちは紀夫を見た。

江川は、紀夫さん奥さんに病気の事言わないのかなあ、僕から言うのはお節介がすぎるし、、と思った。

紀夫は黙って立っている。

「俺はりんご農家が見たいんですが、案内して貰えませんか?紀夫さんも行きましょう」

紀夫は修造を見た。

何かまだ言いたい事があるんだろうか?

自分だってこのままではいけないのはわかってるんですよ修造さん。

「わかりました行きます」

修造、江川、神田、紀夫の4人は近くにあるりんご農家を訪れた。

「僕、りんご農家来たの初めてです修造さん」

「俺もだよ。南にはない空気感だなあ」

温度が低い冬場のせいもあって、空気は冷たく、澄んだりんごの木の香りが肺に入って来て心地よい。

修造と江川が始めてみたりんご農家のリンゴは、絵や写真で見るりんごの木のイメージとは違っていた。りんごの木一本一本はそんなに大きくなく、脚立に乗れば上まで手が届くように手入れされていて、わい下(わいか)と言って枝が下を向いていて、実が沢山なって収穫しやすい形になっている。そんなりんごの木が綺麗に整列した景色が広がっている。

神田の紹介してくれたりんごの農家の澤口さんが説明した。
「今は紅玉の季節は終わっていてここになってるのはジョナなんです。甘味や食感が人気ですよ。紅玉とゴールデンデリシャスを交配して作られたものなんです」

澤口さんが懐かしそうに言った。
「神田さんのりんごのケーキ、また食べてみたいです。ケーキ屋さんとかしないんですか?」

「もう新しく開業する元気はないですよ。妻もいないし、作ってみたい気持ちはありますが」

修造はジョナを指して「神田さんこれ、ペンションで何か作って貰えませんか?良いですか?紀夫さん」と言った。

「はい、勿論」2人が同時に返事をした。

農家のおじさんにりんごを少し分けて貰い、神田の知り合いのケーキ屋に立ち寄りアーモンドの粉末を譲って貰った。

修造達はペンションに戻り、修造と紀夫、神田が厨房に入った。

入りきれなかった江川は美和子と席に座ってりんご畑でのいきさつを説明した。

「今から神田さんが美味しいものを作ってくれるそうですよ」

「そうなんですか」

「美和子さんはご主人に変わって欲しいですか?以前はどうだったんですか?」

「そうですね、初めはもっとやる気だけはありました。さっき主人も言ってましたが、やり方がわからないのかもしれません。どなたか教えて下さればと思って料理教室に行ってくれるように頼んだんですが、行かないって、、」

「あの、奥さんその事なんですが、旦那さんは病気だそうですよ。さっき修造さんから聞きました。手が震えるそうなんですが気がついてませんでしたか?」

「え?そういえば最近良く物を落とします。それに朝起きるのも辛そうでした。でも全然知りませんでした。何故教えてくれなかったのかしら」

江川は修造に聞いた事を美和子に伝えた。

「心配かけたくなかったのかもしれませんね」

「それであんなに変わってしまったんだわ。何にも興味がないのかと思っていました。私紀夫に謝らなくちゃ」

2人は厨房を見た。

一方厨房では、神田がりんごのトルテを作ろうとしていた。さっきケーキ屋で手に入れたアーモンドプードル(粉末)とシナモンを効かせた生地を作って冷蔵庫で冷やした。

修造は「トルテの台ができたらひとつくださいよ」と言って冷凍庫の赤スグリを出してきた。

「これでおれもリンツァートルテを作りますよ」

神田は懐かしそうに「リンツァートルテもよく作りました。トルテに赤スグリのジャムを作って塗るんです」

「そうですね」

紀夫はそんな2人を見ながら、なんて楽しそうに作るんだ。自分はこんな気持ちで何かをつくった事があるだろうかと自問した。

「自分にも何か手伝わせて下さい」

「大丈夫ですか?じゃあグロゼイユ(赤スグリ)でジャムを、それとりんごでコンポートを作って下さい。ゆっくりで良いですよ。疲れたらいけないですからね」

修造は配合を紙に書いて紀夫が見やすいところに貼った。紀夫が困らないように時々説明して、自分も神田とトルテ作りをしていた。

「できたらすぐ冷まして下さい」

紀夫は言われた通りにジャムとコンポートをバットに広げて冷蔵庫で冷やした。

修造は形に敷いたトルテの生地を紀夫に渡した。

「今度は冷めたものを各々のトルテに広げて」

「はい」

「この生地を格子状に置いていって下さい」
修造は細長くカットした生地を渡そうとした。

「手が、、」紀夫の意思に反して手が小刻みに震えている。

神田もそれに気がついた。

「病気なんですか?」

「ええ、まぁ」

「大変じゃないですか」

「俺がやりますよ」修造は生地をトルテの上に貼り、周囲にも生地を張り付けてアーモンド散らばせてトルテをオーブンに入れた。

焼けるのを待つ間、修造と一緒に片付けをしながら神田が聞いてきた。

「手が震え出したのはいつからですか?」

「半年ぐらい前から徐々になんです。」

「何故奥さんに言わないんですか?」と修造が聞いた。

「自分は今、あまり妻との関係が良くないんです。失うのが早まるだけかなと考えていました。でもちゃんと話をしなかったから悪化してしまったんだなと今日悟りました。妻との関係もペンションの経営も」

「修造さんの言ってくれた言葉が全て刺さりました。心配してくれてありがとう」

修造は黙ったまま焼けたトルテをオーブンから出した。

あたりはトルテの良い香りが立ち込めた。

修造達は出来上がったトルテをカットして美和子の所に運んできた。

「奥さん食べてみて下さい」

2つともフルーツの甘酸っぱさとアーモンドクリームの優しい甘さが
口に広がり癒される。

「どちらも美味しいです」

「これをこのペンションの名物にしたらいい。夏の赤スグリの季節、そして冬のりんごの季節と分けるんです」

紀夫はびっくりした。

「自分がつくるんですか?」

「いや、作るのは神田さんです」

えっ!とみんな驚いて修造と神田を代わるがわる見た。

「神田さん、あなたここで調理をしないですか?このペンショングロゼイユの脆弱な部分を補ってあげて下さい」

神田はしばらく考えた、懐かしいこの場所で、亡くなった妻との思い出の場所でもう一度。

修造は紀夫と美和子にも「どうですか?」と聞いた。

「あなた、病気なのに何故隠したりしたの?私に1番に言わなくちゃいけない事なのに」

「すぐ直ると思っていたんだよ」

「それに美和子が頑張ってるのを見て、申し訳なくてどうしても言い出せなかったんだよ」紀夫は美和子を見つめて言った。

そして修造に言った。

「うちとしても勿論神田さんに来て欲しいけど、うちは今そんなに人を雇う収益が無いんですよ」

「そうじゃないんだよ。俺は金の事を言うのは好きじゃないが、神田さんが入る事で余裕ができる、夫婦2人でのもてなしに人が集まって来る、忙しくなる、それでお給料が払える。そう言う事だろう」

美和子は「本当にそうだわ。私も紀夫も大切な事を見失っていました。ギスギスしておもてなしの心を見失っていました。神田さん、我々と一緒にペンショングロゼイユで働いて頂けますか?」

神田は建物の中を見回した。

「妻を思い出して辛かった時期もありましたが、懐かしい思い出の方が多い。またここで働きますよ」と言った。

修造は朝作ったフルーツソースのあまりを冷蔵庫から出して持ってきた。

「それともう一つ、これも赤スグリで作ったローテグリュッツェというフルーツソースなんですが、甘酸っぱくてアイスにもヨーグルトにも合いますから夏になったらこれも出せば良いですよ」と配合を書いて渡した。

そして

「神田さん、2人はこれから頑張って行くでしょう。前のオーナーだし、色々気になるでしょうがあまり口出ししないようにね」とこっそり言った。

「わかりました。」神田が笑って言った。

「約束ですよ。」

以前のようでは無いけど、過去は戻ってこないけど、また新しく始めないといけないんだな。

俺は律子にもう一度会いたい、全然諦めがつかないんだ。

修造はマガジンラックのある雑誌を広げてしばらく眺めてから閉じた。

「そろそろ行くか江川」

「はい、荷物取ってきますね」

美和子が「修造さん、色々お心遣いありがとうございました。今日の事は忘れません。神田さんも協力してくれる事になりましたし、これから紀夫と2人で治療にも力を入れていきます」

修造は黙ってうなずいた。

そして外に出てスマホを開いた修造は「うっ!」と呻いた。

麻弥から100件ぐらいLINEが来ている。

どこにいるの?修造

早く帰ってきて修造

寂しい修造

愛してる修造

「うわ、凄いですね麻弥さん」

「江川、俺はもう麻弥に逆らわないようにしたんだよ。全てを受け入れてやりたいようにさせてやるんだ。はいはいはいってな。佐山も怖いし、麻弥は俺が隠れても地の果てまで追いかけて来そうだし」

「コンディトライマヤって凄い店ですね」

江川は修造を見つめた。

全てを受け入れる事にしたんだ。懐が深いな修造さん。

愛にも色々ありますからね。

「逃げたら困りますよ。世界大会もあるんですから」

「わかったよ、さあ、行こうか江川」

「はい、交代で運転ですよ」

「まだ少し時間があるから民芸館を見て帰ろう」

車で立ち去る2人を見送りながら美和子は考えていた。あの修造って人、どこかで見た事ある、、

と考えて思い出した。

あ!

さっき修造さんが見ていたパン好きの聖地2に載ってるあの人本人だわ。

全然雰囲気が違うから分からなかった。

美和子は走り去る車が見えなくなるまで外に立っていたがやがてペンションに入って行った。

過去は戻らず思い出が時に人を苦しめる。
だけど明日はやってきてまた新しく始まる事ばかり。

ペンショングロゼイユの中では3人が夕食の献立を考える話し合いを始めた。

おわり


このお話は2021年05月25日(火)グロワールのブログに投稿したものです。

パン職人の修造 第6部 再び世界大会へ 後編

パン職人の修造 第6部 再び世界大会へ 後編

パンの世界大会当日

「江川、緑! 今日は頑張ろう! 今までやって来たことを無駄にしないで悔いのない様挑むんだ!」

江川は、昨日ミヒャエルに何を言われたのかわからないけど修造さんが怒った所を久しぶりに見た。僕が一矢報いる様冷静に動かなきゃと思っていた。

「修造さん、頑張りますね! 今日は緑ちゃんを上手くリードします」

そう言いながら緊張で手が震えそうになるのを笑って紛らわせた。

各国の旗を持ち選手が次々に並び開会式が行われた。

隣のミヒャエルが「修造、よく眠れたか?」と嫌味っぽく言ってきた。

「ああ、よく眠れたよ。余裕たっぷりだからな!」

日本のチームも開始の音と共にブースに入った。

キッチンの配置は江川が作った試作室と同じで慣れた環境で動く事ができた。

練習通りに生地作りを始め素早く仕上げていった。

ヴィエノワズリー、タルティーヌ、カンパーニュなど様々なパンが素早く出来上がっていく。

種類ごとに同じ形で同じ大きさのものが綺麗に並べられて行った。

「いいぞ、予定時間通りに無理なく進行している」

出来たパンは次々にカットされ、ピールにのせられ並んで座っている審査員が試食して点数をつけていく。

修造とミヒャエルはお互いの作品をチェックして、正直僅差だと感じていた。

俺がエーベルトを独り占めしてると感じていたんだな。あの素晴らしいベッカライ、エーベルトベッカーがもう亡くなったなんて信じられない。

エーベルトを恨まないでくれミヒャエル。。。

修造は江川の次の作業がスムーズにいくように声を掛けていった。

江川と緑は土台の燃える花をモチーフにしたカンパーニュの上に薪を組み、その上に焦げ茶色の太鼓を取り付け、手に五穀豊穣祈願の棒を持った男を立たせた。

一番難しかったのは薄い炎の形の生地を外れず割らずに取り付ける所で、内側は固定してかなければならない。固定してるのに動きをつけるのは容易では無い事だが、そこは日本でも何度も練習した。

炎の形をいくつも作り、下から上へと色を変えながら取り付けていき、それは彩りも美しく、荘厳で炎が風に煽られて燃え上がる感じが上手く表現できていた。まるで火の粉が見えるようだった。

江川の勢いのある正確さと緑の素早い動きは絶妙なコンビとして人々の目に映った。

2人はパンを次々完成させて並べ、飾りパンを手前の台に置いた。片付けを済ませて終了の赤いカーテンを引いた。

並べられた作品を見比べてミヒャエルが「見てみろ我がドイツ国の美しい芸術作品を」と言ってきた。

「おいミヒャエル。お前の目は節穴か? 見てみろこの炎の芸術を」

手をかざすと作品の赤が手に映え、まるで炎が映ってるようだった。

選手たちは集まって集計を待った。

「お母さん、お父さんと私、頑張ったよ」

緑は祈った。

江川と緑は3位以内に入り、応援と拍手に迎えられ3か国が並んで知らせを待った。

日本、ドイツ、イタリアの3か国の選手が緊張の一瞬を迎えた。

その時世界大会の会長がマイクで告げた。

「JAPAN!」

江川は世界1位になった。

「ぅおおおおおお―――――っ! やったーーーっ!」

江川が柄になく大声を出した。

江川はペストリー部門、サンドイッチ部門、芸術作品部門の3冠に輝き、緑はベストアシスタント賞に選ばれた。

2位のドイツとは僅差での危ない優勝だった。

修造は感動して泣いている西畑の肩を叩いて、

「西畑ありがとう。緑を頼むよ」と言った。

「修造さん。僕途中で気が付きました。緑さんに実力で負けないように僕を育てて下さってたんですね」

「それはな、西畑。お前が頑張ったからだろう。頑張らなければ無かった事だ」

去り際に西畑の方を振りむき薄く笑いながら「急にドイツに一人で行くとか言ったら俺がボコボコにするからな」と言った。

「わわ、気を付けます!」

修造はミヒャエルを探し声を掛けた。

「お前は俺の事をどう思ってるか知らないが、エーベルトは俺の恩師なんだ。お前のお父さんには抱えられない程のものを貰ったよ、だからお前にも礼を言わせてくれ。ありがとうな、ミヒャエル。また会おう」

修造はミヒャエルの手を握り、ミヒャエルは少しだけ頷いて、

「修造、昨日は大会前でお前にかましたのさ。本当は都心部の近くの店舗での薪窯が段々規制が厳しくなって来たんだ。親父は改装を嫌がってたけど、親父も亡くなったから思い切ってイメージを一新したんだ。何も連絡しなくて悪かったな」

ミヒャエルは修造の手を握り返して去って行った。

ーーーー

帰国後、江川はますます人気シェフになりLeben und Brotは沢山のお客さんの大行列ができた。

江川と緑は取材の嵐で忙しかったので、修造は西畑や他の職人達と大量のパンを作った。

様々な人がSNSで店の事を知らせ、それを見た人達がまた押し寄せた。

修造は西畑と持って帰って来た炎の祭りの飾りパンをもう1度組み立てて店に飾った。

するとその写真を撮る為にまた人が押し寄せた。

これは当分忙しくなるな。

修造はテクニカルアドバイザーとして数件の企業に声を掛けられ条件のいい高額の提示をされていたが、どこにもまだ忙しいからと断っていた。何処にも、何にも修造の心を動かすものがなかった。

金曜日、修造は麻弥の店に来ていた。

「修造、優勝おめでとう、私も嬉しいわ」

麻弥は豪華な花束を用意していた。

「ありがとう麻弥」

世界大会が終わった、でも、もう帰る場所が無くなってしまったな。江川の店も忙しいし、大地の練習も見なくちゃならないから、しばらくこのままで、その後は、、

麻弥は修造の背中を見て思った。

「あなたは私がどんなに愛情を見せても寂しそうだわ」

「私の心はいつまでも届かないのね」

麻弥はいつも修造に負担をかけない様に努めて明るく振る舞った。

例え、いくら忙しくても修造の前でだけは余裕のあるフリをして。

そんな麻弥の心も限界が来ていた。

同じ頃

緑と西畑が大地のところに挨拶に来ていた。

「大地、西畑さんよ。私たち結婚するの」

「西畑さん、お姉ちゃんはファザコンですが、よろしくお願いします。姉ちゃんも結婚したらあんまりお父さんお父さん言わない方が良いよ」

西畑は苦笑いした。

「大丈夫です。僕はそこもひっくるめて緑さんと結婚させて貰います」

「もうなによ〜! 2人とも!」

「あのさ、ママさんって、、、麻弥さんって知ってる?」

「知ってるわ。お父さんにベッタリの人でしょう」

「あの人も式に呼ぶ?」

「お父さんとお母さんが仲良かった所がまだ記憶に新しいのに? 私達が彼女を呼ぶの?」

「呼んであげたら? このままでは良くないよ。新しいことに気持ちを切り替えさせないと。それにママさんはそんなに悪い人じゃないよ。ただ親父が好きなだけなんだと思うよ」

「なによママさんって! 少し気が早くない?」

「そういうあだ名の人なんだよ」

「お母さんのお仏壇の前でこんな話、、」

「ママさんはいつも綺麗に掃除してくれてるよ」

大地は律子の仏壇を見ながら言った。まるで公認だとでも言わんばかりに。

大地は普段なにも話さないのにこんな事を考えてたんだと緑は思った。

お父さんにとって過去は戻りたいけど戻れないとても辛い所なんだわ。

「わかった。麻弥さんも呼ぶわ」

待ちきれなかった西畑は緑と挨拶に来た。

「修造さん、改めてご挨拶に来ました。僕と緑さんはLeben und Brotで結婚式を挙げます。これ、麻弥さんの招待状もあります」

「お父さん、私たち2人でパン屋さんを開くのが夢なの。Leben und Brotみたいにお客さんがパンを楽しんで選んで笑顔で食べてる、そんなパン屋さん。」

「楽しみにしてるよ」

「麻弥さんも式に来てくださいね」

「素敵ね。2人でウェディングケーキを作らない?」

「そうだね」

式の当日、修造と麻弥は4段のケーキにマジパンの花と、バゲットを持った新郎新婦を飾った。

「良いのができたわね」

「そうだね」

結婚式は花が咲き乱れたLeben und Brotの庭で行われた。

律子の若い時にそっくりになったドレス姿の緑はとても美しかった。

「綺麗だな」

自分の若い時を思い出し、あの時式をあげて律子にドレスを着せてあげたら良かったと修造は後悔した。

大会の後、自分を責める寄せては返す波の感覚が随分空いて来ていたが、まだこんな時は辛さが勝つ。

遠くを見つめる修造に気が付いたが、」披露宴の間麻弥は修造の腕を組んで明るく振る舞った。

「2人で上手くやっていくんだよ。幸せにな」

「修造さん、お、お父さん。僕、緑さんを幸せにします。次はお二人の番ですね!」

腕を組む修造と麻弥を見てそう言ったが、修造は返事をしなかった。

ーーーー

雨が降っていたある日

修造は麻弥の店に呼び出された。

お店は定休日で、電気の消えた店に麻弥は一人で座っていた。

「私、、もう疲れたわ。私はきっと亡くなった奥さんに勝てない。あなたが私を愛する日は来ないのよ」

緑と西畑の姿を自分に重ね合わせて見ていた事を、麻弥に見透かされていた。

その時初めて修造は麻弥の顔を真っ直ぐ見つめた。

「なぜあなたは私の言いなり人形の様に振る舞うの? 私の事を馬鹿にしてるの?」

涙をいっぱい溜めている麻弥。

瞳から溢れ出る涙を見て初めて麻弥の事がわかった気がした。

「麻弥、心から謝るよ。こんなに無理させて、、俺は麻弥のことを誤解してたんだ」

「麻弥聞いて欲しい事があるんだ」

「俺はまだ心の中に穴があいたまま生きてるんだ」

修造は初めて律子が亡くなった夜の話をした。

その時抜け殻の様になってしまった事も。

寄せては返す後悔が自分を責め続けている事も。

麻弥は修造の隣に座って手を握り、泣いていた。

今日修造は初めて本心を明かした。

「もっと早くこの事を打ち上げれば良かったね」

「麻弥」

「俺は山の上であのソファに座りながら自分が死ぬのを待っていたんだよ。自分から死のうとしたわけじゃない、そうじゃないんだ。ただいつか自分が終わるのならその時をじっと待っていようと思ったんだ。俺は頑丈だったよ。。でも流石にもう少しで自分は終わる、、そう思っていたら、麻弥が俺を訪ねて来たんだ」

「そして何かが不思議な力で俺を立ち上がらせたんだ」

「麻弥が帰った後、俺は何日か座ったまま過ごしていた。そしたら凄い風が吹いて来てその時聞こえたんだ。確かに。怒った声で『立って!』っていう声が。我慢してたけどとうとう切れたって声だった」

「俺はその後何日か待ってた。もう一度声が聞こえるかもと思って探したよ。でも何も起こらなかった。今となっては空耳だったのかどうか」

「律子が子供達を叱る時あんな言い方だった。だからいつまでもじっとしてる俺をとうとうあの世から叱りつけたのかもしれないな。そう思ってこっちに来たんだ」修造は途切れ途切れ話した。

「その後、麻弥のシュニッテンが俺を救ってくれた。俺の次の生き方があの時から始まったんだ」

「俺は若い奴らに色んな事を教えなくちゃいけない。そういう事だったんだよ」

前を向いて行け。そう言いたかったのか。。

「麻弥」

修造は麻弥と向き合って言った。

「フラついていた俺のせいなんだ。俺達は間違った付き合い方をしてたんだよ」

「君をずっと傷つけていて悪かった。親友であり、懐かしい同僚であり、同じ体験をした仲間なんだ。大切な人なんだ。麻弥を失いたくないんだよ」

「もう明るい振りしなくていいんだよ。泣きたい時は泣いたり、疲れた時は疲れたと言ってくれ。本当の自分を見せながら一緒に生きていってくれないか」

ーーーー

麻弥はそれ以降顔を見せなくなった。

仕事場にも来ないし家にもおらず忙しい様だった。

店の窓から外を見ながら麻弥の事ばかり考えている事に気づいた。

麻弥は心の真ん中で真っ赤に燃えていた。

「バカだなあ俺は」

振りむいて仕事中の佐山に「俺は今、ちゃんとしてあげて下さいの意味がわかったよ」と言った。

「今ですか? 全く呆れますね」

佐山は軽蔑の眼差しで修造を見た。

「あなたは一本気過ぎるんですよ。一つの事が終わらないと次のことがわからない不器用な人ですね」

佐山はスケジュール帳を開いて指さした。

「麻弥さんが確実につかまる日がありますよ。ほら」

そしてスマホを素早く検索して「丁度隣が空いてるから取っといてあげますから今から準備したらどうです?」

走って去っていった修造に「鈍感な人だ。僕はただボスに幸せになって欲しいだけ、それが何故かあいつにはわからない」

修造は佐山に教わった時間に飛行場に来た。

「麻弥」

ドイツ行きのゲート前で修造は声をかけた。

「どうしたの? 私は仕入れに行くだけよ? 何かあったの?」

「俺も仕入れに付き合うよ。ノアに会いたいんだ。さっきメールして約束したよ」

麻弥は不思議な気持ちだった。

修造、雰囲気が変わったわ。表情がスッキリしてる。そういう私も前と違う。あれから修造を信頼してる。今までは何処かに行ってしまったらどうしようって不安だったけど、その不安はなぜか消え去ってしまったわ。

ドイツに着いた後、麻弥と仕入れを済ませ懐かしいヘフリンガーに出かけた。

お世話になったマイスターは髪が真っ白になっていたがまだまだ元気そうだった。

久しぶりだなあこの雰囲気。

なんて素晴らしい場所だったんだ。

ここでパン職人の自分は生まれた、そんな気持ちになった。

そして麻弥ともここで出会ったんだ。

その時修造は思い出した。

あの角から、あの店の中からいつも麻弥が修造に向かって手を振っている所を。

あの時から麻弥は俺の事をこんなに長い間想ってくれていたのか。

「忍者! 久しぶりだなあ!」親友のノアが待ち構えていた。

「久しぶりだねノア、忍者なんて、もうあの時みたいに機敏に動けないよ。おじさんになっちゃったからね」

「お前のことはずっとSNSで見てたよ。お前らが付き合ってるって知らなかったけどね」

パンとビールで話はいつまでも弾んだ。

楽し過ぎる時間だった。

修造は久しぶりに笑った。

そして帰り際にノアから紙袋を受け取った。

「親友のノア! ノアに頼んで良かったよ」

「うまくやれよ」ノアは笑って修造の背中をポンポンと叩いた。

ーーーー

「やっぱり寒いわね、この時期は」

麻弥はオレンジ色のコートに白い帽子を被っていた。

修造と麻弥はやっと心が通じた感覚を2人で感じ取っていた。

心の道が出来た、そんな感覚だった。

修造は麻弥のふとした表情に胸打たれる瞬間が増えた。

「俺は今から行きたいところがあるんだ。一緒に行ってくれる?」

「どこなの? それ」

それはクリスマスマーケットだった。

巨大な施設に屋台が沢山並んでいる。

各店々に沢山のクリスマスの飾りや置物、食べ物などが売っていて目移りする。

ホットワインと焼きソーセージを食べてゆっくり回った。

石畳みはヒールで歩きにくく、つまづきそうになった時、修造が麻弥の腰に手を当て支えた。

「ドイツ式の石畳は結構歩きにくいんだよ」

人混みの中を歩きながら麻弥は気づいた。

修造は私が誰かにぶつからない様にさりげなく避けてるんだわ。

ひょっとして私を守ってくれてるの?

「あれ見て、移動式の観覧車よ。こんな大きいものどうやって運ぶのかしら。凄い迫力ね」

「いいね、乗ろうよ」

キラキラと色を変えて輝きながらゆっくりと回る観覧車からはマーケットや川のイルミネーションが延々と続いてるのが見えた。

町中がクリスマス色に輝いている。

「綺麗ね」

外を向いている麻弥をこちらに向かせてノアが作ってくれたレープクーヘンを首にかけた。

Willst du mich heiraten? (結婚してくれないか?)

意外過ぎて麻弥は涙が止まらなくなった。

麻弥の頬の涙を指で拭いながら「麻弥、俺は熱くなる性分なんだ。これから麻弥の姿が見えないと追いかけ回すかもしれないぞ。それでも良いなら俺と結婚してくれ。」

「ふふ、怖いわね。今まで私が修造を追いかけ回してたのに、、」

麻弥は2人の冷たい手を摩り合わせて暖めた。

「ねえ、私は温かいでしょう?」

「うん」

「私は修造より長生きするわ。まだまだバリバリやらなきゃいけない事があるの」

「ねぇ、修造、私はこの半月程物件を探してたのよ。あなたと私の新しい店を」

「あなたがドイツのパンを作って私がドイツのお菓子を作るの」

「どう?」

「それはもうやってる事だろう? 君はまだお店を増やす気なの?」

「ええ、ドイツのパンとお菓子のお店よ。修造と麻弥のお店」

修造は驚いた。

麻弥の小さな身体からいったいどうやってこんなバイタリティが生まれてくるのか。

これから自分は麻弥を手伝って生きていくかもしれないと思ってはいたけど。

「これから一緒にどこにお店を開いたらなるべく沢山の人達が来てくれるか調べましょう。そしてみんなが知りたがっていて、みんなが食べたがっているパンとお菓子を考えましょう」

「俺たちはドイツのパンや文化に対して敬意を払っている立場で、一過性の流行りを作って売り出せって言うのかい? 流行りが終わったらそれは古いイメージになってしまう。それは俺のやるべき事じゃないだろう」

「あら、違うわよ。ドイツには何千種類のパンがあるのにほんの少ししか紹介できてないわ。その沢山ある中から知って欲しいパンやお菓子を選んでみんなに食べて欲しいのよ」

「ドイツのパンの中から」

「明日ノアの所に戻って色々話を聞いてみるか。他にも店を廻ってみよう」

「ミヒャエルの店にも行こうか。挨拶もしたいし。緑と西畑がワーホリを使ってフランクと交換留学をするらしいんだ。世界大会の時に約束したんだってさ」

「その店は凄い人気よ。行列ができてるらしいわ」

「好都合だよ。店内の様子をじっくり見よう。みんな何を選んでるかもわかるし」

ドイツのパンとお菓子か、、本当に奥が深い。案外麻弥の言ってることは難しいぞ。

ドイツから店一軒移すぐらいの気持ちでないと、、

それに今の麻弥の2軒の店と百貨店の売り場の商品は今は1号店で作ってるが手狭だし、いっそセントラルキッチンを作って俺が管理して、1号店と2号店は佐山に回させて麻耶は経営って感じになるだろう。

麻耶が一等地に店を出すんなら家賃が高いだろうから、セントラルキッチンは結局家賃の比較的安い1号店の近くに作らないと。。

あっという間に修造の頭の中はそれでいっぱいになってきた。

「帰ったら物件を見に行きましょ、良いところがあるの」

「麻弥、これから大変だぞ」

「あら、平気よ修造がいるんだもの」

そう言って2人はドイツの夜の街に消えていった。

おわり

パンと出会い、人を愛し熱く生きた修造の人生。読んで頂いてありがとうございました。修造はサクセスストーリーに興味はなかったと思いますが、読んでくださった方の中に、一人でも多くパン屋さんになりたい、修造の活躍に憧れるなどの職人さんが増えたら良いと思います。誰かに言われてやる仕事は辛いかもしれません。でも自分でやる仕事は楽しいものです。今回この話には自分の知っているパンに纏わるあらゆる事を盛り込みました。パン屋さんにも色々な店があり、製法も様々です。沢山の考え方があると思います。例え始まりが修造の様にやる気なく始まったとしても、興味が湧き、追求していける様になればいいと思います。

※尚、このお話はフィクションであり、実在する人物、団体とはなんら関係ありません。

パン職人の修造 第6部 再び世界大会へ 前篇

パン職人の修造  再び世界大会へ 前篇

高校生になった大地が修造と暮らし始めた。

「大地は何かやりたい事があるのかい?」と聞いたが大地もまた無口な方で
「うん」だけしか答えなかった。

こんな風に無口な自分の事を、律子はよく理解してくれていたな。

本当に感謝しかないよ。

修造はプライベートではまだまだぼんやりとしている事が多かった。

大地は先だっての父親への質問に何日か経って
「俺、空手の全国大会に出るのが目標なんだ」と答えた。

手足がすらりと長くて瞬発力がある大地は小さい頃から師範にも強くなるって言われてたな。
「楽しみにしてるよ。その時は応援に行くね」

修造は大地とスパーリングをしたり得意技の三日月蹴りや、太ももの裏など身体の中で当たると痛い所を教えた。

上段蹴りを狙ってると見せかけて脇が開いた瞬間に蹴りを入れると相手は悶え苦しむなどなど試合に役立つあれこれを2人で練習してるうちに楽しくなってきて、久しぶりに気分が上がった気がした。

「身体を動かすのは良いな。俺もジムにでも通って少し体型を戻さないと痩せて筋肉も落ちてしまった」

「2人で行く?」

「大地はあまり筋肉をつけちゃいけないよ、身体が重くなるからね。トレーナーに相談してみよう」

そう言って大地と2人でジムに通い始めた。

もともと打ち込むタイプの修造はみるみるうちに身体が仕上がっていった。

「空手の練習は毎日欠かさずしないと、今日はいいや明日やろうなんて言ってると結局やってる奴と格段に差がでるんだ」

そう言いながら修業全般に通ずる言葉だと江川の顔が浮かんだ。

あいつは頼りなく見えて努力家なんだ、なんとか大会で成功させてやりたい。

ーーーー

世界大会に向け、準備をしていかなければならない。

「江川、地方の祭りでコアでヘビーな祭りを見に行こう。なるべく凄い熱気で炎の燃え盛っている迫力のある祭りだ」修造はパンデコレのデザインを決めようとしていた。

「今回はそっち方面で攻めていく訳ですね?」

「うん」

2人は車を走らせ奥州の火祭りを見に行った。

燃え盛る炎の中を灯籠を持った褌姿の男達が五穀豊穣を願う。

勢いと迫力がある。

火の粉が飛んで辺りは熱気に包まれ祭りは夜通し続いた。

バイタリティ溢れる祭りだ。

「燃える薪の上に立つなんて、、本当に燃えてしまうんじゃないかと
ヒヤヒヤしますね」

「男の祭りだな」

修造は沢山写真を撮り、それをもとに早速江川と近所のカフエでデザイン画を描いてみた。

「炎のゆらめく感じが大事だろ?」

「何か祭りのモチーフみたいなものを追加したいですね。祭りのモチーフといえば祭りの衣装の柄とかですかね?」

「種類は少なそうだな。太鼓を真ん中にして灯篭を持った男を立たせるのはどうだろう?」

「行列の先頭に纏(まとい)を持った人がいましたがそれはどうですかね?」などまだまだ考える余地があった。

その夜は通りすがりの山道にあるペンションに泊まる。

大会の時の芸術作品部門のパンは横幅が限られているからあまり幅広くできない。縦に表現できればどうなるだろう。太鼓のサイズを小さくして他の飾りを高くするか、それは世界に通用するのか、修造は眠れず一晩中考えていた。

次の日は地元の民芸館や、現地ならではの建築様式の建物のある場所に行き、襖に取り付けられた組子細工を見学した。

頭の中で組子細工と祭りを組み合わせて、イラストを何枚か描いてみた。流れるフォルムや誰もみたことのない飾りパンを作らなくてはいけない。
出来上がった下絵を江川に見せた。

「うわー! これ難しそうですね、でも試作してみますか?」

2人は帰って祭に関する情報をなるべく細かく調べた。

顔色も良くなり、次第に熱中してきた修造を見て、江川と緑は目を合わせてニッコリした。どうにかして元の修造さんに戻って欲しい。

江川はそう思っていた。あの時の燃えるような熱い修造さんに!

「僕頑張るから修造さんも一緒に燃えて下さいね」

「わかったよ江川」

ーーーー

金曜日

麻弥は店に人が居ようがいまいがお構いなしに修造にべったりだった。

この何年間かの分を全て凝縮しているかの様に修造を構った。

佐山がまた嫌味っぽく言ってきた「修造さん。ボスとみんなの前でイチャイチャするのはやめたらどうです? 見るのも嫌なんですが」

「俺かよ?」

「俺じゃないなら何ですか? 嫌々付き合ってるのか? だとしたらほんとに無責任な人ですね」 

無責任か

麻弥に押しに押されたとは言え、交際を始めてしまった事を後悔している。

「佐山、麻弥を傷つけるのは嫌なんだよ。わかってくれ」

「わからないですね。ボスが気の毒です」

全てが佐山の言う通りだった。傷つけない様にすることが傷つける事になる。

麻弥、俺がここにいるのは世界大会が終わるまでだよ。

何度も言いかけてやめた。

愛が良くわからない。今1番遠ざかりたい言葉だった。

麻弥は律子と全く違うタイプだった。

また店舗を増やしバリバリに働いて、凄く忙しい女社長なのに合間を縫って休みの日を設け、カレンダーに「S」と書いた。修造の頭文字だ。

その時は修造を訪ね「もぅ!男所帯ってしょうがないわね」と言ってバタバタと掃除して、大地に「ママって呼んでね」と言ったので驚いた大地が(あの人彼女? 「ママ」になるの?)とこっそりメッセージを送ってきた。

これには答えに困った。

特に結婚という言葉には抵抗を感じていた。
自分が誰かを幸せにするとは到底思えない。

掃除のお礼に修造は夕食にシュニッツェル(トンカツ)とライべクーヘン(ジャガイモのパンケーキ)を作った。

食べながら麻弥は大地にドイツにいた時のお父さんがカッコ良かった話を聞かせた。

「素敵だったわ、ママの憧れの人だったのよ」

(またママって言ってるよ)大地が修造に目配せした。

修造は何も言わなかった。

後で大地は麻弥にこっそり言った。

「ママさん」

「父はちょっと前まで全然やる気がなかったんだ。そこから考えたら随分ましになったんだ」

麻弥は貴重な修造の情報をじっと聞いていた。

「誰にも相談せずに一人で抱えてるけど、夜になるとうなされててそれが聞こえてくるんだ」

「だから、少し待ってやってくれない?」

「わかったわ、いつまでも待ってるから」

夜うなされる

夢にいつも同じものが出てきて修造を苦しめた。

あのソファに修造が座っている。

何か大切なものを抱えているのに腕の中でふわふわと掻き消え追いかけると声がする。

「お前が悪いんだよ」

「お前のせいで全部なくなったんだ」

と声が修造を取り囲む。

押し寄せる波の様に引いては寄せて。

いつもそこで目が覚めた。

大会の前

江川、緑の為の応援講習会が開かれ、修造について西畑も同行した。

修造は全員のためのランチを西畑に並べさせた。
「気に入ってるのかい?」何人かのシェフが西畑を指して言った。
「そうですね、良い職人になりそうですよ。大会の時はフランスにも連れて行くつもりです。どうぞよろしくお願いします」

ーーーー

世界大会で競う項目は見た目も大事だが審査員がひとつひとつのパンを味見する所が思い出された。

「食感と味も気を抜けないな」

タルテイーヌについて色々試行錯誤を重ねた。

3種類のタルティーヌをそれぞれライ麦の配合を変え、そのうち3種類は焼いた牡蠣とチーズ、帆立とピンクペッパー、3色の海藻に和風の味付けを施して、野菜とハーブをそれぞれ2色ずつシャープにカットして飾った。4種類は鹿肉と無花果、ローストビーフとブルーベリー、ターキーとラズベリー、鶏のフリットとレモンなどの、肉と果物の取り合わせを。残りの4種はカブとオレンジとクリームチーズ、渋皮栗と茄子、干し柿とフェタ、ザリガニとナンチュアソースをそれぞれハーブやスパイスと共に美しく盛りつけた。

どれが1番美味いですかね?

「このザリガニは美味かったね」

「私もこれが美味しかった」

「このザリガニはレイクロブスターと言って僕の故郷から取り寄せた物なんです。肉厚で味も良いんです」

ザリガニの身のソテーとディルの組み合わせは、ナンチュアソースのザリガニの出汁と濃厚なバターと生クリームの香りが後口にいつまでも旨みを残した。

「よし! タルティーヌにレイクロブスターとブラウンマッシュルームのソテーとナンチュアソースを使ってみよう」

「パンの上にザリガニのステンシルを施したらどうでしょう?」と、3人でアイデアを出し合った。

「塩の代わりに塩麹を使って旨みを出し、仕上げにザリガニにパルメザンを絡めて黄味を振りかけてみるか」

「八つ橋の様な薄いパリッとした食感の生地を焼いて被せてザリガニのステンシルを施せばインパクトがあるぞ」

「どうですか? いかつくカッコいいじゃないですか!」

「ザリガニの形も捨てがたいな」

「これもインパクトありますね。触角の所は糸唐辛子で表現してみましょう。」「足はルッコラを使いましょうか?」

「となると、フタは和柄がいいか」

「どっちがいいか迷いますね」

3人はひとつひとつのパンに深く拘った。

「ペストリーには祭りのイメージのものを関連付けたい」

「太鼓の形とか?」」

「華やかな色合いが良いね」

「ピスタチオとかエスプレッソ、ヘーゼルナッツとか濃厚なラズベリーとか使いたいですね」

「祭りに関連付けて太鼓の形を真ん中で開けられる様にして下は濃厚なラズベリーソース、その上にまろやかな抹茶豆乳ソースを詰めてココアとラズベリーパウダーと粉糖の3色でステンシルを施そう」

「上蓋は内側にホワイトチョコをひとまわししてみましょう」

「試食も進んで飽きが来た頃に抹茶の風味が好印象をもたらさないでしょうかね?」

「ピスタチオのクリームを生地に詰めて外側に組子細工のプレートをのせたらどうでしょう。土台はエスプレッソの風味付けをした生地に和柄のステンシルを1周させましょう」

「これは美味いよ」修造はぶどう、ネクタリン、プルーンとイチゴをバターでソテーして洋酒をふりかけフランベしてフランボワーズとハチミツを入れて煮詰まったらパンにのせてバーナーで焼いた。

「うわ! 旨い!」表面は香ばしく生地に染み込んだフルーツのソースの味が旨みを出していた。

「問題は形だな」

「フルーツボックスみたいな?」

「太鼓によく描かれている模様は?」

「三つ巴の事かい?」

「こんな感じですかね?」

徐々に様々なパンが本決まりになり後は完成度を上げていくだけになった。

修造は緑に繊細なステンシル作りを教えた。

「柄は細かすぎてもよくわからない。端をいい加減にカットするとぼんやりした印象になるんだよ」

そしてカンパーニュの美しい模様のカットの仕方を徹底的に練習させた。

「シャープに同じ感覚でリズムよくカットしていくんだ。深さが違うと焼き上がりにはっきり出てくるからね」

「江川、タイム通りにできるか練習するんだよ、西畑にタイムスケジュールを見て貰って緑と2人で何度もやってみて、時間の感覚を掴んで行くんだ。」

「やってみます!」

修造は出来ることが増えるとタイムスケジュールの行を次々増やした。大会の制限時間の8時間と言う限界に挑戦して、しかも全てを完璧にしなければならない。

「試合と同じだよ、当日に向かって練習して当日は良いパフオーマンスが出来るように自分を調整していく。相手だって努力してるんだ。猛者ばっかりだぞ」

「2人の息があってきたら次は『お互い確かめ合わなくても次の動きを考えて動く』練習をするんだ。え~っと次は、、なんてやっていたら時間なんてあっという間だぞ。2人とも役割をはっきりと決めて動け」

「できるまでやるんだ」

江川は過去に修造と出た大会の事を思い出した。

「このタイムスケジュールは修造さんが世界大会で作った物より少し劣る気がする。修造さんの速さと正確さは本当にあの時世界1だったんだ」

「あの人はタイムロスを嫌がってタイムスケジュールを頭に叩き込んできていたんだ。あれだけのものを作りながら僕を動かしていた」

勝てるのか? 今の自分は? あんな事が、、

いや

やるんだ

僕は修造さんにではなく自分に勝たなくちゃ。

「もっともっと近づいて行くぞ!」

研修室は数人以外は立ち入りが禁止になった。
何日か続けてやっているうちに2人は時間の経過と作業の手順を掴んできた。
大会で焦らないための練習だった。心のゆとりがミスを防ぐと考えたからだ。

「あの、修造さん」西畑が廊下で話しかけてきた。

「僕大会が終わったら緑さんにプロポーズするつもりです」

「そうか、それはまた大会が終わったら新たに話そう。今の俺とお前は緑が集中して動きやすいようにしてやる、それが使命だと思って打ち込むんだ。他に心配事がないように、一緒に寄り添ってやれよ」

「心の拠り所になってやれ」

「はい! 修造さん」

そしてとうとうフランスに大会の用品を送る時が来た。

ーーーー

日本のチームが大会の開催国フランスへ到着した日

会場には世界各国の選手が入るキッチンブースが並んでいる。

前日の準備も終わりかけた頃、修造に話しかけてきたドイツ人がいた。

「久しぶりだね修造」

「?」修造は目の前の男の顔をよく見た。知っている顔だ。

「わからないのか? エーベルトの息子のミヒャエルだよ」

「あ! 久しぶりだなミヒャエル!」

ミヒャエルはエーベルトの店にはあまり顔を見せなかったので何度かしか会っていないが懐かしい。。

「エーベルトは? エーベルトは元気なのか?」

「親父は死んだよ。あの店は俺が改装して観光客も気軽に入れるカフェにした」

「エーベルトが?! どうして教えてくれなかったんだ!」

エーベルトが、あのエーベルトベッカーが亡くなった?!

「俺と親父はソリが合わなかったのさ。お前がうちに入り浸ってる間、親父はお前の事を随分可愛がっていたな。親父は全てをお前に教えていた」

ミヒャエルはハナをフンと鳴らしながら。

「俺はお前が嫌いだったよ」お睨みつけた後

「そうだ紹介するよ、うちの息子のフランクだ。今回はアシスタントとして参加するが、これから俺が上級の職人に育てて行く」と続けた「明日はお前のブースの横で勝負する事になりそうだ。勿論我々ドイツの勝利だ。せいぜい頑張るんだな修造」

江川と緑が心配して声を掛けてきた「修造さん、大丈夫ですか? 随分がっくりしてたけど」

「お父さん、隣のドイツのコーチとどんな話してたの?」

「エーベルトが、、、俺の恩人が亡くなったんだ」大切な人が次々と、、しかも大事な大会の前日にまたメンタルをやられるなんて。

「あのミヒャエルは技巧派なんですよ。その息子のフランクも大した腕だと聞いています。修造さんの知り合いだったとは分かりませんでしたね」

修造はこぶしを握って立ち上がった。

そして「明日は負けられない!」

「何があってもだ」と誓った。

久しぶりに心の中に熱いものが込み上げた瞬間だった。

おわり 後編へつづく

あとがき

今回は世界大会のパンについて色々書いてみました。4部門のパンを全て高水準で作るパンの世界大会はやはり凄いと思います。

江川は世界大会に出た頃の修造を追い抜こうと頑張りを見せます。緑と西畑は優しさを見せながら愛を育み、麻弥と修造は心がすれ違います、2人の架空の愛はこれからどうなっていくのでしょうか。

そして最愛の妻律子を失った修造のロストが産んだ悪夢からの脱却は出来るのでしょうか?

※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

この作品は2021年05月01日(土)グロワールのブログに投稿したものです。

パン職人の修造 第5部 puppet and stalker

パン職人の修造 第5部 puppet and stalker

修造はある時大量に材料を買い込み、パンを焼き、全て袋に入れて近所のおばさん達に配った。

「あの、、、しばらく留守にするのでお墓を交代で見て欲しいんですけど」

おばさん達は動けるようになった修造を見てほっとした。
「わかってるよ。気をつけて行っておいで」

鞄の中に律子の位牌と道着を入れ、修造は出かけた。

ーーーー

ふらつく頭と身体でなんとか車を運転して関東へ。

久しぶりのLeben und Brotは花が咲き乱れ、お客さんがテラスに座りパンを楽しんで食べていた。

店内も賑わっている。

修造はハッとした。
律子とそっくりになってきた緑が工場から焼き立てのパンをカゴに盛って運んでいる。

以前は忙しいながらも生き生きと楽しかった。今の自分はまるで燃えかすの様だ。

テラスにいたパン好きのお客さんが修造に気がついた。
「あの、、修造シェフですよね?私とっても憧れてました。Grüne Erdeは今日はお休みですか?」

修造は言葉に詰まった。何一つ決められなくなっていたからだ。

「この何ヶ月かは休んでるんです」とだけ答えた。

思ったより自分は不甲斐無くなっている。

そう思って店に入るのをやめ、通りに振り向いた時

「修造」

と、またあの声が聞こえた。

「私に会いに来てくれたの?」

「いや、あのぅ、、」

ラメ入りの茶色いスーツを着た麻弥に手を引かれて
ドイツ菓子の店「コンディトライ マヤ」に連れていかれる。

木と漆喰のドイツ風の建物で外観も可愛らしい。
オレンジ色の壁で、出窓には赤いゼラニウムが咲いていた。

高級そうなショーケースと小さなカフェ部分がある店の中で麻弥にコーヒーとフルヒテシュニッテンをご馳走になりながら懐かしさが込み上げてきた。

「ノアやエーベルトおじさんは元気なのかなあ」
家族を連れて会いに行くと言った約束は果たせなかった。

「ノアは元気よ。こないだ会いに行ったの」

今や麻弥はやり手の女社長だった。百貨店での店も何箇所か展開していて、通販も季節によってはとても忙しいらしい。

2人はしばらくドイツの話をした。ドイツのお菓子はその時の記憶を蘇らせて、何故だかいくらでも話をしてしまった。と言っても話をするのは殆ど麻弥だったが。

「ねぇ修造、あなたLeben und Brotで働いてよ。休みの時なんかに私がお菓子を教えてあげる」

ーーーー

実際、事態は麻弥の思惑通りになっていく。

麻弥はさっそく江川に連絡して、迎えに飛んで来た江川は修造をLeben und Brotに引っ張って行った。

そして「僕、今度緑ちゃんと一緒に選考会に出ようと思ってるんです」
と意気揚々と声高らかに宣言した。

「その先は世界大会です!」

「だから修造さんは僕たちのコーチをしなきゃならないんです!」

「ねっ!」

その時驚く元気もなかった修造は聞いた「緑、若手コンクールに出るつもりなの?」

「そうよお父さん。私、お父さんの出た大会に私も出たいの。だからお願い。私達のコーチになって!」

ーーーー

随分と弱っていた修造は、しばらく緑のところに厄介になる事になった。

「自分には思い出が多すぎるんだ」

布団の中で独り言を言った。

様々な出来事が後悔となって巨大な待ち針の様に修造の心を刺した。

隣に眠っているパン職人の緑。

大きくなったな、あんなに小さかったのに。

これから技術を身につけさせて、大会に出ても江川の足を引っ張らせない様に自分もシャンとしなくては。

そうぼんやり思う。

それでも徐々に体力は戻りつつあった。

寝る前に、遠く離れてしまった大地に毎晩メールをしたが、流石は修造の子だ、あまり返事はしてこない。

時々「わかった」とか「うん」とか返ってくるだけで様子は全くわからなかった。

「高校入試はこちらで受けるかい?もしそうなら緑に頼んで部屋を借りておくよ」

すると何日か経ってからやっと「うん」と返事が返ってきた。

ーーーー

修造はLeave und Brot のエグゼクティブコーチとして就任することになった。

エグゼクティブなどと言うと大そうだが大会の為のコーチの役と、江川を練習に専念させる為に自分が江川の代わりの仕事をするという感じだった。

そして麻弥もまた契約書を用意していた。「休日は私の所でお菓子を作って欲しいの」

どうせこの辺にしばらく住むんだ、あまり一人の時間を持たず仕事をしていた方が気が紛れる。と思い世界大会が終わるまでの約束でサインした。

麻弥はすぐさま修造の動きやすい様に場所を作り、自分が不在の時は大切にする様に皆に伝えた。

マネージャーの佐山は「こんなボサボサのしょぼくれたオッサンを何故ボスは大切にするんだろう?」と思っていたが、修造の仕事を見て考えがすぐに変わった。

伝統の製法に基づき美しいパンやお菓子を次々に作っていく修造。

佐山は「マイスター」と修造の背中を見て呟いた。

修造の作るブレッツェルは全ての見た目が同じで細いところはカリッと、太いところはもっちりとしていて、振りかけた岩塩もパラパラと落ちる塩の量まで計算されていた。まさにブレッツェルど真ん中の美しいものだった。麻弥はそれを見て感動して、修造の来る金曜日に準えて「金曜日のブレッツェル」として販売しだした。

修造、素敵だわ。修造が仕事してるところをもう一度こんなに近くで見られるなんて。こんな事が起こるなんて。

ドイツの修業から帰ってきてあなたをテレビで見た時は驚いたわ。

そして迷いに迷ってLeben und Brotの近くにお店を開いた。

その途端あなたは山の上のパン屋に去って行ってしまった。

私は何度かGrüne Erdeに行ったわ。あなたは私に全く気が付かなくて、新聞に載った修造の事で奥さんと楽しそうに話をしてたわね。

帰り道私は山の中腹で羨ましくて悔しくて涙が溢れて運転できなくなったわ。

その時期に小井沼伸治が出したパン好きの聖地Ⅱも見たわ。

あなたの充実した姿が映っていた。

それから何年かして、あなたが1人で山で暮らしてると聞いて、いてもたってもいられなくてGrüne Erdeに行ってしまったの。

絶対修造を手に入れたいの、この手でしっかりと捕まえたい。

修造はそんな麻弥の気持ちを全く知らないままここまで過ごしてきた。

麻弥が仕事終わりにチーズのソースがのった温かい白アスパラガスの料理を出した。
「シュパーゲルよ。旬の季節には食べたわね。懐かしいわ」

修造は無言で食べていたがふと麻弥に大地の為に部屋を借りる事を話した。

すると麻弥は「え? 私と住むんじゃないのね?」とピッタリ横に座り笑って言ってきた。

麻弥はよく修造を誘惑しようとしたが、冗談めいたふざけた言い方がほとんどだった。

修造は、麻弥は元同僚だし良い奴だが『こう言うところ』が苦手だと思っていた。
本心かどうかわからないし、からかってる様にも見えるのでいつも気が付かないフリをしていた。

修造はあの日冷たくなった律子を抱いて一晩を過ごしてるうちに、心から愛とか恋とか以外にも、人として抜け落ちたものが多くあった。

笑顔はなく無口で仕事に厳しい修造を職人たちは恐れた。

江川はLeben und Brotの裏の空き地に練習に専念する為の施設を設けた。新しくできた研修室には、大会を意識した最新の設備が整えられていた。自分が大会に出た時の機械の配置を思い出して業者に頼んだのだ。

修造はそこで2人に指導したり、新入社員に講習会を開いた。

修造は緑に毎日丁寧な生地作りについて教えた。
技巧ばかりではなく栄養や味覚に拘った。

江川は「今の修造さんは責任感だけで動いてる気がするな。それもこれも緑ちゃんの為か」と思っていた。

ーーーー

製パンの作業中、修造は緑を見つめる青年に気がついた。

西畑という入社1年目の若者だ。

「おい西畑、ちょっと研修室に来い」

「はいっ」

修造は西畑にヘルンヒェンの作り方を何度か教えた、
「1000個作ってそのうちダメな10個を俺のところに持って来い」

経験の浅い西畑は震え上がったが、毎日修造に10個持って行っては「なんだこれは?」と言われて何度も作り直した。
緑はそのうちの成功したパンをお店で販売した。

何度かして「もういい、次はプレッツェルにするから」

そう言われてプレッツェルについて色々教わり、また1000個作ってそのうちのダメな10個を修造に見せた。

修造は「この研修費用は全部お前の給料じゃなくて店からなんだから、ゆめゆめ無駄にするなよ」と厳しく言った「できるまで作ってこい」

西畑は言われた通りに毎日特訓をして、できるようになるとまた次のパンが待っていた。半年もすると習得したパンの数が格段に増えた。

緑に「腕が上がったわね」と言われ西畑は顔が赤くなるのが自分でも分かった。

修造が10個と言ったのは特別な意味はない、西畑の技術を身につけさせる為にギリギリの限界に挑戦させたのだ。

緑は「お父さんのやり方は今時は古いのよ。修行とか特訓なんて、西畑さんだから良かった様なものの。。やりすぎると訴えられるわよ。呼び捨てじゃなくて〇〇さん、よ!」と言ったが修造は聞き入れなかった。

ついて来れなければそれまでだろう。

西畑にロッゲンブロートの作り方を見せてやりながら、この仕事は辛いか聞いてみた。

「僕、初め全然わからなかった事ばかりでしたが、毎日修造さんにパン作りを教えて貰えるなんて光栄です。僕もいつかパン屋をやりたいし、修造さんは僕の目標です」

ーーーー

修造は講習会やセミナーなどに西畑をつきあわせ、色んなところに連れて行く様になった。

そして緑を見つめる西畑を、昔々工場から律子を見つめていた自分と重ね合わせていた。

ある時、修造は可愛らしい飾りパンを西畑に教えた。

ピンクの薔薇の花と緑のリーフを施してGrün(緑)と文字が入っている。

なかなかいい出来だ。

「緑にプレゼントしてこいよ。俺が手伝ったって言うなよ」

「あの、緑さん。」

「これを修造さんから教わりました。内緒にする様に言われましたが、何故こんな事になったかって言うと。。」

「?」

「僕の気持ちを修造さんがご存知だったんです。僕が緑さんを好きだって事を」

「えっ、、西畑さん」

「僕と付き合って貰えませんか?」
驚く緑に西畑は続けた。

「修造さんは子供の頃から僕の憧れの人だったんです。家にあった『パン好きの聖地』って本を穴が開くほど読みました。あの女の子が緑さんだったんだなって、、僕ここに就職して、緑さんに出会えて本当に良かったです」

「ありがとう西畑さん」

「私、お父さんとお母さんが本当に仲良かったのを見て育ったの、だから私もあのぐらいお互いに大切にできる人と付き合いたいの」

「修造さんと亡くなったお母さんの様になれるかどうかはわからないけど、僕は僕で緑さんを大切にします」

ーーーー

金曜日

修造はコンデイトライマヤで焼き菓子を作っていた。

背後から近寄ってきた麻弥の店のマネージャー佐山は冷たい口調で修造に言った。

「修造さん、あなたはご存知ないかもですが、ボスはずいぶん熱心にあなたの事を追いかけてる気がします。それにどんどん綺麗になっていってる。あなたが来るまでのボスはクールな方だったのにここ最近は金曜日には必ずいて、ドイツ系の食材を取り寄せては料理したりしてますよね、それって何故かわかりますよね」

「何故って、、」

なんと言えばいいのだろう、気も付かなかった。
自分はずいぶん麻弥に甘えていた。

契約期間が過ぎれば山に帰ろう。

そしてその後は、、

心の弱った修造には先の予想など到底考えられない事だった。

「麻弥にはすまない事をしてる」

「そうでしょう、そう思うんならそろそろちゃんとしてあげたらどうです」

佐山の言った言葉の意味はぼんやりと耳に入って来る他人事の様で修造には届いていなかった。

ーーーー

いつもの様に職人に技術指導をしていた時。「修造さ〜ん」江川が泣き言を言ってきた。「選考会の飾りパンがなんかイマイチ決め手にかけるんですよ〜」

「選考会と大会に出す飾りパンは違う。もし大会に進めなかったら、本戦に用意してたアイデアとテクニックを出せば良かったと後悔するだろう。ジレンマのある事にならない為にも真剣に考える様にな」

そのあと、日本らしいテーマの物を2人で考えた。
全く今までにない最も素晴らしいものを作るのは至難の業だったが、抜け道を見つけて王道に変化させて圧倒的な技術で勝たなければならない。

数年前に世界大会で協力してくれた江川の為にも以前の自分よりも更に上を目指さなくてはと、修造は無理やり決意を新たにしようとした。

緑にはヴィエノワズリーやタルティーヌについて考える様に言い、過去の写真や資料を徹底的に調べさせて今まで無いものを作る様に指導した。
「テクニックを磨くのと同時に食べる人の健康や食感や味、何か自分が心動かされる事について研究するんだよ」

江川と緑は1次予選を突破し、パン職人選抜選考会まであと4か月になった。

西畑は遅くまで緑の練習に付き合っていた。

緑に必要なものを揃えたり片付けを手伝いながら寄り添い続けた。

「緑さんのパンは繊細ですよ、とてもフォルムが美しいです。江川さんとも修造さんとも違う個性があります」

「ありがとう、まだ失敗する所があるからそこを直さなきゃね」

「お父さんは世界大会で優勝したからプレッシャーがあって、みんなより練習しないとね。でも時々怖くなるの、コンテストで負けたらどうしようって」

「はい」西畑は優しいまなざしで緑の言葉を聞いていた。

「お母さんが亡くなってお父さんは心労でやせ細ってしまった。私は江川さんにお父さんを元気づける為に世界大会に出ようって誘われた時、本当にそれってお父さんが前の様にやる気出す事なのかもって考えて、身の程も知らずに出ることにしたの」

「大丈夫です!」

「僕がずっと緑さんを支えて行きます。だから一緒に頑張りましょう!」
緑を抱きしめた。

「大会が終わったら僕と結婚して下さい」
緑は影日向無く大切にしてくれる西畑に暖かい愛情を抱いていた。

「優勝したら」

「いえ、しなくても。。こんなこと言ったらお父さんに叱られちゃいますね」

ーーーー

そんなある日

「お義兄さん久しぶりね」

律子の妹のその子が訪ねてきた。

「その子ちゃん、どうも」

「実はお姉ちゃんのお墓をうちの実家のお墓に移そうと思ってるの。お父さんもお母さんも年を取って遠出ができなくなって来たし、近くの方が寂しくないでしょう? 山の上は遠くて中々来れないから」

そう言われて黙って聞いていたがしばらくたって「わかった」と返事した。

2人で山の上のパン屋に行き、自然にさらされて段々雑草に覆われてきた建物を修造がぼんやり見ている。

その子はそれを見て、以前のお兄さんとは全然違うわ生気ってものが無くなってる、と驚いていた。

墓は近所のおばさん達が綺麗にしてくれていた。
「修造、まだまだ痩せたままじゃないか。心配してたんだよ」
おばさん達は皆修造に声をかけに来た。

「みんな良い人ばかりね」

「俺1人だと多分誰とも話さなかったよ。俺は変わり者だからね。律子がいたから上手くやってこれた」

「義兄さん、本当にお姉ちゃんを大切にしてくれてたのね。お姉ちゃんも幸せだったと思うよ」

律子が幸せだったという言葉を心の中で否定した。
自分のせいで律子は亡くなったと言う気持ちが押し寄せる波の様に何度も何度も心に被さる。

山の上のお墓から業者が律子の遺骨を運んだ。

長野の墓に納骨を済ませ、修造は魂をお墓に入れるお経をぼんやり聞いていた。

「これで通える様になったわね」と修造の方を見たが以前とは全く違う兄の姿になんと言ったらいいのか言葉に困る。

「お義兄さん、少しは元気出してよ。 お姉ちゃんが亡くなって凄く気落ちしてたから気の毒だった。本当に痩せてしまったわ」

「俺は本当にダメな奴なんだよ」修造は山の上に広がる空に向かって言った。

「だけど色々な事があって段々心の隙間が少し埋まってきた気がするよ。緑が世界大会に出るんだ、今はそれに掛かりきりにしてる」

ーーーー

そんな時

山の上のパン屋の跡を引き継ぎたいという若夫婦が連絡してきた。

修造は山に戻って2人と対面する。

「初めまして修造さん、麹谷正人(こうじだにまさと)と言います。僕たち夫婦は農家をしていて、家でパンも焼き始めたんです。それで山の上のパン屋が閉めてると聞いて是非ここの薪窯でパンを焼かせて貰えないかとご連絡したんです」

「ここで」

修造はボロ雑巾をきつく絞る様にギリギリと胸が締め付けられ座り込んだ。

律子や子供達との思い出だらけの家だが、若い人達がまた新しく地域に根付くのは良い事だ。

暗い気持ちの中、そんな前向きな気持ちが無いわけでも無かった。

「本気なんですか?ここでパン屋を?」

「はい、貸して頂けると助かります」

朽ち果てていく家屋を見て、意気揚々と未来を見つめる若者を見た。

「いいだろう」

修造はこの若夫婦に家を貸すことにした。

家の隅々まで説明して、屋根の雨漏りを直し、機械や窯のメンテナンスをした。

何日間か麹谷につきっきりで窯の使い方を説明した。

言い出すとキリが無いような気がするが、仕入れの連絡先や薪の保管方法、裏庭の栗の木の事など伝え、わからない事があればすぐに答える約束をした。

その後、空手の師範に会いに行き、律子が亡くなった時お世話になったと挨拶した。

「まあ飲めよ」師範の家でお酒を飲みながら話をした。

思えばこうやって師範と杯を交わしたのは初めての事だった。

「師範の事は父親代わりに思って慕っていました。空手が無ければ今の自分はありません」

「修造、今まで世話になった人達の分を若いものに返してやればいいよ。今のお前を見て満足しているよ。辛い事があったらがっくりきたっていい。お前はきっと乗り越えていくよ」

家の引き渡しの時がきた。

荷物を全て送り家の鍵を渡した。

修造は山の上からの景色を見ながら「律子、緑も大地もしっかりしてきたよ。俺も子供たちの為に頑張るよ」と声をかけた。

その声は誰にも聞こえず山の風がさらっていった。

ーーーー

パン職人選抜選考会は巨大な建物の中で行われる「パンとお菓子の展示会」の奥で開催される。

「江川頑張れよ!」

「はい! 今まで教えてきて貰った事を全て活かします」

ブースの中でパン作りに専念する江川を見守るしかなかった。落ち着いて、冷静に、素早く動け!

会場で大木シェフと会う。

「なんかさ、色々大変だったんだって? 過去のことってさ、どうにもならない事が沢山あるからね。先を見て歩くしかないよ」沢山の職人を束ねているシェフの言葉は説得力があった。

修造は世話になった大木に深々と頭を下げた。

若手シェフのコンテストでは緑はテンポ良く、タイムテーブルを見ながらミスなく進めていった。若鳥が巣立つ瞬間の飾りパンは一際映えていた。

江川も緑も無事選考会を勝ち進む事ができた。

程なくして世界大会のテーマは「祭」だと知らせが届いた。

ーーーー

ある寒い金曜日

外は暗く雪が降っていた。

世話になっている麻弥の店の為にヘクセンハウスを組立てアイシングを施して店先に飾った。中にライトが仕込んであってスイッチを押すと聖堂の窓が光る。

「綺麗ね。ヘフリンガーの近くにあった大聖堂だわ」

電気を消して店を閉めた麻弥は修造の横に座りドイツの大聖堂をモチーフにしたヘクセンハウスの明かりを見てしみじみと言った。

「ドイツで修業してた頃はお金が無くてジャガイモのスープばかり食べてたわ。パンの端や失敗したパンを持って帰ってスープに漬けて食べてたの。でも若さと夢があった」

「そうだね、俺もそうだったな」

「同じ店で働く真剣で熱い修造をずっと見ていたわ」

麻弥はいつもの軽い調子とは違う真面目な口調で言った。

「ねぇ、私達いつか結婚するんでしょう?」

「麻弥、それって本気で言ってるの?」

「ええそうよ、私が先に修造と会いたかった。私が先に修造を見つければ良かったのよ」

急に麻弥は修造の手を強く握りながら言った。

「麻弥」

亡くなった妻を不幸にしていたとしか思っていなかった修造は、また麻弥に二の舞を踏ますのはいけない事だと言った。

「すまない麻弥」

すると麻弥は立ち上がって

「そんな事で修造を諦めたりしないわ。私はこれからも修造とパンやお菓子を作って楽しく暮らすの! 修造は私から逃れられないわよ!」麻弥は修造の手首を手錠の様にきつく握った。

聞くと執念深いストーカーの様な怖い発言だが、そうでは無く、麻弥はただただ長きに渡って修造を愛していただけだった。

「麻弥、君って人は、、」

修造は麻弥の尽きない愛にとうとう根負けした。

こんな腑抜けの様な自分の事を長きに渡って思い続けてくれた麻弥に義務感の様な気持ちが芽生えてきた。

「あなたは私のものにならなくちゃダメ!」

麻弥は圧倒的な力で、心の弱った修造を支配した。

黙ったまま首を「うん」と動かした。

おわり

あとがき

江川は自分が世界大会にアシスタントとして出た年齢と同じ緑とまた世界を目指そうとします。そして修造に再び熱く燃えさせようとも。修造リスペクトの江川の思惑は上手く行くのでしょうか?

修造が麻弥のお菓子の店で食べたフルヒテシュニッテンはフルーツのお菓子で、シュニッテンは切り菓子の事です。味覚はその当時の事を鮮明に甦らせ、ドイツに居た時の事を懐かしく思ったのでしょう。

そして麻弥はドイツで修造を大好きだった愛の炎が燃えさかります。ずっと堂々と生きてきて、はっきりとした性格の様に見える麻弥。

絶対手に入らない修造の心を芝居じみた態度で振り向かせ様としますが、果たしてその愛はいつか報われるのでしょうか。

この作品は2021年04月21日(水)グロワールのブログに投稿したものです。

パン職人の修造 第4部 緑と大地に囲まれたパン屋

パン職人の修造 第4部 緑と大地に囲まれたパン屋

山々に囲まれた修造の実家はもう誰も住んでいない。

修造と律子は以前からの計画通りに実家でパン屋をする為に山の上に移り住んで来た。

「これからここで暮らすんだよ」

「キャンプみたい!」

子供たちは生まれて初めての大自然に驚いた。

修造の実家は山の1番上にあり、家の前からは広大な大地が一望できた。

夕方は空が真っ赤になり全てが赤く染まる。

夜になると辺りは暗く、星が降らんばかりに煌めいている。

天の川を子供達は珍しがった。

「そう言えば子供の頃はあって当たり前だったので、何も考えず星の名前も気にもして無くて、北斗七星ぐらいしか知らなかったな」
律子と2人で笑い合ってテラスの椅子に座り
「あれはオリオン座、あれが夏の大三角」と律子に教わった。

「私達昔ここでパン屋をやるって言ってたの覚えてる?」

「覚えてたよ」

実際には覚えてるどころか、ドイツにいた時はその思いに駆られて、いつか律子と2人でパン屋を作り、静かに暮らす事を夢に見ていた。

ここでずっとパンを焼いて、律子と子供達と暮らそう。

まず家の補修から始まり、店は入り口の土間に小さなショーケース、奥に2段窯を置き、動きやすいパン工房を作った。

工房の外には屋根付きのベランダを設け、石と煉瓦で薪窯を手作りした。

店の名前はBäckerei Grüne Erdeベッカライグーネエアデと名付けた。
緑の大地と言う意味合いだ。

山の上の辺鄙な立地にも関わらず、開店当初はニュースになり車の大行列ができた。
修造は持ち前の頑丈な身体でパンを作りづけたが、14時頃にはすっからかんになり、また次の日の1時に起き出してなるべく沢山のパンを揃えた。

山を降りた所の小麦農家と知り合いになり粉を卸して貰ってるうちに、麦ふみや収穫を手伝う様になり、地元の小麦や農産物について色々教えて貰った。

さわさわと音をたてて風にしなる小麦の穂。

緑の小麦畑はやがて黄褐色になり、穂には沢山の実が付き収穫の時期を迎える。

湧水を使い、塩は海側のソルトファーム、野菜は近所の農家のおばさんから買う。
農場で作ったチーズやバターもある。

修造の作るパンは地元の味そのものだった。

「地産地消」

修造はまたパンの世界の扉を開けた。


石臼で挽いた小麦を使った生地を低温でじっくりと寝かせ、旨みを引き出す。
薪を焚いてしっかりと温度を上げパンを焼く。焼けたパンの裏側を指で叩いて高い音がすると焼けている合図だ。窯から出す瞬間に小麦の香りに包まれると、いつもエーベルトの顔が浮かんだ。

裏庭の栗を甘く煮て、秋ごろから漬けこんだフルーツをたっぷり使ったシュトレンは評判になり、また更に遠くから車に乗ってお客さんが来てくれた。

ーーーー

休みの日は緑と大地を師範のところに連れて行き、道場の子供達に空手を教えた。

師範は修造に嬉しそうに言った「大地はお前の子供の頃そっくりだ。動きが似てるよ。瞬発力がある」

大地はメキメキ空手が上達していった。「楽しみだなあ」

毎日が充実した素晴らしい日々だった。

ーーーー

夜は2人でソファに横になり、音楽を聴いたり話をしたり。

「修造」

律子は用もないのに修造の瞳を覗き込み音痴な修造にドイツ語の歌を歌わせてからかうように笑った。

修造の生活はまさに人生の収穫の時期そのものだった。

「修造さんお久しぶりです」ある日パン好きのカリスマ小井沼がやって来た。

「久しぶりですね小井沼さん」

修造は聞けばなんでも答えてくれる博識な小井沼に心を開いていた。

取材に来た小井沼にドイツ時代の心の師匠エーベルトが与えた今のパン作りへの影響について説明した。

「これからもこの生活を維持していきたい」

小井沼はこれが充実した男の生きざまだと思った。

「Grüne Erdeは本当に素晴らしいパン屋さんだと思いますよ」

ーーーー

律子が「猪を見た人がいるそうよ」とおびえて言った。噂は聞いた事はあるけど1度も見たことは無い。

さすがに猪と戦っても勝てないだろうな。「念の為に気を付けてね。何かあったら家から出ないで」

ある日

修造は大地を連れて薪用の枝を落としていた。

大地は地面に落ちた木の実を拾っていた。

枝を集めてふと後ろを振り返ると、大地の20メートルほど後ろに巨大な猪がいた。

「うわ」

「走って来る」

「やばい」

大地に駆け寄り左手で大地の襟首を掴んで持ち上げ、右手で鉈(なた)を真っ直ぐ走ってくる猪の眉間目掛けて当てた。

鉈は急所にヒットして猪はドオオーーン! と音を立てて倒れた。

修造は生まれてから1番恐怖を感じた。

「大地大丈夫? 怖かったね」震える手で大地を抱きしめた。

猪をどうにかしないといけない。修造は地元の猟友会に電話した。引き取りに来てもらい、猪はトラックで運ばれて行った。

修造はしばらく腕の痛みに悩まされた。「俺も若くないな」

「見て! パン屋の修造が猪を鉈で一撃にしたって地元の新聞に載ってるわ!」

「恥ずかしいよ。こんな事で新聞に載るなんて。。」

程なくして猪の片足が修造の所に運ばれて来た。ジビエ料理はやった事がないが、修造はシュバイネハクセに挑戦することにした。

猪の足を塩水に漬けこんで血抜きをした後、ハーブや香辛料、香味野菜と煮込み、冷ましたら玉ねぎをひいた天板にのせ薪窯で焼いた。

当たりは猪の油の甘いような、香ばしい香りが立ち込めた。それをカットしてジャガイモやハーブを添えて近所のおばさん達に振る舞った。

「子供のころは挨拶しても返事もしなかった修造ちゃんが最近は明るくなってきたね。きっと奥さんがしっかりしてるんだよ。いい奥さんをもらったね」

ーーーー

充実した生活が何年か続いたが、律子はよく腰を摩るようになった。

脊柱管狭窄症と診断された。

徐々に足のしびれもひどくなってきた。

律子は以前から足の裏に綿を踏んだような感覚があったらしいが気にもしていなかった。家の周りは坂だらけなのでそれが良くなかったのかも知れない。

手術は成功したものの、その後腸腰筋膿瘍を併発して具合が悪くなる一方になり塞ぎがちになった。

お客さんの出入りも落ち着いてきたので修造は律子を看病しながらパンを焼いてお店に並べた。近所の人達がパンに困らないように作ったパンの無人販売所というわけだ。お金の代わりに野菜が沢山置かれている時もある。

律子が移動する時は修造が真綿を運ぶようにそっとお姫様抱っこをするので緑に冷やかされた。

店の前の眺めが良い所に柔らかなクッションの椅子を置き座らせた。

「痛い?」徐々に食欲がなくなる律子を心配して色々なものを勧めた。

痛みと衰弱で何度か入院した律子を心配しながらも、

「俺は行きたい学校があるんだ」と言って大地は空手の強い中学の寮に入った。

「お母さん」

「なあに緑」

「大地が遠くに行ってしまったから言いにくいんだけど、私、江川さんの所でパンの修行がしたいの。お父さんがLeben und Brotで作ってたパンを私も見てたわ。だからそれを引き継いだ江川さんのパンが作りたいの」

「緑、私の事は気にしないであなたはやりたい事をやりなさい。お母さんはお父さんを独り占めするわね」

「お母さん、、私頑張るね」

緑は江川の店Leben und Brotに行くことになった。

緑からのメールによると、江川は実力派のシェフとして名を馳せていてLeben und Brotは繁盛していた様だ。

修造も子供達にメールでお母さんの様子をたまに知らせた。

律子はお医者さんから内臓の機能不全と言われていたが入院を嫌がった。

修造はある時とうとうお医者さんから「奥さんの最後を迎えるなら病院にするか家にするか」と聞かれた。

帰り道

車の中で何かあったら救急車は中々来れない山の中で、人工呼吸しながら車を運転して病院に行くのは無理だ。帰りの車で入院の支度をしなくてはと考えていた。

「修造、もういいの、修造と山の上で一緒にいる」

ーーーー

律子はお店の前の椅子に座らせてもらい「空手の形を見せて」と言った。

修造は道着に着替え律子の好きな形をしてみせた。

夕焼けに赤く染まり、ゆっくりと両手を広げて形を始めた修造。

最後を迎えた律子の瞳に修造が真っ赤に映っている。律子ははいつのまにか目をつぶって動かなくなった。

「律子」

修造は律子を膝に乗せて抱き、「ごめんね」と言った。
今まで苦労しかかけてこなかった。

修造は空手着のまま律子を抱いて離さなかった。
徐々に冷たくなった律子がこのまま夜の暗闇に消えてしまいそうだったからだ。

当たりは暗くなり時々揺れる風の音以外は何も無くなった。

「律子」

翌朝訪ねてきた近所のおばさんが、空手着のまま座って律子を抱いてる修造を見てすぐ師範に連絡した。

「修造!しっかりしろ、お前が律子さんを弔ってやらなきゃ誰がやるんだ!」

師範は無理に修造を動かした。

修造は何もする気が起きない日が何ヶ月も続いた。

パンも焼かず店の前に置いたソファに黙ったまま座っている日が多く、緑と大地が心配してちょくちょく訪れ「街へ戻ってまた前のようにパンを焼きなよ」と言ったが「律子のお墓を守らなきゃ」としか言わなかった。

実際自然の中のお墓はほっておくと蜘蛛の巣がはり、そこに木の葉が引っかかってたちまち自然と同化した感じになってしまうからだった。

緑はLeben und Brotに戻り江川に相談した。

江川は世界大会の時の燃えるような動きの修造を思い出し、そんな修造は「信じられない」と鞄を持って新幹線に飛び乗った。

レンタカーで何時間もかかってやっと辿り着くと、話に聞いた様に本当に店の前の椅子に座っていた。

江川が知っている修造とは変わり果てた姿だった。

修造さん、僕の人生は修造さんに貰ったようなものなんですよ。
僕がなんとか元の修造さんに戻さないと!

「修造さん」

修造はもうちらっとも江川を見ない。他の世界に行ってしまった様に。

「修造さん、、お気持ちはわかりますが元気出して下さいよ。。」

「僕と2人で世界大会を目指してた時の修造さんを思い出して下さい。メラメラに燃えてたじゃないですか。まだ若くて体力もあるんですがら、店に戻ってきて若いものにパン作りを教えて下さい。何のためにドイツに行ってパンの修行してきたんですか? 宝の持ち腐れじゃないですか」

江川は修造を必死で励ました。

Leben und Brotにもう一度戻る?考えた事も無かった。

ちらっとそう考えたが返事もしない。

江川は「また迎えに来ますからね」と言って自分の店に戻っていった。

それでも全然動こうとしない修造。自分の心から全てのものが抜け落ちた気持ちだった。

ーーーー

修造はある時ドイツ時代に流行っていた曲を思い出し音痴ながら口ずさんでみた。

すると

それにハモって一緒に歌を歌う人影が現れた。ドイツ語で? 修造が振り向くと、派手な髪色の女が背中を撫でた。

なんだか仕事が出来そうなパリッとしたベージュのスーツを着ている。

「どちらさんですか?」

すると女の人は「え〜?」信じられない! と言う風に修造の肩をバシッと叩いた。

「無理もないわね! もう何年も経ったから。私! 麻弥よ!」

「麻弥?」

「そうよ! ドイツで一緒のお店で修行してたじゃない」

修造は突然の事すぎてしばらく麻弥が思い出せなかったが、ドイツのクリスマスマーケットで交際を断った女の子だと思い出した。

「あの、、その節は」

「何言ってるの!もう全然気にしてないわよ」麻弥はハキハキと話しかけてきた。

麻弥はドイツのお菓子マイスターの資格を取り、何年か働いた後日本に帰ってきて、テレビで修造を見た時はとても驚いたのだと言う。

その後SNSで修造の事を調べたり、新しいお店の情報もパン好きの人達の発信を見てずっと追っていたらしい。

「私ドイツ菓子のお店を開いたの。今から一緒に行かない? Leben und Brotからすぐ近くよ」

今から一緒にと言うのは辞退したが、江川や緑の事が気になり、一度Leben und Brotに寄る事にした。その時にお店に行く約束をして、割としつこい麻弥を帰らせた。

おわり

最後まで読んで頂いてありがとうございました。

修造が作った山の上のパン屋さんはある意味理想の生き方ではないでしょうか。雄大な景色を眺めながら薪窯でパンを焼き、地元の人たちと触れ合い、地産地消を心がける。憧れのテーマであります。

修造は最愛の妻律子を亡くし、失意の中にいます。これから修造はどうなるのでしょうか。

今回のテーマの中に「父ちゃん母ちゃんの店」という事が隠れているのですが、これは夫婦2人で営むお店の事で、若い時は勢いがあり2人で商売を続けていられるのですが、やがてどちらかが病気になったり、お亡くなりになると残された方は失意のうちにお店を畳んだりする事もあります。人手不足、後継者不足も要因の一つです。

もし近所に父ちゃん母ちゃんの店があったら応援してあげて下さい。

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