24パン職人の修造 江川と修造シリーズ  イーグルフェザー

鷲羽秀明(わしゅうひであき)は東京NN製菓専門学校パンコースを首席で卒業した。

在学中は学科、実技ともに他を圧倒する実力でその名を学校中に轟かせた。

教室の中では何もせずとも楽にトップでいるそぶりだったが、心の中では絶対に誰にも自分の前を行かせまいと躍起になり、陰では人一倍パンに関する何事でも頭に入れようと努力していた。

にも関わらず、トップを走り続けていると自分は何かのエリートではないかと思える、そして自分より遥かに後ろを走ったり歩いたりしている同学年の生徒がなんだか小さな存在にしか見えず、段々不遜な性格が強く出て、小馬鹿にする態度を取ってくる鷲羽に話しかけるものは誰もいなくなった。

だが講師達はパンコンテストに出品させては賞を取ってくる鷲羽にとても目をかけていた。中には褒めそやして「君なら若手コンテストに出られるよ」と言う講師もいた。何度か言われているうちになんだかそれは未来に必ずやってくる出来事として鷲羽の心に刻み込まれていった。

ブーランジェリーホルツの入社試験に無事合格した。入社してからも野心家の鷲羽は先輩の真似をしては自分のものにしていった。

ある時ホルツのオーナー大木シェフに「今度からパンロンドの職人が奥の別室で特訓するから」と聞いてからは、やってくるであろう田所修造の事を調べて憧れを抱いた。修造の事をなんだか遠く手の届かない、ハイブランドな存在に感じていたのだ。

そしてその当日、修造と一緒に来た江川と言う若者は学校で見た誰よりも性格が頼りなく実力のない様に見えたので、一体何故こんな奴が大切にされるのか不思議で、踏みつけてやりたいと言う気持ちに駆られた。ところが足を引っ掛けて倒す様な事をやっても、いつの間にか起き上がって、なんなら自分よりも高いところから見下ろされている。

おまけに修造に凄く可愛がられていて、世界大会に出ようとしている。は?俺だよ俺だよ。お前じゃない。俺の予定を狂わせるなよ。

そう思って敵視していたその時、修造に言われた言葉がこうだった。

「美味いパンって言うのはいつも食べられる当たり前の存在であってほしいと俺は思ってる。だから天候や気温に合わせて種や生地の面倒を見て良い状態で焼成まで持っていく、そうすると美味いものができるんだ。お前は江川の事をライバルで、戦わなきゃならないと思ってるのかもしれないが、お前がこれから戦うのは自分自身なんだ。お前の作ったものを選んで食べてもらう為にな。それは必ず美味いものでないといけない。形だけ勝っても意味はないんだ」

ライバルに勝とうとしているのに、本当の戦いは自分自身と?俺が俺に打ち勝つのは一体どんな時なのか。

毎度大木が出してくる課題に誰よりも良いものを出す。そう言う事なのか?

鷲羽は頭をかかえた。

何度練習して結果を出しても、最後は江川が追い越していく。

そんな折

鷲羽と江川のパン作りはとうとう他人の手によって審査される時が来た。

「次来た時、一次審査のパンを送るから」

大木は皆の顔を見ながらそう言った。

締め切りから逆算して日にちを決めたのだ。

そう聞いた途端、なんだか身体の血の巡りが早くなり瞼が痙攣する。

鷲羽は仕事中も出品する事を心がけて命を込める気持ちだった。

今までこんなにまで打ち込んだ事はない、そのぐらい。

配送の日が来た。

自分達の作ったパンを焼けてすぐに良いと思ったものを選んでフリーザーで凍らせた。

完全に凍るまで工場で仕事を手伝う。パンロンドから来た二人にとってとても勉強になる時間だ。そしてついに梱包をする時間が来た。丁寧に梱包して、大木が手配した配送業者に渡す。

「工芸品の様に大事な物が入ってるんだ。頼むよ」どうやらこの時のために知り合いに頼んだ様だ。大木に馴染みの配送業者は丁寧に頷いて冷凍車に積み込んだ。

「緊張するな」「はい、僕心臓がドキドキします」配送業者がパンを持って行った後の修造と江川の会話だった。

園部は黙ったままだったが、一体どんな事を考えていたのか。

冷凍で配送されたパンは会場に並べられて審査される。

さて、審査が終わり、大木が選考会への切符を受け取る選手の名前を述べた。

まずは選考会には修造が選ばれていた。

それを聞いた時修造は「ふぅー」っと息を吐き、緊張を解きほぐす仕草をした。そして他の選手の名前を覗き込んだ。「あ、北麦パン!」パン王座決定戦で一緒だった北麦パンのチーフシェフ佐々木の名前があった。他にも有名店で働いている職人の名前が二人。

「北麦パンは凄い特訓をしてるよ」大木は何かと色々知ってる様だった。

次に大木は気になる若手コンテストの選手の名前を述べた。

「江川と鷲羽が選ばれたよ。園部、残念だったがこれを機に更に飛躍する様に」

「はい」

相変わらずポーカーフェイスの園部を見て、学校時代の自分なら気にもしない所だが、鷲羽はやっと、自分と同じ立場でさっき迄同じ心配をしていた園部の心中がわかる様になってきた。

「園部ごめんな、俺、お前の分も頑張るよ」

この言葉がこの場にあってるのかどうか鷲羽には分からなかったが、何か声をかけずにはいられなかった。

「俺、この場にいて良かったよ。勉強にもなったし。応援してるからね秀明」

「うん」

人に向かって何かしらの優しい言葉をかけたのは生まれて初めてだった。

江川が「鷲羽君、入選おめでとう。頑張ろうね」と言ってきた。

澄み切った水辺に輝く宝石の様に瞳がキラキラしている。

自分には全くキラキラした所が無い。思えば自分と江川のパン作りの違いもそんな所では無いのか。ふとそんな事に気づく。

白い鳥の羽の様な、青い空に浮かぶ白い雲の様な、鷲羽から見た江川はそんな風に見えた。

鷲羽は江川の言葉に対して斜に構え少しだけうなづいた。

大木が帰ろうとする鷲羽と江川を呼び止めた。「お前達には修行も兼ねてベーカリーベークウェルのヘルプに行ってもらう、江川が次に空いてる日に鷲羽も行ってきて良い。江川、決まったらメールくれよ」

「はい」

帰りの電車で江川は修造に質問した。

「ヘルプってどんな事をすれば良いんですか?」

「そうだな。ベークウェルって五店舗ある町のパン屋さんなんだけど、そのお店がイベントとかしたら沢山のお客さんに来てもらえるからその分沢山パンがいるだろ?だから手の足りなさそうな所を手伝ったりするんだよ。店の人にに頼まれた仕込みや成形をするんだ」

「へぇ〜僕初めてです。どんなのかなあ。。それに、、鷲羽君と一緒なんですよ」

江川は不安そうに少し涙目で言った。

「それは、、頑張ってね」そこに呼ばれていない修造はそう言うしかなかった。

さて、江川は空いてる日を大木にメールした。するとベークウェルの地図と持ち物、日時を書いて送り返してきた。

大木はホルツで仕事中の鷲羽に、この日に江川とベークウェルに行く様にと言ってきた。

なんで俺が江川と行かなきゃいけないんだ。

鷲羽は心の中で愚痴をこぼした。あのキラキラした江川をずっと見てなきゃいけないのか。うんざりだ。

ベークウェルはお洒落な設計で、敷地が四十坪、店と工場は半分ずつに分かれており、店部分の三分の一はイートインスペースだ。お店にいる三人の店員さんに挨拶して中に案内して貰う。

江川と鷲羽は別々に着いてその店の店長に挨拶した。

「店長の杉野です。来てくれて丁度良かったよ。明日から三日間、開店五周年の創業祭があるんだよ。今日は二人ともよろしくな、あそこにいる塚田って子が指示してくれるから」

二人は同時に塚田を見た。

細身の塚田の制服はうす汚れていてヨレヨレしている。それがなんだかやる気のない様子に見えた。表情もどこか頼りなげだ。

塚田はぺこっと頭を下げて二人にバゲットの成形を促した。

「おい!ちゃんとやっとけよ!」塚田に罵声とも言える言葉を残して店長がどこかへ行ってしまったので、工場の中には塚田と焼成のところに三田、仕込みのところに辻と言う従業員、そして江川と鷲羽の五人になった。

「塚田さんって幾つなんですか?」と気さくに江川が質問した。

「ニ十五です。元は本部にいたんです、、こちらに来て一年目になるんですがもう辞めようと思っていて」まだ話し出したばかりなのに塚田は何故かやめる事を言い出した。

「なんで?」なんだか自分が普段目指してるものと違いすぎて帰りたくなった鷲羽が聞いた。

「それは、、」塚田はチラッと店長が出て行った跡を見た。

「あの人が嫌なの?」江川もそちらを見て言った。

「はい」

パワハラかなんかか?もうさっさと仕事をやってしまって帰ろうと決めた鷲羽は「何が修行だよ、一日損した」と呟いて突然黙々と仕事をしだした。

鷲羽の険しい表情を見て、江川はそこからなるべく遠ざかって塚田と一緒に成形しながらしつこく質問した。

「何が嫌なの?」ホルツやパンロンドにはいないタイプの塚田が珍しかったのだ。

「ここにいても何も解決しない」

「例えば?」

「おい!江川。そんなやつほっといてさっさとやろうぜ。やる気のない奴は辞めたらいい」

「鷲羽君、そんな言い方しないで」江川はオロオロした。

修造ならこんな時なんて言うだろうと考えていると塚田が言った「やる気ないわけじゃないんです」

「ならなんで辞めるんだ」要領を得ない会話に鷲羽はイライラした。

「ここには問題が沢山あるんです」と突然後ろから声がした。

仕込みをしていた女性が話しかけて来たのだ。

「あ、急にごめんなさい。塚田さんもヘルプの人達に中途半端に言わないでよ」

「ごめん」

「ここは経営者は別にいるんです。店長は目が行き届かないのをいい事にサボってばかりいて」

「注意すればいいだろ?」

「無駄ですよそんなの」

もう一人の焼成の担当三田も話しかけて来た。

「店長はすぐにキレるんです、注意なんてしたら一日中機嫌悪いですよ、それに二言目にはお前達は効率が悪いってキレてます」

「えー!嫌だなあそんなの」

「だから辞めるのか」

「それもあります」

「問題を解決しないと次に入ってきた人も同じ事になるんじゃないかなあ」江川の言葉に乗せて、鷲羽は塚田に言った。「例えばお前が受験生だったとする。第一志望に受からなくて第二もダメでヂ第三なら受かった。こんなとこに入りたくなかったとずっと不満に思うか、自分がこの学校のトップを追い抜いて更に上を目指して学校の格を上げるか。要は気持ち次第だろ」

「ここって色々問題あるんだよ。例えばさ、それ、店長どうのこうのより袋の中のクリームは綺麗に使い切ろうよ。ほらこれを使うとすごい綺麗に使い切れるぞ」

鷲羽は窓拭き用の小さな四角いワイパーを持ってきて洗って搾り袋を持っている三田に渡した。

ワイパーの薄くなっている部分で搾り袋を押していくと袋の中のクリームが綺麗に使い切れた。

「スケッパーって使い込んでるうちに先が凸凹してくるけどこれなら密着する。さっきから気になってたんだよ」

「ほんとだ!」

三人はしぼり袋の中のクリームが綺麗に使いきれているのを見て「へぇ〜」っと言った。

「僕もちょっと良いですか?」江川も口を挟んだ

「ほら成形してるところとバゲットを乗せる板が離れすぎてて運んで置いてると形が悪くなっちゃう。近くに置いてやればいいのになんでわざわざ遠くに置くのかちょっと思っちゃいました」

「作業する時にさ、同じ事を繰り返す瞬間があるんだよ。その時に手は動かして頭の中では次にする事どころかその日の行程をすでに考えておく、するとえーととか言って次に何するかその時になって考えなくてもいいのさ、それが効率化だよ」調子に乗ってきた鷲羽の口が軽くなってきた。

「あとはこっちの仕事とこっちの仕事、どっちを優先させるか考えるのも大切だよね」

「店長が殆どサボってて私達何も聞いてないので我流が多くてお恥ずかしいです。貴方達みたいなのがうちにもいたらな」三人は顔を見合わせ頷いた。

「あの、実は。。」「えっ?なに何?」三人が言う事を江川が乗り出して、鷲羽も仕方なく聞いていた。

「鷲羽君、僕たちも協力してあげましょうよ」

「嫌だよ。俺に関係ねえし」

「怖いんでしょう」

「そんな訳ないに決まってるだろう」

「じゃあお願いね」

「フン」

鷲羽は嫌な顔をしたが、江川の前で怖そうにもしていられない。

「協力しても良いけど条件があるぞ。俺をパンロンドで一日勉強させてくれよ。インターンシップってやつだよ」

「えっ」鷲羽がまさかパンロンドに来るなんて想像もしてなかった江川はどうなるか想像して足が震えた。みんなの鷲羽に対する印象はあまり良くない「お、親方に聞いておくね」

「よし!やる気でてきたぞ!」

鷲羽は勢いで乗り切る決意をして、店長が戻って来る前に時間を組み立て全員で力を合わせて仕事を片付けた。

店長が戻ってきて誰かと電話で話している。「始まりますよ」塚田が言った。「うん」二人は返事して、江川は「塚田君、電話した?」と聞いた。「はい、すぐ来るって言ってます」

そのうち納品業者が来て、店長と外に出て行った。

「よし」鷲羽は江川と二人で静かに外に出た。店の横のレンガ調ののタイルを敷き詰めた階段が下へと続いている。店長達は倉庫のある地下一階のドアを開けて入っていった。

「江川、行くぞ」

「うん」

二人がそーっと小さな窓を覗くと業者と店長が話している。そして封筒を受け取ったところに鷲羽がドアを勢いよく開けた。

「見たぞ!ワイロ受け取るところ!」

店長が、ギクッとした。

「あんた横流ししてるだろ!」

「何言ってるんだ、納品書を受け取ったところだよ」

「嘘つけ」

「何が嘘だ」

「封筒の中を見せてみろ」

店長より背の高い鷲羽は上から封筒を取り上げた、店長が取り返そうと揉み合いになりそうになり、その隙に業者が慌てて帰ろうとしたので江川が「ちょっと待って!帰らないでね。どうせ会社の名前もわかってるんですよ」と引き留めた。

と、そこへ

「そこまでだ!」と社長と塚田が入って来た。

「あ!」店長が社長を見て叫んだ。

「在庫製品を倉庫から間引きして転売していただろう!俺はずっと塚田に頼んでお前の様子を見てもらってたのさ。お前には選ばせてやる。業務上横領で訴えられるか自ら辞めるかだ」

江川と鷲羽はそれを後ろで見ていた。

「鷲羽君あれ」

「うん」

塚田が急に顔つきと姿勢がが変わってしゃんとし出したのを。

「店長、あなたはこの職場に相応しくない、指揮が下がります」

「塚田!お前裏切ったな?」

「裏切ったのはお前だ!僕はずっと不正を暴くために詳細な在庫管理をしていたんだ、続きは社長と事務所でするんだな」

塚田が社長の代わりに強い口調で言ったので社長は転売業者に「お前もな、もうすぐお前の上司がここに来るってさ」

そんな顛末を見守ってから二人は階段を上がった。

「江川、片付けて帰ろうぜ」

「うん鷲羽君」

いつのまにか二人は元々二人で一組の様な感じになっていた。

「鷲羽君ってさ、リーダーシップあるんじゃない?今日カッコ良かったよ」

江川は、そう言われて照れる鷲羽の顔を覗き込んだ。

「何言ってんだよ!」

「うふふ」

二人が話していると塚田が追いかけて来た。

「変な役をやってもらってごめんね、おかげで助かったよ。月一回業者が来て商品を横流しする日が今日だったんだ。高額な物を仕入れるから怪しいって思って調べていたんだ。それに、、江川君が色々聞くからつい言っちゃったんだ」

「えっそうなの?ごめんねなんか」

「おかげで勢いでスピード解決したよ。ありがとう」

「お前辞めるなんて嘘だったのか?それとも社長のいてる本部か何かに戻るのか?」鷲羽が聞いた。

「僕、ここに残るって社長に言ってみるよ。今抜けたらみんな困るし。そうだ!まだ時間あるから今から工場を改善する方法をみんなで考えようよ」

三人は口々に色々案を出しながら工場に戻って行った。

おわり

このお話は2022年02月15日(火)にパン屋のグロワールのブログに投稿した物です。

23パンロンドの職人さんのバレンタイン Happy Valentine

パンロンドの職人さんのバレンタイン

Happy Valentine 律子と修造

今日は2月14日

仕事の帰りに修造は東南駅の横の

巨大モールの入り口にある花屋に立ち寄った。

「いらっしゃいませ、今日はどの様なものをお探しですか?」

「あの、妻が妊娠中で、あまり香りのキツくないものが欲しいんです」

「奥様にプレゼントですか?それでしたらこちらなんかいかがですか?」

修造は店員さんと色や量について決め

可愛くラッピングして貰った。

そして雑貨屋さんでレモンやカモミールなどの配合された

爽やかなテイストのハーブティーを選んだ。

アパートに帰ると律子は

グリーンのソファに座って雑誌を読んでいた。

それを見て修造は生まれてくる

赤ちゃんの事を想像してワクワクした。

妊娠中のホルモン分泌の高まりからか

律子は美しく神々しくさえ感じた。

律子これ

わあかわいいチューリップ

これ私に?

うん

ドイツにいた時

バレンタインには

男性から女性に

プレゼントしてたんだよ。

俺もいつもそれを見てて

律子にそうしようって

決めてたんだ。

愛を込めて

いつもありがとう

いつもありがとう

誰よりも大切な

俺の宝物

私こそありがとう修造

初めて見た時から

あなたの瞳を見て

本当はわかっていたわ

あなたが私の事を

好きでいてくれる事を

Happy Valentine

ずっとずっとずっと大好き

ーーーー

杉本と風花

あのさ風花

何?龍樹

これ勿体無くて食べられない

飾っとく

だから予備のやつない?

あるけど、、

それって正解なの?

だって可愛いんだもん

また作ってあげるわよ

毎日がバレンタインならいいのに

ばかね

Happy Valentine

ーーーー

藤岡君の毎日

来たわよ

22パン職人の修造 江川と修造シリーズ スケアリーキング

パン職人の修造 江川と修造シリーズスケアリーキング

*このお話を読む前に

パン職人の修造は全てフィクションです。実在の人物や店舗、団体などとは関係ありません。ここには素晴らしいパンの世界が毎回違った形で出てきます。読んでいるとひょっとしてパンに詳しくなれるかもしれません。今回はどんなパンが出てくるのでしょうか。

田所一家は、修造の妻律子の実家がある長野県長野市に来ていた。

律子の実家は東京駅から北陸新幹線はくたかに乗り長野駅で降りてから、レンタカーを借りて、車で一時間の山の上にある。

トマトやレタス、セロリなど育てている農家だ。

修造にとって義理の父 高梨厳(たかなしいわお)と義理の母 高梨容子(ようこ)は内心修造をよく思っていない。修造がドイツに行ってる間、しょっちゅうアパートに来て律子に離婚して実家に帰ってくる様に言っていた。なので修造も足が遠のいていたが今回律子の勧めもあって「嫁の実家にお泊り」なのだ。

律子の妹その子だけは優しい。

「修造兄さん、運転お疲れ様。お姉ちゃん、緑ちゃん、久しぶり」その子が明るく声をかけてくれるのでホッとして修造は車から降りた。「その子ちゃん、パン王座決定戦の時は野菜を持ってきて貰ってごめんね」

「良いのよ、役に立てたなら嬉しいわ。中へどうぞ」

「緑ちゃんや〜こっちおいで、さあさあお入り。ケーキを買ってあるんだよ」

厳と容子は修造を無視して緑を中に招き入れた。可愛い孫にぞっこんメロメロだ。

あの」

「はあ?」

修造が挨拶しようとしたが、振り向いた厳の目は三角になっている。

こわ

そこで容子に挨拶する事にした。

「ご無沙汰してすみません」

「ほんと、久しぶりだわね。長い事どこに行ってたのか知らないけど。ま、お入りなさいよ」

こわ

もう帰りたい。

しょんぼりしている修造の背中を律子が押して中に入れた。

「ごめんね、うちの親が」

「律子、違うんだよ。悪いのは俺なんだ」

「いつまでも言ってるうちの親に問題があるわよ」

「お父さんお母さん!修造は緑の大切なお父さんなのよ」

「わかってるわかってる」二人の返事はおざなりだ。

律子の生家は広い敷地の農地が見渡せる真ん中にある三階建てだ。

皆、一階にある和室の居間に移動して座った。

大きめの机が置いてあり、その周りに座布団が敷いてある。

修造は厳と対極の端っこに座った。

「はい、どうぞ」その子はお茶を入れてきて配った。

律子はみんなが座ったのをみて「あの」と切り出した。

「どうした、とうとう帰ってくる気になったのか?」

「まだ言ってるの?」

「ちょっと、なんなの会ったばかりなのに!」

その子はテレビをつけて場の空気を変える事にした。

「ほら、パン屋さんがテレビに出てるわよ。あ、この人NNテレビのパン王座決定戦で一緒に出てた人じゃない?」

お昼前の奥様向けの情報番組にブーランジェリータカユキのオーナー那須田シェフが出ている。

美しいクロワッサンや、目にも鮮やかなバイカラークロワッサンを紹介している。

バイカラークロワッサンは生地の表面に赤や緑の色付きの生地を重ね、巻くと色付きの生地とバターの層がくっきりと綺麗なパンの呼び方だ。

修造は急に顔つきが変わり、真剣に見だしたのを律子は見逃さなかった。

律子の解析はこうだ

那須田シェフだ!

この店はクロワッサンが有名なんだよ。

今度の一次審査にもヴィエノワズリーがあるんだ。

店の場所は上越妙高駅近くか。

ここから結構近いな。

行って色々教わりたいけど、今それを言うわけにはいかないな。。

律子は超能力者の様に全ての表情を見てとった。

「良いわよ修造」

「えっでも」

急に始まった二人の会話に驚いた厳が修造を睨んだ。

「何が良いんだ」

「いえ、なんでもありません」修造は小さくなってペコっと頭を下げた。

「修造は今から上越妙高駅に用があるんですって」

「長野駅に車を置いて行けば良いわ。私達はここでのんびりしてるわよ」

それを聞いて厳は急に気が変わった。

大嫌いな修造がいなくなるし緑を独り占めできるし。

「行ってきなさい。用が済んだらすぐ帰ってこいよ」

「はい」

修造は言うが早いか長野駅で借りたレンタカーのキーを握った。

「律子ごめんね」

ふふ。良いわよ修造。

どうせ行っちゃうんだから。

あなたはパンの事になるといてもたってもいられないのよ。

「気をつけてね、戻ったら話したい事があるの」

「うん」

律子は修造の背中を見送った。

ーーーー

修造は長野駅に着いてすぐ那須田の店に電話をした。

「今から行って良いですか?テレビに出たばかりでお忙しいでしょうからお手伝いします」

「ありがたいなあ修造君。じゃあ頼むよ」

話は早い。

テレビに出たその日から店が賑わうのを修造もパンロンドで経験済みだった。

長野駅から北陸新幹線はくたかに乗り、二十二分で上越妙高駅だ。

南側ロータリーのイベント広場にある上杉謙信の像を横目に修造は急いだ。

ブーランジェリータカユキは駅から近い立地で、広い敷地に郊外向けのレンガ作りの建物が建っている。すでにパンを求める人達の行列が出来ていた。

修造君久しぶりだね」

「那須田シェフ、すみません急に。俺、テレビを見てていてもたってもいられなくて来ました」

那須田は笑いながらエプロンと帽子を修造に渡し、冷蔵庫を指差して「ここの生地の折り込みを頼むよ」と言った。

折り込みとはクロワッサンやデニッシュの生地でバターを挟んで、パイローラーで伸ばす作業の事だ。冷蔵庫で生地を冷やし、バターと同じ温度で折り込む。そして再び冷蔵庫で寝かせた生地を反物の様にパイローラーで伸ばして切って成形する。

「初めに少し見本を見せて貰えますか」

「そうだよね」

と言って那須田はキッチリと美しい折り込みをしてみせた。

チャンスは少ない、修造はじっと見ていた。

そのあとは折り込みをしながらずっと那須田の成形を見ていた。

よその店は勉強になる。

いつもとは全然違うみんなの動き。

全部覚えておかなきゃ。

「修造君、少し休憩しようか」

「はい」

那須田はコーヒーを入れて、出来立てのクロワッサンを持ってきた。

「味見しろよ」

さすが那須田のクロワッサンは巻きの美しさが秀いでている。

噛む前から良い香りに包まれ、パリパリと薄皮が剥がれて落ちた。

噛むとジュワッと口の中に小麦とバターの味が広がる。

美味いの極地だ.。

「ルヴァンですね」

「そう、うちのクロワッサンは材料にも拘ってるんだよ。塩とバターはフランス産。種はルヴァン。粉は国産なんだ。他は妥協できても商品への妥協は許されない」

「凄い」

修造は人でごった返す店の隙間から棚のパンを垣間見た。

補充しても補充しても無くなっていく。

「本当はうちにはクロワッサンを教わりにきたんだろ?なんでも聞いてくれよ」

「実はそうなんです。俺にあのクロワッサンの成形とカットを教えて下さい」

「君。選考会に出ようとしてるんだろ?」

「なんで知ってんですか?」

「なんでも耳に入ってくるのさ、この業界にいるとな」

那須田は自分のパンを見ながら言った。

「今日、夜中まで延々と仕事があるんだ。ちゃんとやってくれないと俺が教えたのに落ちちゃったらたらカッコ悪いからなあ」

「だから真剣にやってくれ!」

「はい!」

ーーーー

一方高梨家では。

「なに!今日帰らないだと!あいつめどこで何やってるんだ」

厳が激昂していた。

容子は「ちょっと!居間にいる緑に聞こえるからやめてよ」と小声でなだめた。

「大丈夫よ何も心配要らないわ。修造は今頃パンの成形をしてるのよ」律子も厳に言った。

「わかるもんか」

「いいえ、分かるわ。あの人の目を見たら」

私だけを愛してくれてるかどうか私にだけは分かるの。

「律子、、」

厳はシュンとした。

律子は俺の可愛い娘だったのにいつのまにかあいつが現れて散々苦労させた、なのに凄く心が結びついている。一体あんな男のどこが良いんだ。

「私、どこまでも修造と一緒に行くから」

「またどこかに行くのか?」

「ええ、そのうち修造と店を持つの。約束したもの」

「どこに?松本か?」

「修造の実家よ」

「あんな山奥に!」

厳は行った事ないがその子にグーグルアースを見せてもらって驚いた事を思い出した。

山以外何もない。

巌だって山の上で農家をしているが、この場合は集客が出来るのかと心配しているのだ。

「あんな所誰もくるわけないだろう?山のてっぺんじゃないか」

「来るわよ。色んな人が修造のパンを求めて来るの」

律子は自信満々で言った。

「あなた、律子はもう修造さんの奥さんなのよ」

律子が強い口調で言うので二人の対立が深まらない様に容子が火消しにかかった。

「二人で決めたんなら仕方ないじゃない」

「うーん」二体一になったので部が悪い。

厳はうめいてから緑のいる部屋に移動してしまった。

「緑ちゃん学校は楽しい?」

「うん!おじいちゃん、楽しいよ。聞いて、私空手が八級になったのよ。お父さんと行ってるの」

「へえ、凄いね。おじいちゃんにも見せてよ」

「良いわよ」緑は平安二段をしてみせた。

なかなか決まっている。

厳は拍手をして緑を褒めちぎった。

「お父さんはもっと上手いのよ」

「、、、」またあいつの話か

「お父さんとお母さんは仲良しなの?」

「うん、お父さんもお母さんも楽しそう」

「ふーん」

容子もああ言ってるし、ちょっとは認めてやるか。。

娘の幸せが大前提なんだ。。。

厳は少し気が変わってきた。

「今日はおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に寝ようね」

「うん」

その頃ブーランジェリータカユキでは。

伸ばした生地に色の付いた生地を重ねてカッターでカットする所を見せて貰っていた。表面の部分だけをカットして巻くと、焼成後その編み目が鮮やかに出る。

修造は、那須田の手捌きを見つめながら「なんて精巧なんだ、神だなこの人」と思っていた。

「練習しかないよ修造君」

「俺、那須田さんと知り合いになれて良かったです」

「嬉しいなあ。なんでも聞いてよ」

「はい、もっと色々教えて下さいよ」

「はいはい、ひとつひとつ教えるから成形は任せたよ」

「はい」

いや~那須田シェフの手元をよく見られるし来て良かったなぁ!

律子ありがとう!本当に素晴らしい妻だよ。俺、感謝しかないよ。

修造はひとつひとつ丁寧に生地の表面に切り込みを入れていった。

そしてクロワッサン、バイカラークロワッサン、パンオショコラと朝方まで次々に仕上げていった。

きっと明日の朝もブーランジェリータカユキには行列ができて、開店と同時に沢山の人が入ってきてこのパンを買うかもしれない。

人の店に来て変な成形のパンを売らせるわけにはいかない。

修造はひとつひとつのクロワッサンを素早く丁寧に仕上げていった。

翌朝、沢山のお客さんで溢れ返る店内を見ながら修造は感無量だった。

成形したクロワッサンも次々にお客さんがトングでソーっとトレーに乗せてレジへと運ばれて行く。

「良いもんだなあ」

ところが

帰る時になって、修造は段々表情が暗くなってきた。

「修造君、どうしたんだ疲れたのか?帰りの新幹線では東京駅までゆっくり休んでくれよ」

「俺、実は長野にある嫁の実家から来てるんです。それで戻ったらなんて言い訳しようかと」

「そりゃあ気を使うね」

「はい」

「言い訳ってね、婿が意識高くスキルアップしてるのにそんな事する必要あるのかなあ。そうだ、誰が見てもわかりやすい説明あるだろ?使用前使用後じゃないけど、論より証拠って事だよ」と言って那須田はお土産のパンとは別に、二種類のクロワッサンをそれぞれ別の箱に入れて渡した。

「正直に本心を言えば良いんだよ」

一方高梨家では

「遅い!あいつは何をしてるんだ!?」

厳は昨日の夜一旦軟化したにも関わらず、修造が朝になっても帰らないのでまた腹が立ってきた。

「もう戻らなくて良い!あいつには俺からそう言っておく」

「何勝手な事言ってるの?そんなんだから普段から中々帰って来る気になれないのよ」

「うっ」それは困る。

「修造は私達が帰ろうと思った時に戻って来るわよ」

「なんでわかるんだそんな事」

そう言ってると玄関の向こう側からエンジンの音が聞こえた。

「修造だわ」

律子がすぐに玄関にむかったので厳も急いだ。

一喝してやろうと思ってたのに先を越される。

なので

「修造おかえり」と

「どこ行ってたんだこんな時間まで」

が同時に修造に発せられた。

「律子ただいま、すみませんお父さん。俺、見て欲しいものがあるんです」

修造は居間のテーブルにクロワッサンを置いた。

「これ、俺が昨日ブーランジェリータカユキに着いた時にやってたものです。そしてこっちが特訓後です」

特訓前は綺麗なクロワッサンだったが、特訓後はさらに美しくなっていた。

「あら、綺麗だわ」容子が感心して見ている。

「どう違うんだこれ、食ったら同じだろうが」

厳が違いがわからない様だったので、律子が生地とバターの間の間隔の美しさについて説明した。

ほらここを見て、層が綺麗に出てるでしょ」と言われて厳は老眼鏡を持ってきてよーく見た。言われてみれば層が少し綺麗な気がする。

「ふーん、これの特訓に行ってたのか?」

「はい」

厳はおそらく凄いのであろうクロワッサンをジーッと見た。

「素材に関しても教えて頂きました。選考会頑張れよって言ってました」

修造はパンナイフでクロワッサンの頂点から下に向かってカットして断面を見せた。

理想通りの巻きだ。

修造の凛とした表情を見て、これが律子の言う「色んな人が修造のパンを求めて来る」理由なのか。

俺にはわからんがきっとこいつ凄い奴なんだな。

得心がいったのか、厳の表情は少し緩和された。

「俺、父親の事を知らなくて育ったんです。母親もあまり家にいなくて。なので世間ずれしていて、お父さんにどう接していいのかわからなくて、、ドイツから戻ったのに挨拶が遅れてすみませんでした」

修造は頭を下げた。

そうだったのか、なんも喋らん無愛想な奴と思ってたが、孤独な育ち方をしたんだな。。

律子は厳の表情が急に変わったのをつぶさに見ていた。

「あのね、みんな聞いて。私、二人目が出来たの。緑はお姉ちゃんになるのよ」

「ほんと?律子」修造の目が輝いた。

「一番に言わなくてごめんね」

その時、修造と厳は目を見合わせて、お互いの喜びを確認してしていた。

おわり

このお話は2022年01月24日(月)にパン屋のグロワールのブログに投稿した物です。

21パン職人の修造 江川と修造シリーズ Sourdough Scoring 江川

パン職人の修造 江川と修造シリーズ Sourdough Scoring 江川

「あっ鷲羽君と園部君!」

ベッカライホルスの別室に入るなり江川は叫んだ。

一次審査への練習もそろそろ仕上がってきた頃、いつもの様に修造と江川はホルスにやって来ていた。

入ってきた二人をオーナーシェフの大木、二十歳で同期の鷲羽と園部が見ていた。

「どうも」修造が三人に挨拶した。

「修造さん!おはようございます」鷲羽は憧れの修造に一歩近づけて、嬉しさのあまり目を爛々と輝かせている。

大木が説明し出した。

「今日から一緒に練習する事になったからな。狭いけど協力しあってできる様に無理のないスケジュールを三人で組めよ。修造は第一審査用のレシピを書いて見せろよ、詳細はここに書いてあるからな」

「はい」

修造は大木がダウンロードした審査の詳細を受け取った。そこには出品する種類毎の細かい決まりが書いてある。

修造は早速奥の事務机と椅子が置くいてあるところに行き、座ってじっくり読み出した。

「お前達三人は今日はカンパーニュを作るんだ。発酵種はうちのを使って良い。生地の具合、発酵、スコーリング、焼成のできをみる。空いた時間があったらそれぞれ工房に行って成形を手伝って来い」

「はい」

「では始めて」

江川は焦った。まだ練習中の事を鷲羽と園部の前でやるなんて!

失敗したら再びもう来なくて良いと言われそうだ。

鷲羽は大木と憧れの修造の手前、笑顔を作って「協力しながらやろうね、江川君」と言ったがとても本心からとは思えない。

顔が引き攣ったまま「うん」と言った。

その時大木に電話がかかってきた。

「あいつからだ」

大木は小声で言いながら別室から外に出て、修造達に聞こえない様に電話した。

「あぁ、言われた通りにしたよ。三人とも顔が引き攣ってるよ。うんうん、そう。揉め事が起こるんじゃないのか?別々に練習した方がいいだろ?」大木は室内を除いて、また隠れる様に話し出した。

「何?これで全員爆上がりになるって?特にあの若い子が?お前は相変わらずだなぁ。まあ、こっちも職人達の技術が上がって良いよ。そっちはどうなんだ、随分仕上がって来たって?こっちも負けてられないからな。はいはい、じゃあまたな」

あの三人にハッパをかけてドーンだな!あいつめ。

大木はフフフと笑った。

大木が指示を出したスコーリングとは本来は歯車などの損傷に関する言葉だが、この場合は発酵した生地にカミソリの刃を入れる作業(クープ)のことで、さまざまな模様がカミソリひとつで作れる。

三人はじゃんけんでミキサーの順番を決めて、勝った江川が初めに生地を練り始めた。

生地を作り発酵させて成形、そしてそれをバヌトン(発酵カゴ)に入れる。

「誰が誰のか間違えない様にな。それぞれ自分の生地にスコーリングしてみろ。窯は三段あるから一段ずつ使えよ」

「はい」

江川と二人が牽制しあって作業してる間、修造は椅子に座ってどんなパンにするか考えていた。

それはこんな風だった。

選考会ではバゲット、ヴィエノワズリー、タルティーヌ、パンスペシオ、飾りパンがあるんだ。

修造はその五種類を紙に書き出してペンで机をトントンと叩いた。

バゲットはパキッとエッジの効いたものにしたい。パンスペシオは味わいを大切に。

ヴィエノワズリーは色合いと種類に気を使いたいな。飾りパンは他にない、見たことのない形にしつつ、日本の文化的なものを取り入れたい。

今日は形はともかく生地の配合を考えよう。

選考会までの審査は日本人のシェフがやるんだからあまりライ麦重視に走らない方がいいだろうか。それに前回までの傾向もあるし。そこもよく考えておかないと。

大会ではヨーロッパの審査員が審査するんだから、向こうの生地も意識しつつ日本らしさを出していかなきゃならない。

そして生地のベースはよりナチュラルで、滋味に満ちた味わいのものだ。

よくよく考えて

最終的に修造はバゲットは国産小麦で起こしたルヴァン(発酵種)で、パンスペシオとタルティーヌはザワータイクを使って国産のライ麦の分量を調節して配合を書き始めた。

集中して配合を書き綴る修造の横では、いよいよ焼成の時間が来ていた。

一番の江川が生地をスリップピールに乗せてカットしていた。

スリップピールとは沢山の生地を窯に入れる時に使う業務用の道具で、布を張った板に生地を乗せてそのまま窯に入れ、窯の入り口に引っ掛けて引っぱり出すと布が回転して生地だけが窯に残る。

鷲羽が江川の手元を穴の開くほど見ている、そうなると緊張して、手が震えてきた。

江川は震える刃先で生地に少し強引にグイグイと真ん中に筋目を入れた。

負けるのは嫌だ、だがそう思うと余計に手が震える。

江川が窯にパンを入れたあと、鷲羽が自分の生地を並べてカットし出した。

自分と比べて刃の滑りがいいように思える。

鷲羽は長い指先で器用に6種類の基本的なスコーリングを展開した。

そして園部も。

焼成後、大木が並べられた三人のカンパーニュを審査した。

「江川、カットがガタガタじゃないか。引っ張りながらカットしたらこうなるから次から気をつけろよ。」

「はい」

鷲羽はうっすら笑いながら江川をまた穴の開くほどじっと見た。

威嚇か!江川の顔の辺りに視線が粘りついて鬱陶しい。

大木は鷲羽と園部のものには「うん、少しぎこちないところもあるがまあ良いだろう」

江川は二人のカットをマジマジと見た。

二人との実力の差が激しい。

大木がカットして三人のパンをそれぞれに試食させた。

断面を見せて「江川、断面の気泡に偏りがある、成形の時に絞め過ぎるなよ」

そして「うん、味も悪くないだろう。これが一番気泡がいい感じだね」と鷲羽のパンを指した。

「ありがとうございます」

「次の時もう一度やるから次回までに三人とも練習してこいよ」

大木の指示に三人が返事した「はい」

「江川君、次も頑張ろうね」鷲羽はまるで大根役者の様な大袈裟でわざとらしい言い方で言った。

その夜、江川はベッドに入ったが、疲れているのに頭の中に鷲羽の視線がこびりついて眠れなかった。

ーーーー

次の日の朝

杉本が出勤してきてみんなに挨拶した。

「おはようございまーす」

「いつも元気だな」

「藤岡さんおはようございます〜」

「おはよう、最近顔色も良いしなんか顔つきも変わってきたよね」

「俺ですかあ?俺今充実してるんで」

「へぇ、仕事に愛に的な?」

「俺、この中で一番幸せなんで!」

「はあ?まあ本人がそういうんだからある意味幸せで仕方ないよね」

そう言って杉本のお腹あたりを指して

「そういえば腹の当たりも福々しくなってきたよね、幸せ太りかな?」

「気のせいですよ!」

そう言われて杉本がお腹の周りを見せない様に手で隠した。

その時、後ろでガッシャーンと音がした。

「あっ!江川!」修造が慌てた声を出した。

「親方!!江川さんが倒れました!」杉本が大きい声で親方を呼んだ。

「なに〜!!」親方は飛んできて江川をひょいっと車に担ぎ込んで病院に素早く行ってしまった。

江川は倒れてしまった。

修造は自分が江川に無理をさせたと思い後悔していた。

九時頃

杉本はパンに使うローズマリーを計って小さなボールに入れ棚の上に置いたが、置き方が悪く丁度修造が通りかかった時に裏返って頭の上に落ちた

カポッ!

「あっ!」杉本は背中に三筋ほどの冷や汗を垂らした「すみません修造さん!」

修造はいいよいいよのジェスチャーをしてコック帽と頭や肩についたローズマリーを払っていた。

その時親方が病院から戻ってきた。

「過労だろうってさ。病院のベッドが空いてたんでめまいが治るまで検査して入院することになったよ」

「俺、後で見舞いに行ってきます」

「うん、頼んだよ修造」

仕事終わり、五階建ての東南中央病院に来た。

江川の病室は四階の四人部屋で比較的軽症の患者が集められていた。

病室の入り口横のベッドで寝ている江川の顔を見ながら、これから先も無理をさせるだろう。でも絶対やめるって言わないだろうなと思っていた。

薄暗い病室で江川の顔を眺めてるうちに修造も疲れが出て眠くなってきた。

うとうとして江川の布団の縁で居眠りを始めてしまったが、そのことは全く知らないで寝ている江川はこんな夢を見ていた。

あ、草だ、、草原の草がザワザワと風になびいている。太陽の匂いと草花のいい匂いがする。

広がる草原、遠くに見える山々が美しく空は青い。江川は草の間を走っていた。

それは小さい頃故郷で見た景色だった。

と思っていたが、実は修造の頭にかかったローズマリーの香りがそうさせていた。

「はっ」

江川の声で修造も目が覚めた。

「おぉ、江川、具合どお?」

「僕、いい事を思いつきました。スコーリングの柄を」そう言って立ち上がろうとした。

「おい、まだ休んでろよ」

「もう治りました」

「何言ってんだ」

修造が江川をベットに戻そうとしていると、そこへ女の人が荷物と花を持ってやってきた。

「卓也、調子はどう?」

「あ、姉さん」

江川ってお姉さんがいたのか。自分のこと何も話さないから知らなかったな。江川より少し年上ぐらいかな?

「修造さん、美春って言います」

身体のでかい修造はベット周りが急に狭くなったので「じゃあ俺帰ります」と江川に目で挨拶して病室を出た。

すると美春が追いかけてきた。

「あの」

「はい」

「弟は高校生の時、三ヶ月ほど不登校だったんです。なのに急にパンロンドに面接に行って働くと決めてきた時は驚いて、随分心配したんです。でも修造さんと約束したからと言って学校にも真面目に行きだしたし、ちゃんと卒業してホッとしました。あの子が変わったのは修造さんのおかげだと思っています」

そうだった、あの時俺が面接して就職が決まった時、あいつすぐ来るって言ったから、学校は卒業する様に言ったんだ。

「電話でも修造さんの話ばかりしているから、私も初めて会った気がしません」

「そうだったんですね、実は俺、江川に会ってから随分変わりました。仕事中何も話さない事が多かったけど。毎日あいつと話ししてるうちに口数も増えてきた。江川と一緒にいると楽しいですよ」

「良かった、本当に。卓也も明るくなったって母も喜んでいます」

美春は嬉しそうに笑った。

「そりゃ良かった」

「あの子、以前は寂しかったんだと思います、父と母は別れてしまって」

「そうだったんですね」

「父親はあまり家にいない人でした。卓也はそんな父親に懐いてなかったんです。反抗ばかりしていました」

「え!あの江川が反抗?想像つかないなあ」

「笑うことなんてあまりなかったわ」

信じられない。

あんなに明るいやつなのに、、、

「俺、謝らなきゃいけない事があるんです。入院したのは俺のせいなんです。休みの日はよその店に修行に行っていて、そこでもライバルがいて気が抜けない。体力が持たなかったんです」

「それ、あの子がやりたくてやってる事でしょう?私から無理しないように言ってはおきますが、元々頑固だから多分聞かないわ」

美春は頭を下げた。

「きっと修造さんと一緒にいたいんだと思います。これからも卓也をよろしくお願いします」

「こちらこそ」と修造も美春に頭を下げて長い廊下を歩き出した。

美春はその背中を見つめながら「本当に初めて会った気がしないわ」と呟いた。

エレベーターに乗りながら修造は考えていた。

反抗的で不登校の江川か、そんなところ全然見た事ないなあ。一生懸命でいつも明るいやつなのに。

きっと俺と江川は良い相性なんだろう。安定してお互いを良い方に高めていけるようになってるんだ。

本当はこの調子で大会まで持っていきたいけど、もう無理はさせないようにしなきゃ。

ーーーー

江川は二日後退院してパンロンドに戻ってきた。

みんなが江川を取り囲んで声をかけた。

「おっ!江川!大丈夫なのか?もう治った?」

「親方、すみません休んじゃって」

「お前の分は修造が頑張ってくれたよ」

「修造さん、すみません」

「江川、これから辛くなったら言ってくれよ」

「はい」

はいと言ったが、江川の頭の中はライバル鷲羽との対決で頭がいっぱいだった。

その鷲羽と園部は二人でスコーリングのデザインを研究したり、先輩の生地作りや技を穴が開くほど見たりして、次に江川が来る時に備えていた。

パンロンドでは、江川はスコーリングの練習をみて貰いながら鷲羽の視線を思い出してイライラしていた。

「江川、怒りながらじゃちゃんとしたスコーリングはできないよ。ギューギュー引っ張るんじゃない」

「すみません、つい力が入っちゃいました」

鷲羽が頭をよぎる

指先がブレる。

落ち着いて落ち着いて、自分の思い描いたラインにカミソリを繊細に入れていくんだ。

「強弱を考えて。

同じラインは同じ深さと速度に気をつけて」

「はい」

「ほら、これをあげるよ」

江川は修造が使っていた二種類のカミソリのホルダーと新しいカミソリの両刃を受け取った。

それは当たり前の形でどこにでも売っているかも知れないが、江川にとって特別貴重なものの様に感じた。

修造さんのホルダー!

これ僕の宝物になると思うな。

江川はホルダーを持ってパン生地に刃を入れた。

嘘の様に気持ちよくスッと刃が通る。不思議なほど指先の震えがおさまった。

「絶対負けない。ぼく頑張ります」

江川は病院で夢に出てきた情景を忘れないように生地に刻んだ。

「おっ!これ凄いじゃないか」

修造に褒められて江川はストレスが吹き飛んだ様な気がした。

ーーーー

そしてまたホルツに行く日がやってきた。

今日は修造も加わって四人でスケジュールを組み、仕込み、成形、スコーリング、焼成を行う。生地の発酵中はホルツの職人に混じって成形を手伝ったが、皆修造に色々話を聞きたかったようで話しかける者が次々現れた。

さて、スコーリングの時間がやって来た。

修造が一番にスリップピールに生地を六つ並べてそのうちの三つに持ってきたステンシルを生地に貼り付けたあと、粉を振って剥がした。ステンシルの後が綺麗に残り、そこにひと筋カミソリを入れる。

三人はそれを見ながらどんな風になるのかワクワクした。それを3種類やった後、残りの3つはカミソリのみで素早くカットを入れていった。

修造の窯入れを見た後、江川の番がやってきた。

江川も六つの生地をバヌトンを裏返して並べ、粉を振りかけていき、修造に貰ったホルダーに新しいカミソリを付けたものを滑らせた。滑らかな指の動きで理想の柄をつける事ができた。

実際に焼けてみないと出来栄えは分からないが、江川の動き自体が前とちがう事に鷲羽は焦りを感じていた。

以前編み込みパンで負けた時の事を思い出したのだ。

鷲羽も順番が来て、先輩や、今見た修造の動きを思い出しながらカミソリを入れた。なるべく同じペースを守りイメージ通りのものを意識した。江川には絶対負けたくない!何か意地の様なものが表情に出ていた。

園部はあまり二人の争いには引っかからない様にフラットな気持ちで基本に忠実にカミソリを入れた。

焼成後

四人はそれぞれのパンを並べて前に立った。

大木はひとつひとつをしげしげ見て心の中で思っていた。

うーん前回に比べると飛躍的に伸びてるな。半端ねぇ。いい刺激になるんだろうよ。昔ホテルのベーカリーで働いてた時、あいつと佐久間と鳥井とでよく練習したもんだ。懐かしいなあ。

修造のは繊細で表現力は文句ない。

江川はよく仕上げてきたものだ、修造とはまた違う繊細なカットで表現できている。

鷲羽は基本に忠実だし、園部は力強い。

「よし、良いだろう。次は全員真ん中でカットして見せてくれ」

「はい」

皆、パンナイフで真ん中をカットして大木に見せた。

「うん、修造はまず悪いところはないだろう、この調子で審査まで持っていけよ。申請書もよく書けてた。あとは飾りパンのデザイン画を描いて持って来いよ」

「はい」

「江川はスコーリングは格段にマシになってる。まだ断面の所々気泡が詰まってるから気をつけろ」「はい、気をつけます」

「鷲羽と園部は先輩のをよく見て勉強していたらしいな、その調子で練習していけ」

「はい」

鷲羽は江川のスコーリングを一つ一つ見て行った。綺麗だな。クソっ!あいついつも課題をめちゃくちゃ練習して来てる。こいつに勝てる様になんとか俺も上に立たないと。

鷲羽は江川と目があった。

そのままお互いジーッと見ていたその時。

「おい鷲羽」

「はい!」

鷲羽は初めて憧れの修造に声をかけられたので驚いて姿勢がどんどん真っ直ぐになっていった。こういうのを『直立不動』と言う見本の様になった。少し顔が赤くなってきた。

「美味いパンって言うのはいつも食べられる当たり前の存在であってほしいと俺は思ってる。だから天候や気温に合わせて種や生地の面倒を見て良い状態で焼成まで持っていく、そうすると美味いものができるんだ」

「はい」

「お前は江川の事をライバルで、戦わなきゃならないと思ってるのかもしれないが、お前がこれから戦うのは自分自身なんだ。お前の作ったものを選んで食べてもらう為にな。それは必ず美味いものでないといけない。形だけ勝っても意味はないんだ」

江川はそれを聞いて鷲羽に悟られない様に心の中で反省した。自分も形だけにとらわれていた。

なんとか上手くつくろって鷲羽に打ち勝とうと。

僕は僕自身にこれからも打ち勝って行かなきゃならない。

「誰が見ても美しく、誰が食べても美味しいもの。世界大会ってその頂点なんだよ。それが俺たちが目指してるものなんだ。その為に練習してるんだろ?」

鷲羽はさっきとは大違いの姿勢で項垂れて修造の言葉を聞いていた。なんなら縮んでいきそうだった。

自分自身!

鷲羽は自己愛が強い反面、自分が他人からよく思われてないことが多いのも分かっていた。不遜で傲慢なので女性社員からはことごとく嫌われて告げ口もされる。先輩も自分の事を可愛いとは思っていない。職場では皆に当たらず触らずにされている。気の合うのは園部だけだった。

修造に可愛がられている江川を見ただけで腹が立つ。

「なんとか努力します」

そう言ったものの、修造の言葉通りにできる気がしない。

まだまだ長い道のりを考えて気が遠くなりそうだった。

そこへ、滅多に喋らない園部が鷲羽に言った「さっきのって、江川への敵対心のボルテージをなんとか自分自身のパンへの熱量に変えろ、そう言う意味なんだな」

「ああ、できるかな俺に」

鷲羽は自分のパンを見ながらその遠くにある自分の十ヶ月後の姿を見ていた。

帰りの電車の中

「江川、疲れたろ?体調はどうなんだ。大丈夫なのか?」

「はい、もう平気です。姉さんに聞きました。修造さんが僕と出会って口数が増えたし楽しいって言ってくれたんでしょ?」

「そ、そうだけど」修造は照れながら言った。

「だからお姉さんに言いました、世界大会に修造さんと出るから見ていてねって」

「へぇ、親方も楽しみにしてるって言ってたよ」

「そうなんですね、絶対絶対行きましょうね」

「うん」

二人の夢を乗せてというか

運行スケジュール通りに

電車は東南駅に向かって行った。

おわり

このお話は2022年01月07日(金)にパン屋のグロワールのブログに投稿した物です。

20パン職人の修造 江川と修造シリーズ ジャストクリスマス

パン職人の修造 江川と修造シリーズ ジャストクリスマス

11月の終わり頃

パンロンドでは何度目かのシュトレンを大量に作っていた。

シュトレンはドイツが発祥で、スパイスやフルーツを大量に使ったパン菓子の事だ。

「うちは折り畳んで直焼きにするけど、型に入れる店も多いんだよ」修造は江川と杉本に、シュトレンを手成形しながら言った。

「はい、以前僕たちが漬け込んだフルーツに洋酒が染み込んで、熟成してここに使われているんですね」江川が感激して言った。

「そうそう」

お店では、親方の奥さんがアドベントカレンダーを出してきて、風花に見せながら

「これね、アドベントカレンダーって言うのよ。毎日この小さな窓を開けていくのよ。そしてクリスマスを心待ちにするの」

「わあ〜可愛い!丁度開け終わったらクリスマスなんですね。ロマンチックだわあ」

お店から聞こえて来る風花達の声に耳をそばだてながら「アドベントって何ですかあ?」

と杉本が修造に聞いた。

「アドベントってキリスト教西方教会でイエスキリストの降誕を待ち望む期間のことなんだよ。待降節、降臨節とか色んな呼び方があるみたいだけど。クリスマスの24日から逆算して日曜日が4回入る様に数えるんだ。」

「はー」

「例えば12月24日が金曜日の場合、12月1日からだと3回しか日曜日がないから4回になる様に11月28日の日曜日から始まるんだ。そして4本の蝋燭を用意して、毎週日曜日になると一本ずつ蝋燭を灯してお祈りしたり、Mutter(お母さん)の焼いたクッキーやシュトレンを食べるんだ」

「へー」

「ドイツにいた時は11月になると夜から昼までヘフリンガーで大量にシュトレンを作って、そのあとこっそり近所のケーキ屋にバイトに行ってそこで夜までシュトレンを作ってたな。2時間ぐらいしか寝てないからうとうとして先輩に麺棒で頭を小突かれたっけ


「小突かれるなんて切ない思い出ですね」江川がそれを聞いて涙目で言った。

「家族に仕送りを捻出したんだよ」

「大変だったんだ」心優しい江川が泣き出した。

「江川、大丈夫だよ。いい経験になったし、そういうのが俺の宝物なんだ」

そうだ。帰ったら緑にアドベントカレンダーを作ってあげようかな。

毎日お菓子を袋や扉から開けて出すなんて楽しいだろうな。

修造は緑の愛くるしい笑顔を思い出してうっとりした。

その横で「クリスマスかあ。あ〜俺、プレゼント何にしようかなあ」杉本が悩ましい声を出した。

「風花にだろ?」藤岡が返事した。

「そうです」

「趣味が違うの貰ったら嫌だろうから本人に聞いたら?」

「それもそうだけど直接聞くのもムードないなあ。。そうだ!いつも同じ職場にいるんだから俺の勘で当ててみますよ」

「ああ、例の鋭い勘でね」

「ははは」杉本は笑って誤魔化した。

12月の始め

田所家では

「ねぇおかあさ〜ん」

「何よ緑ったら猫撫で声を出して」

「あのね、サンタさんにね、プリムラローズのお化粧セットをプレゼントして欲しいの」

プリムラローズとは今大人気のアニメで、何人かの少女が色んな色のコスチュームで戦うあれだ。

主人公の赤とピンクの服を着てる子は赤色の口紅を塗ると変身して敵と戦う。

お化粧セットとは口紅、ミラー、戦う時に持つ魔法のロッドの事だ。

「じゃあお母さんからサンタさんにお願いしておくわね」

「ほんと?やったぁ」

緑にはどういうシステムかわからないがお母さんに頼めばなんとかなる。

本当は律子の実家の両親に電話をして前もって送ってきて貰うシステムなのだが、そのサンタ達は孫の喜ぶ顔見たさにそろそろ自分たちからだと言いたい。

緑はテディベアはサンタさんからのもう一つの贈り物と思っていたが、一度修造がお土産として渡したので少しだけ疑念を抱いている。

その民族衣装を着たテディベアは本当は修造がドイツからクリスマス前に送っていたものだが内緒だ。

ーーーー

クリスマスは大好きな人と過ごしたい。

風花が大量のシュトレンを包む時にエージレスを入れるのを、早めに仕事が終わった杉本が手伝っていた。

エージレスとは、ソフトなしっとり系の焼き菓子などに入ってる小さな脱酸素剤のことで、空気に触れれば触れるほど効力がなくなるので素早くお菓子の袋に入れて閉じなければならない。

なので二人で力を合わせてやると早くできる。

「あのさあ風花」機械で袋を留めながら杉本がそれとなく言った。

「なに」

「、、、俺達クリスマスも仕事だね」

「定休日じゃないって事だけでしょう?当たり前じゃない」

こんなにサバサバと言われてどうプレゼントの話に持っていったらいいのやら杉本は困った。

「ほら早く閉じてよ、エージレスの効果がなくなるでしょう!」

「はいはい」

2人はしばらく黙って作業していたが、急に風花が

「最近ぐんと寒くなったじゃない?」と切り出した。

「うん、朝もここに来る時寒いな」

「、、あったかいものが欲しいなあ」

「缶コーヒー買ってきてやろうか?」

「、、、」

風花は下を向いて黙々と仕事をし始めた。

それを聞いていた藤岡が呟いた。

「勘が鈍いのも見ていて辛いな」

ーーーー

12月のはじめ

夕方職人達が帰った後、修造はヘクセンハウスを作り出した。

パーツは作ってあったので、Puder-Zucker(粉砂糖)でアイシングを作り、家の形に組み立てて飾りを付けていた。

「修造、まだ帰らないのか?」配達から帰った親方が聞いた。

「親方、これ作ったら帰ります」

「すまんな、これ。パンロンドの売上あげる為だろ?」

「俺、勝手させて貰ってるのでこのぐらいさせて下さい」

「俺もやるよ」

「はい」

「どうだい?ホルツの修行は」

「はい、大会を見越して練習しています。まだまだ未完成な事ばかりですが」

「江川はどう?」

「頑張ってますよ。着実に進歩しています」

「俺、修造が大会に出たところ想像したらゾクゾクするなあ。楽しみだよ」

「そうなる様に頑張ります」

修造は砂糖菓子のサンタをハウスの前につけながら言った。

「これからみんなにドイツパンを教えて、お客さんにもっと来て貰おうと思ってるんです」

「美味いもんな、お前のブレッツェル」

「それしか恩返しの方法がわからないんです。今の俺があるのは親方のおかげなんで」

こっちこそ感謝してるぜ修造、こうやってお前と仕事できるのも限りがあるんだ、寂しいけど俺はお前を心から応援してるぜ。

「親方、泣いてるんですか?」

「いいやあくびしたんだよ、守っていくよお前が残してくれたものを」

親方の小さな瞳にキラッと光る水分が滲んでいた。

ーーーー

次の日

藤岡と杉本は一緒にクロワッサンの成形をしていた。

藤岡が杉本に話しかけた。

「あのな」

「なんすか?」

「あったかいものにも色々あるんだよ」

藤岡は整った顔立ちをちょっと近づけて言った。

「はあ」

「例えば?缶コーヒー以外に」藤岡は答えを促した。

「え?俺の心的な?」杉本は自分のハートを指差して言った。

「まあ勿論それもあるけどね。。寒いからあったかいものが欲しいって事だよ。。俺優しいから答えを言っちゃったよ」

「勘が鋭どいんですね」

「俺はね」

え?

あったかいものをとりあえずプレゼントすりゃいいんだな?

あったかいものそれは、、おれ、缶コーヒーとカイロしか思い当たらない!

12月中頃

杉本は早番だった。

実家暮らしの杉本の2階の六畳の部屋

ベッド脇の小さなテーブルの上で朝3時半に目覚ましが鳴った。

杉本は手探りで目覚ましを止めてまた手を素早く布団の中にひっこめた。

部屋は冷え切って布団は暖かい。

「うーん起きたくねぇ」

布団の中でしばらく微睡んでいてなかなか出てこない。

「このまま寝ていても、ま、いいか」

すると突然頭の中に風花の怒鳴る姿がうつる。

「何してんのよ!早く起きなさい!」風花がもしここにいたらそう言うだろう。

「うわっ!」

杉本は飛び起きた。

「やべ!あと10分しかない!」

早く行かないとドゥコンディショナーというパンの機械のタイマーが作動して発酵のスイッチに切り替わる。するとパンが徐々に発酵し始める。他にもあれやこれや用はある。ついでに修造の厳しいまなざしも思い出した。

杉本は手早く着替えて家を飛び出し自転車に乗ると全力で漕ぎ出した。

「早く〜」

ピューピュー風が顔に吹き付ける。

「寒い」

と、その時「ちょちょ、君待って」

急に声をかけられて追いかけてきた姿を振り向いて見るとお巡りさんだった。

「職質だ!」

職質とは職務質問の事だ。

その若いお巡りさんは、自転車を降りて杉本の自転車の前輪の先を少し足で挟んだ。

まじかに見た制服がカッコいい。

逃げられないようにしてるのかと杉本が思っていると優しく話しかけて来た。

「君、何してるの?」

「今から仕事なんです」

「名前は?」

「杉本龍樹」

「住所は?」

「そこの青い屋根の家です」

杉本は元来た道のずーっと遠くに見える自分の家のシルエットを指さした。

「職場はどこなの?」

「ここからすぐのパン屋です。パンロンドって言います」

「ああ!あの髭のお兄さんのいる所?」

どうやら修造もよく声をかけられるのかお巡りさんも知ってる様だった。

「そうですそうです!あと1分で遅刻ですよ」

「そりゃ大変だ!気をつけてね」

お巡りさんは杉本の自転車から足をどけて横に移動した。

「はーい、お疲れ様でーす」笑顔を作ってお巡りさんに爽やかにそう言った後、自転車に乗って猛ダッシュで自転車を漕いだ。

「もう遅刻だよ」独り言を言い、杉本は凍えながらパンロンドにたどり着いた。

「おー!寒ーっ」

「確かに!あったかいものが欲しい!」

杉本は1人で声を強めた。

夕方

杉本は仕事が終わったので風花とヘクセンハウスを透明のケースに入れてリボン付きのシールを貼りつけていった。

「曲がってるわ!丁寧に付けないとお客様に選んで貰えないじゃない!」

「はいよ!風花。聞いてくれよ!俺、今朝職質されたんだよ」

「顔が怖かったからじゃない?」風花は笑いながらからかった。

「まあ、そうかもな。遅刻しそうで凄い顔で自転車乗ってたし」杉本はその時の必死な自分の顔を思い出して笑いながら言った。

「何時ごろなの?」

「4時ギリギリだったよ」

「えっ」

「10秒前だった」

「そんなに早く?」

「遅く、だよ。寒かったな」

「そうなのね」

風花は何か考えてる様だった。

また黙って包み始めた。

「何?急に」

「なんでもないよ。ねえ、疲れてるんじゃない?一人でやっておくよ」

「平気だよ俺若いし」

「私よりって事?」杉本より2歳年上の風花はちょっと口を尖らせて杉本を見た。

「そんな訳じゃないよ!」

勘の鈍い杉本もさすがにいくつでも歳の話はデリケートだなと思った。

ーーーー

クリスマス前は心がウキウキする。。

職場と学校から別々に家に帰って来た修造と緑は、一緒に手作りのアドベントカレンダーの袋を紐から外して中身を見た。

「今日はチョコレートクッキー!」

緑は中に入っていたキャンディ包みになったカフェーシュタンゲを2つ出した。ほろりとした食感の搾りだしクッキーでヌガーをサンドして両端にクーベルチュールチョコが付けてある。

修造の作ったアドベントカレンダーは小さな紙袋に1から24迄数字を書いて、紐を通して壁に貼り付けてある。

順番に毎日ひとつずつ外してお菓子を食べる楽しいものだ。

「はい、お父さんに一つあげる」

「優しいね、緑」

「お父さんにだけよ」

「ありがとう」

修造はチョコクッキーを緑と分けて、クリスマス前のひと時を楽しんでいた。

いいもんだなあ、こういうの。

チョコ以外にも甘い時間だった。

「緑はいい子だからサンタさん来るよね」

「ウフフ」

二人で見つめあってニッコリした。

緑はこたつの中の修造の足をこちょこちょした。

「くすぐったいよ緑」

「アハハ」

うわ!可愛い。

心から愛情が染み出す、緑の笑顔を見て温かな幸せを噛み締めた。

ーーーー

アドベント第4日曜日の次の日、あと何日かでクリスマスだ。

夕方、杉本と風花は2人で帰る所だった。

風花の家はパンロンドから近くて送っていくのもあっという間だ。

風花は以前カッター男に襲われたので、杉本は怪しい奴がいないか通りをチェックしていた。

商店街を歩きながら「年末って感じね」

2人は慌ただしく歩く街の人たちを見ていた。

「あれ?龍樹じゃん」

急に呼ばれて声のする方を見ると制服を着崩した派手な女子高生が立っていた。

「あ、結愛(ゆあ)」

「久しぶり!龍樹が高校急に辞めちゃって寂しかったんだからね」

結愛は杉本の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。

「行こう!」

「いや、行こうって、、」

杉本は風花の方を見た。

「どうぞ、ウチはすぐそこだからもう帰るね」

きっぱりとした口調で風花が言った。

ちょ、ちょっとぐらいあるでしょ?

誰よこの女とか、私の事どう思ってるの?とかないの?

さっさと行ってしまう風花の背中を見送った。

「結愛、今彼女と歩いてただろ?行こうってなんだよ」

「だってぇ、久しぶりだったしぃ」

結愛は腕を組んだまま右の足首をクネクネさせて口をとんがらせて杉本を見た。

「高校はどうなんだよ、もう高3だから進学か就職だろ?」

「ヘアメイクの専門学校に行くつもり」

「へぇ」

「ねぇ、さっきのと付き合ってんの?なんかおばさんっぽくない?」

杉本は風花がこれを聞いてなくて心からほっとした。先に帰っててくれて良かったかも。

「おばさんってなんだよ、俺よりずっとしっかりしてるだけなんだよ」

「龍樹は私といる方がお似合いだよ」

結愛はショーウィンドウに映った自分達を指差して「ほら」と言った。

確かに金色に髪を染めた杉本は、派手な出立ちの女子高生と釣り合いが取れているように見える。

杉本はガラスに映った自分の姿をマジマジと見ながら言った。

「結愛、俺がしっかりしてないだけなんだよ、俺は今。大人の世界に足を突っ込んでるんだ。パンの修行中なんだよ」

「パン屋で働いてんの?」

「そこでは俺をちゃんと導こうとしてる人しかいないんだ、どの人もどの人も」杉本はみんなの顔を思い出して「俺が頼りないだけなんだよ」と言った。「結愛、ヘアメイク頑張れよ、じゃあな」

ーーーー

次の日、江川と修造はパンロンドでバゲットを成形していた。

杉本と風花が一言も口を聞かないのを見て、「なんかあったのかなあ、風花さんは杉本君を見もしない、、、」と江川が言った。

「ケンカかな。ほら真っ直ぐに生地を置いて、よそ見するなよ」

「あ、はい」毎日の様に修造に成形を見てもらって江川は随分成形が上手くなった。

コンテストに出るなら一人で全てできなくてはならない。勿論今頃自分のライバルとなるべき職人もそうなる為に練習しているだろう。

まだまだ道のりは長い。

「明日からロールインをしてみよう」

「はい」

ロールインとはクロワッサンの生地を薄く伸ばしてシート状にしたバターを折り込んでいく作業の事だ。その作業の後、三角にカットして巻くといつものクロワッサンの形になる。

その時

「うん?」

「あれ?」

修造と江川は同時に顔を見合わせた。

「杉本!焦げ臭くない?」

「えっ?」杉本は慌ててパンを焼く窯の真ん中の扉を開けた。

「あーっ!」

みんなも「あっ!」と言った。

窯からモクモクと焦げくさい熱気が舞った。

窯の中のラスクが鉄板4枚とも真っ黒になっていた。

「やっちまったものはしょうがないよ」

親方が窯から真っ黒になったラスクを出した。

「親方すみません、上火150度のところ250度にしちゃいました」

「あるあるだな」

みなそれぞれうっかりパンを焦がした事があるので寛容だ。

今日は特に機嫌の悪い風花以外は、、

「あ、ごめんね。焦がしちゃった」

冷たい目で見てくる風花に言った。

「昨日遊びすぎたから頭がぼーっとしてるんじゃない?」

「あの後すぐ一人で帰ったよ」

「本当かしら!つまんないことばかり考えてるから失敗するのよ」

ちょっと自分でも驚くほど冷たく言い放ってしまった。

杉本はそれ以上声をかけなかった。

「風花」

「なんですか修造さん」

普段話しかけてくることのない修造が店にパンを盛ったカゴを持ってきて来て声をかけてきたので風花は驚いた。緊張して背中がピリッとする。

「あいつ、フワフワしてるいい加減な奴に見えて頑張るときは頑張るんだよ、こないだも犯人の自転車を1日探して突き止めた。あれって風花を思っての事だよ」

「わかってるんですけど、、、」

風花はパン棚の方を向いて持っていたトレーのパンを並べ出した。

修造は背中に向かって言った。

「素直になってやれよ」

帰り道、風花は暗い気持ちになっていた。

いつもギスギスしちゃうのは私のせいなんだわ。

冷たい口調で厳しい事ばかり言ってしまう。

私達合わないのかも、気持ちも見た目も。

商店街はクリスマスソングが鳴り、買い物客でいっぱいだった。

下を向いて歩いていると「おばさん」と昨日の女子高生とその友達らしき女の子四人が風花を取り囲んだ。

「おばさんってなによ!」

風花はイライラした。

「二つしか違わないのに!」

「私さぁ、昨日龍樹を見てびっくりしちゃったんだよね。前の龍樹とは全然違うくなってたし。高1の時の龍樹って喧嘩したり暴れたり物を壊したり。とうとう学校に来なくなっちゃって」

「ふーん」

「今は龍樹を導こうとする人しかいないとか言っちゃってさぁ」

「あんたもそうなの?おばさん」

「おばさんじゃないってば!」

「龍樹に言っといてよね、また遊ぼうって。ほら、私たちの方がしっくりくるよね」

「あんたとはさぁ」風花をジロジロ見て「違うよねなんか」

風花は言い返した。

「龍樹はだんだん変わってきたわ。初めはどうだったか知らないけど、何かに打ち込むってそういう事よ。私にもキレたことなんて一度もないわ。いつも優しくて助けてくれるもの」

それなのにいつもきつく言ってしまう。

これじゃあダメよね。

風花は心の中で反省した。

「朝だって超早く起きてるんだからね!あんた達なんて何も知らないじゃない」

最後にキツい口調で言った。

「私が一番知ってるの!二度と邪魔しないでね」

風花は4人の包囲を突き破り、歩幅を大きくしてそのまま駅の方にズンズン商店街を歩いて行った。

「結愛!、あんなおばさんほっといて行こう!」

「うん、、、」

龍樹は私達より先に大人になっちゃったんだ。

そう思いながら結愛はポケットに手を突っ込んでブラブラと元来た道を歩いて行った。

ーーーー

杉本はため息をつきながら東南駅の近くにできた巨大なショッピングモールに来ていた。

「今日失敗したし、風花は冷たいし、ついてねぇ」

俺、勘も鈍いそうだし。

今日の風花は一際キレ味が良かったな。

いつも俺の為に言ってくれてたのはわかってるけど、何回言われてもぬかに釘。

自分で言う事じゃないなあ。

「色々寒い」

杉本はそう言いながら店の中に入った。

「いらっしゃいませ、今日はどうなさいますか?」

「普通っぽくできますか?俺、心を入れ替えるんで」

「はい!心を入れ替える為に普通っぽく入りまーす」

まだ新しい建物の匂いのする店内で店員さんが言った。

杉本は用を済ませたあと、色々な店を回った。

「それにしても色んな店があるもんだ」

モールから外に出て歩いていると、風花が大きな広場のクリスマスツリーの周りにぐるりとおかれたベンチに座っている。

「あ、風花」

「あ」

「髪の色が茶色になってる」

「俺、変わろうかと思って」

杉本も横に座った。

「風花」

「龍樹、今日はごめんね。言い過ぎだよね、あれ」

「いや、気にしてないよ」

風花はホッとしてうっすらと涙目になった。

「あんなに言ったら嫌われちゃうんじゃないかと不安になったの。それに、昨日の女の子、お似合いだったから」

「あのさ、俺パンロンドに入って来た時すぐトンズラしようと思ってたんだ」

「トンズラ、、、」

「だけど修造さんがいて、親方がいて、藤岡さんがいて江川さんがいて、そして風花がいて。みんなが俺の面倒を見て、仕事も面白くなってきたし辞めれる訳ねえだろって今は思いだして」

風花は黙って聞いていた。

「俺には風花みたいなしっかりした人が必要なんだ。俺は風花がどんなにきつく叱ってきても全然悪い気がしない。それは風花が俺の為に言ってるってわかってるからね。いつもありがとう」

風化は顔が赤くなった。

「私、いつもそばにいてくれる人がいいの。振り向くといつも見ていてくれて、声をかけてくれて困った時には助けてくれる人。」

「それって俺のことだね」

風花は下を向いて頷いた。

「でも、1人でどこかに行くんなら私多分3日で嫌になっちゃうから」

「3日!短すぎるだろそれ」

「冗談よ。じゃあ一週間ね」

「わかったよ一週間以上何処かに行かない」

「フフフ」風花はこのやりとりが面白くてはじける様に笑った。

そしてグリーンの包装紙に赤いリボンの包みを渡した。

「私ねクリスマスプレゼントを買ったのよ」

「えっ」

「はいこれ」

俺にプレゼント!

「やった!」

「先こされちゃったけどこれ」

そして似たような大きさのプレゼントを風花に渡した。

「あ!」包みを丁寧に開けた風花が言った。

「同じマフラー!ウフフ」

「店員さんが言ってただろ。これが一番あったかいって」

ほんとあったかいわね

うん、あったけえ

俺たちお似合いだな

おわり

このお話しは2021年12月22日(水)にパン屋のグロワールのブログに

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